2019年3月8日(金)から3月11日(月)まで開催された、TAAF2019東京アニメアワードフェスティバルが閉幕。
世界各国から多種多様なアニメーション作品が毎年池袋に集結。
これだけの作品数をみられる機会はなかなかありません。
本稿では筆者が鑑賞した短編作品の中から見事受賞を果たした2作品をご紹介します。
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東京アニメアワードフェスティバルとは
東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)は、「新たな人材の発掘・育成、アニメーション文化と産業の振興に寄与することを目的」とした国際アニメーション映画祭です。
2014年より開催され、2019年で6回目の開催となりました。
日本国内で未興行のアニメーション作品を対象にした「コンペティション部門」、日本国内で発表されたアニメーション作品を対象とした「アニメ オブ ザ イヤー部門」、アニメーション業界への貢献を顕彰する「アニメ功労部門」が設置されています。
各部門にエントリーされたアニメーション作品が上映される劇場は、新文芸坐のほかにも、いくつかの会場があり、映画祭に訪れた観客は好きな作品を目当てに歩くことができます。
2019年TAAFの受賞結果
『アナザー デイ オブ ライフ』プロデューサーのJarosław Sawko
2019年のコンペティション部門には56の国と地域から793本もの応募数がありました。
長編コンペティション部門グランプリを受賞したのは、ポーランドのアニメ作品『アナザー デイ オブ ライフ』。
アンゴラ内戦の様子をワルシャワから出向いた記者カプシンスキの体験に基づき、アニメーション作品に仕上げました。
しかもこの作品を魅力的にさせたのは、ドキュメンタリーとアニメーションが融合している作風です。
2人の監督ラウル・デ・ラ・フエンテとダミアン・ネノウが、それぞれ異なる特性で持ったドキュメンタリーとアニメーションという表現者の枠を超えた点に、高いクオリティが感じられるものでした。
そのほか、受賞結果は以下の通りです。
コンペティション部門
長編アニメーショングランプリ『アナザー デイ オブ ライフ』
(ポーランド・スペイン・ベルギー・ドイツ・ハンガリー)
長編アニメーション優秀賞『パチャママ』
(フランス・ルクセンブルク・カナダ)
短編アニメーショングランプリ『花咲く道 11歳』
(ベルギー・オランダ)
短編アニメーション優秀賞『聖者の機械6–前へ進め』
(スペイン・フランス)
短編アニメーション豊島区長賞『黄昏のクインテット(五重奏)』
(中国)
アニメ功労部門
キャラクターデザイナー 大河原邦男(代表作:『機動戦士ガンダム』他)
アニメーター 小林治(代表作:『新・ど根性ガエル』他)
脚本家 酒井あきよし (代表作:『新造人間 キャシャーン』他)
声優 杉山佳寿子 (代表作:『アルプスの少女ハイジ』他)
プロデューサー・プロダクション設立者 高橋茂人 (代表作:『山ねずみロッキーチャック』他)
撮影監督 高橋宏固 (代表作:『あしたのジョー2』他)
監督 鳥海永行 (代表作:『ニルスのふしぎな旅』他)
アニメーター 二宮常雄 (代表作:『いなかっぺ大将』他)
脚本家 深沢一夫(代表作:『母をたずねて三千里』他)
歌手 堀江美都子(代表作:『キャンディ・キャンディ』他)
アニメ オブ ザ イヤー部門
作品賞劇場映画部門『名探偵コナン ゼロの執行人』
作品賞テレビ部門『ゾンビランドサガ』
アニメファン賞『BANANA FISH』
おすすめの短編部門からアニメ作品『聖者の機械6–前へ進め』(2018)
まず傾向として言えるのは、やはりその時代の社会性が反映されたものが面白ということです。
これは実写映画もアニメーション映画も変わりなく、映像表現に共通しています。
コンペティション部門短編アニメーション優秀賞を受賞したスペインの『聖者の機械6–前へ進め』は、未知の技術が到来した未来を鋭く照射する力作です。
冒頭、群れをなす猿たちが突如飛来した黒い石盤のパワーによって技術を獲得する様は、SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせます。
一方、影絵が織りなす世界にはユニークなロボットのキャラクターが登場し、両足の車輪を転がし、前へ前へ懸命に進んでいきます。
独創的な短編アニメを創り上げたジョジー・マリス監督
ペルー・チリ出身のジョジー・マリス監督は直線的な物語の中で想像力を存分に発揮。
自由自在にメタモルフォーズを繰り返すイメージの連鎖はアニメーション特有の表現力でしょう。
おすすめの短編部門からアニメ作品『金魚』(2018)
今回、アジアのアニメーション作品はいずれも受賞には至りませんでしたが、そのイマジネーションは特筆すべきです。
台湾の『金魚』は、寝ている間に夢を検閲し奪ってしまう権力者に抗う特殊能力を持った少年の物語。
設定の背景には、民主主義が確立されていなかった1980年代の台湾の過去があります。
上映後に登壇した本作のフィッシュ・ワン監督は「今になってやっとこの時代にフォーカスできるようになった。暗い部分をしっかり伝えていきたい」と話します。
台湾の政治的に暗い時代をあえてアニメで描いたフィッシュ・ワン監督
古く中国で皇帝や貴族たちに愛玩された金魚は富の象徴としてアジア圏に広く伝わっています。
文化大革命時には、旧体制の象徴として破壊の対象になったほどです。
本作には台湾の怪異譚としての趣をもちながら、恐怖政治の歴史が反映された時代の鏡としての側面があります。
日本勢の不振
昨年を大きく上回る作品応募数で賑わいをみせた2019年度開催でしたが、残念であったのは日本の作品がコンペ受賞にいたらなかったことです。
実際、これだ!と思わず押したくなうような作品が日本勢には見当たりませんでした。
技術力の高さは世界レベルを常に保っているとしても、観る者に与える思想的なテーマが弱いという印象です。
これはアニメーションに限らず日本映画にも言えることですが、その時代の社会に対しての危機意識を持っていないクリエーターたちは作家としての足場を定位することができず、大きな力をもって社会を変えていくことは出来ません。
日本のアニメーション界には確かな社会性に裏打ちされた批評意識が必要なのかもしれません。
まとめ
長編アニメーション優秀賞『パチャママ』のファン・アンティン監督(左)
現実を手付かずの状態でそのまま映し出す実写映画に対して、アニメーションは描きたいものを描き、動かしたいものを動かす。そこに苦労はあれど、それ自体を映像作家の意図のまま、変幻自在な表現形態だともいえるでしょう。
世界のクリエーターたちは、おそらくそうしたアニメーションの根源性を意識しています。
2019年の長編アニメーションの優秀賞には『火星人メルカーノ』で知られるファン・アンティン監督の『パチャママ』が入賞しました。
開催時の上映後のトークショーでファン・アンティン監督は、インカの歴史を調べるためにインディオの住む地域に現地入りを行い、民族の歴史を知る人たちに入念な取材活動をこなったそうです。
そして『パチャママ』は、完成させるために14年の歳月を掛けました。その間にフランスで製作するスタジオの協力者の交代や、様々な困難なことも多かったようです。その思いがあっての入賞なのでしょう。
今、日本のアニメーションは自国の特有のコンテンツであるとは言い切れず、かなり節目にきているといえるのかもしれません。
まさに国際的なアニメーションが集まるフェスティバルという場にあって、その脱出の糸口が見えてくるはずです。