『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月8日(金)公開
スパイダーマン史上初のアニメ映画にして、アカデミー賞受賞の歴史的傑作の誕生です。
多次元のスパイダーマンが一堂に会する最高のエンタメにして、ヒーローとは何かを問う映画『スパイダーマン:スパイダーバース』を解説します。
CONTENTS
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Spider-Man: Into The Spider-Verse
【監督】
ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
【キャスト】
シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ、キミコ・グレン、ジョン・モラニー、マハーシャラ・アリ
【作品概要】
50年以上の歴史を持つアメリカを代表するヒーロー、スパイダーマンシリーズ初のアニメ映画。
第91回アカデミー賞にて長編アニメーション賞を受賞しました。
監督はCGアニメ映画『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(2012)で注目を浴びたピーター・ラムジーとボブ・ペルシケッティ、ロドニー・ロスマンの3人体制。
脚本は『LEGO ムービー』(2014)のフィル・ロード。
主人公マイルスの声は人気歌手のシャメイク・ムーアが務めます。
そして、ヘイリー・スタインフェルド、『グリーンブック』(2019)でアカデミー助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリ、そしてアメコミ大好きな大御所スターのニコラス・ケイジと豪華出演陣が集まりました。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のあらすじとネタバレ
ピーター・パーカーは特殊なクモに噛まれて以来10年間、ヒーロー・スパイダーマンとしての生活を送っていました。
一方、中学生のマイルス・モラレスは、警察官の父の教育方針で寮制の進学校に転校させられ、友達もできず馴染めない日々を送っていました。
毎日の勉強に疲れたマイルスは、わざとテストで酷い点を取って退学になろうとしますが、教師に見抜かれて咎められます。
ある日の授業で遅刻したマイルス。
嫌味を言う教師に彼が冗談を言うと、同じく最近転校してきたグウェンという女の子だけが笑ってくれました。
宿題に疲れたマイルスは仲のいい独身の叔父、アーロンの家に行きます。
グウェンのことを相談すると、「よお!っていって自然に肩を触ればいいんだよ」と教える叔父。
叔父は自由奔放に生きており、兄であるマイルスの父や親戚からは疎まれていましたが、マイルスはそんな彼が大好きでした。
叔父はスプレーアートが好きなマイルスのために、地下鉄の線路の奥にある秘密のスペースに連れて行ってくれます。
そこで、スプレーを好きなだけやっているとマイルスに変な色をした蜘蛛が飛びつき、噛みついてきました。
すぐに蜘蛛を叩き潰し気にしていなかったマイルスでしたが、翌朝から異変が起こります。
着ていた服がきつくなり、周りの人間の声がいつもよりクリアに聞こえ、そして手が色んなものにくっついてしまいます。
それでも何とか誤魔化して過ごしていましたが、叔父のアドバイス通りに「よお」とグウェンの肩を押そうとしたら、彼女の髪に手がくっついてしまいました。
髪を無理やりハサミで切り取ったため、グウェンは変な髪形になってしまい、気まずい雰囲気に。
マイルスは耐えきれず学校を飛び出そうとしますが、警備員に追われた挙句、窓から脱出します。
信じられないことに彼の足は建物の外壁にくっつくようになっていました。
スパイダーマンのコミックスを読んだマイルスは、特殊能力に目覚めるまでのエピソードが今の自分と酷似していることに気づきます。
「スパイダーマンが2人いるわけない」
マイルスは刺されたクモを見に行こうと地下鉄の奥に向かいます。
彼がそこで蜘蛛の死骸を見ていると、地下から大きな音がします。
地下ではスパイダーマンが巨大なヴィラン、グリーンゴブリンと戦っていました。
グリーンゴブリンに命令をしているのは街の犯罪組織のボス・キングピン。
彼は装置を使い異次元への道を開こうとしており、スパイダーマンはそれを阻止しようとしていました。
戦いに巻き込まれたマイルスはスパイダーマンに助けられます。
スパイダーマンは装置を止めるUSBを差し込もうとしますが、装置は誤作動を起こし、異次元への扉が開いて地上の街にも地震が起きてしまいます。
マイルスは吹き飛ばされたスパイダーマンに駆け寄りますが、彼は瓦礫に挟まれ動けず、マイルスにUSBを託します。
その後、怒り狂ったキングピンにスパイダーマンは殺されてしまいました。
マイルスもキングピンの手下のプラウダーという覆面の怪人に追われますが、身体能力を駆使して逃げ切ります。
マイルスは学校ではなく自宅に戻ります。
父にスパイダーマンは好きかと聞くと、彼は自警団気取りの奴は好きじゃないと返しました。
その後、スパイダーマンが地震による事故で死んだというニュースが流れ、NYは悲しみに包まれます。
死後初めて、彼の正体は26歳男性のピーター・パーカーだと明かされ、彼の妻MJや育て親のメイ叔母さんがニュースに出ていました。
マイルスは思わず、アメコミグッズ屋でコスプレのスパイダースーツを手に取ります。
サイズが合わないかもと店主に言うと、「いずれ合うようになるさ」と言われました。
スパイダーマンの追悼式では、MJの「彼は逝きましたが、私たち一人一人がスパイダーマンなのです」というスピーチをスパイダースーツを着た大勢の人々が聞いていました。
マイルスは自分が新たなスパイダーマンになることを決意し特訓を始めますが、ビルからビルへ飛び移るのを失敗し、預かったUSBを壊してしまいます。
夜、ピーター・パーカーの墓に謝りに来たマイルスの肩が誰かに掴まれます。
それは異次元が開いたことでやってきてしまった、別の世界のスパイダーマン、ピーター・B・パーカー。
彼はMJとは離婚、メイ叔母さんとは死別し、体が衰え極貧の中でヒーロー活動をしていた36歳のさえないスパイダーマンでした。
マイルスは事情を話し、協力を頼みます。
ピーターは能力を使いこなせていないマイルスに協力するのを嫌がりましたが、元の世界に戻るために仕方なく引き受け、マイルスのコーチをしながらキングピンの研究所に忍び込むことにします。
目的は組織の研究データが入ったPCを盗み出し、またUSBを作ること。
木から木へ飛び移ることもできないマイルスでしたが、彼には手から電気を出したり透明になる能力があると分かります。
ピーターは手際よくPCのところまでやってきますが、そこで組織の科学者の女性に見つかってしまいます。
彼女は6本の機械のアームを自在に操るヴィラン、“ドクターオクトバス”(ドッグオク)でした。
彼女の猛攻を避けていると、白いスーツのスパイダーマンが現れ2人を救います。
白いスパイダーマンの正体はグウェン。
彼女も異次元を開く実験のせいで外界からやってきたヒーロー“スパイダー・グウェン” でした。
特殊な直観力を持った彼女は、マイルスと同じ学校に入り、そこでスパイダーマン化して学校の壁に貼りつく彼を目撃していたんです。
その頃、キングピンはスパイダーマンたちの始末を配下に命令していました。
キングピンには、スパイダーマンと戦ったせいで、隠していた裏家業の姿を妻と子供に目撃された過去がありました。
愛想を尽かせて家を出て言った妻子は直後に交通事故死。
彼は妻子に再び会うために異次元を開こうとしていました。
一方、マイルスたち3人は何か糸口を掴めないかとメイ叔母さんの家に行きます。
メイ叔母さんは、死んだはずのピーターがいることに驚きますが、すぐに別次元のピーターだと理解します。
彼女は3人を、亡くなったピーターが使っていた倉庫に連れて行きます。
そこにはかつて彼が使っていた沢山のスパイダースーツがあり、さらに別次元からやってきた3人のスパイダーマンがいました。
1933年の白黒の世界からやってきたパイダーマン・ノワール、遥か未来からやってきたスパイダーマン型ロボを操る女子高生のペニー・パーカー、動物が喋るカートゥーンの世界からやってきた豚のスパイダー・ハム。
彼らは環境の変化によって細胞が死滅に向かっており、死ぬ前になんとか元の世界に戻ろうとしていました。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の感想と評価
スパイダーマン史上初のアニメ映画にしてアカデミー長編賞アニメーション賞を受賞した本作。
それも納得、斬新で超ハイクオリティなアニメーションと、その手法を使ってヒーローとは何か、スパイダーマンとは何かを問うメタ的かつ熱い映画になっていました。
アニメーション並びにアメコミの映画化というジャンルにおいて決定的な分岐点となる作品ではないでしょうか。
革命的アニメーション
まずとにかく凄いのはアニメーション。
実写と見まがうようなリアルすぎる3Dの風景の中を敢えて2Dのアメコミっぽい絵のキャラクターたちが所狭しと動き回る今まで見たことないような映像が全編にわたって繰り広げられます。
ソニーピクチャーズはこの革新的技術を特許出願しています。
YouTubeの予告編や本編映像を止めて見れば分かりますが、物凄く良く動くアニメーションでありながら、どのコマを切り取っても一枚絵としてかっこよく構図がキマっているのも特徴。
アメコミならではの擬音表現や「To be continued」のような文字もそのまま画面に登場してくるので、アメコミを読んでいてそのまま絵が動き出したかのような感覚に襲われます。
また、途中からは明らかに絵柄も世界観も違うキャラクターたちが登場します。
彼らが同じ画面で違和感なくアクションを繰り広げるという、技術の発達ゆえに出来るすさまじいシーンも続き、このアニメーションだけで賞を与える価値があると思わされます。
アメコミを読んだことがない人でもアメコミを読むという感覚を追体験させてくれる革命的表現です。
“等身大のヒーロー”スパイダーマン
しかし上記の表現手法は単なる技術のひけらかしではなくスパイダーマンというヒーローの本質を突くためのものです。
スパイダーマンは昨年亡くなったマーベルコミックスの顔といえる編集者スタン・リーの原案と、作画家スティーヴ・ディッコのデザインで1962年に誕生。
以来、最も親しみやすいアメコミキャラクターの1人として世界中で愛されてきました。
日本で一番ヒットしたアメコミ映画も、いまだに実写版の最高傑作と言われるサム・ライミ監督の「スパイダーマン」3部作。
なぜスパイダーマンは人々に愛され共感を集めるのか。
彼は他のコミックヒーローと違い、超能力を持つ異星人でも、正義感に燃える格闘スキルを持った大金持ちでも、天才発明家でも、神の血族でもない、たまたま特殊能力を手に入れた市井の人間です。
何者でもなかったオタク高校生が能力に目覚め、等身大の人間として悩みながらもヒーローとして頑張る姿は大勢の人々を勇気づけてきました。
スタン・リー自身も、かつてはやせっぽちのオタクでユダヤ系という出自ゆえに差別を受けながら育ってきた過去があり、スパイダーマンはそんな彼の人格を投影したものでした。
神話のような超人たちではなく、コミックや映画を見ている側の人間が自らの選択でヒーローになる話を彼は作ったのです。
本作『スパイダーマン:スパイダーバース』のアニメーション手法は、ただの人間がアメコミの世界でだんだんとヒーローになっていく物語を追体験させるためのもの。
MJが「あなたたち一人一人がスパイダーマンなのです」と語るシーンもありますし、マイルスが初めてスパイダースーツを買った時に「いずれサイズは合う」=「君もスパイダーマンになれる」と言ってくれる店主はスタン・リーそっくりだったりと「誰だってヒーローになれる」というメッセージを周到に仕込んでいます。
そして重要なのはマイルスがいつ“真のヒーロー”になったのかという点です。
本作のアニメ表現がアメコミ的になっていくのはマイルスが蜘蛛に噛まれてからですが、あれは能力に目覚め、アメコミの世界観に入っていったきっかけに過ぎません。
彼が本当の意味でヒーローになるのはアーロンおじさんという大事な人を失い、父から自分の選択をしろと言われるシーンです。
能力を得たから、事件に巻き込まれたからではなく、自分の力を人のために責任もって使うと決意したからこそ、特殊能力が使いこなせるようになります。
ただ特殊能力を持つだけではヴィランと同じ、ヒーローになるためには心が大事なんだとわかります。
そしてそれはマイルスだけでなく、ほかのスパイダーマン達も同じ。
みなコミックに登場したキャラクターですが、ロボを操作する少女や喋る豚など馬鹿馬鹿しく見えてしまう存在が多いです。
しかし、彼らもそれぞれ大事な人を失い、それを乗り越えて戦ってきた正真正銘のスパイダーマンの魂を持っています。
そしてキャッチコピーのとおり「運命を受け入れて」現実と戦うスパイダーマンたちと対になる悪役として、妻子が死んでしまった現実を受け入れられないキングピンの存在も重要です。
次元を変えて選択を変えても、自分が変わらない限り結果は同じになるとわかるシーンもあり、「選択をしてからどうするかが大事」という普遍的なメッセージも伝わってきます。
楽しく何でもアリのアメコミの世界観を再現しながら、本質的なヒーロー論、人生論を問う奥深い傑作です。
まとめ
本作の脚本・製作を担当したのは『21ジャンプストリート』(2012)『LEGO ムービー』(2014)の監督や『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017)の製作を担当したフィル・ロード&クリストファー・ミラーのコンビ。
彼らはフィクションの世界をメタ的に俯瞰しギャグも飛ばしながら、その本質を問う熱いメッセージをぶつけてくる作家で、『スパイダーマン:スパイダーバース』の成功は彼らの功績が大きいと思います。
本作のおかげでみんなの「親愛なる隣人」でありながら孤独な存在だったスパイダーマンが、それぞれに一人ぼっちではないと知ることができました。
そしてこの映画を象徴するスタン・リーの名言や彼に対する献辞がエンドロール中に出るので、最後まで席は立たないでくださいね。