2007年に、英国BBCで1話7分のショートアニメとしてスタートし、2016年の「国際エミー賞キッズアワード」にてアニメーション部門を受賞している、クレイアニメ「ひつじのショーン」シリーズ。
日本でも放送され人気の高い「ひつじのショーン」シリーズの、劇場版2作目となる『ひつじのショーン UFOフィーバー!』。
舞台を宇宙に広げ、ショーン達とお馴染みの仲間が活躍する、本作の見どころを紹介します。
映画『ひつじのショーン UFOフィーバー!』の作品情報
【公開】
2019年公開(イギリス・フランス合作映画)
【原題】
Shaun the Sheep Movie: Farmageddon
【原案】
リチャード・スターザック
【監督】
リチャード・フェラン、ウィル・ベチャー
【脚本】
ジョン・ブラウン、マーク・バートン
【製作】
ポール・キューリー
【作品概要】
アカデミー賞を多数受賞している、イギリスのアニメーション製作会社「アードマン・アニメーションズ 」の人気シリーズ『ひつじのショーン』。1997年に公開された『ウォレスとグルミット、危機一髪!』に初登場した、ショーンを主役にしたシリーズは、全世界でファンを増やし続けています。
2015年公開のシリーズ初となる劇場版作品『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』は、全世界で1億600万ドルの収益を上げ、「第88回アカデミー賞 長編アニメ賞」にもノミネートされました。劇場版2作目となる『ひつじのショーン UFOフィーバー!』では、前作の監督、リチャード・スターザックに代わり、長年「ひつじのショーン」シリーズに携わってきたクリエーター、ウィル・ベチャーが初監督を務めています。
映画『ひつじのショーン UFOフィーバー!』あらすじ
イギリスの田舎町「モッシンガム」。
「モッシンガム」の住人が、森でUFOに遭遇した事件が発生し、町はUFOの話題で持ちきりになります。
一方、町の外れにある牧場で暮らす、ひつじのショーンは、仲間のひつじと楽しく暮らしていました。
ですが、ショーン達が遊んでいたフリスビーが、牧場主の使用していたトラクターの中に巻き込まれ、トラクターが壊れてしまいます。
この件から、ショーンの幼馴染で、牧場内を取り締まる牧羊犬のビッツァーに睨まれ、ショーン達は遊びを規制されてしまいます。
退屈したショーンは、偶然ピザのチラシを見つけた事から、勝手にピザを注文しますが、これもビッツァーにバレてしまい、全て取り上げられてしまいます。
落ち込むショーン達、そこへ、ビッツァーが怒った形相で戻ってきます。
配達されたピザの中身は、誰も食べていないにも関わらず、空になっていました。
次の日、お腹をすかせたショーンは、牧場内に食べかけのピザが落ちている事に気づきます。
落ちているピザを辿った、ショーンの前に姿を見せたのは、宇宙人の子供、ルーラでした。
ルーラは超能力で、自由に物を動かす不思議な力を持っており、ショーンはルーラの力を面白がります。
ショーンとルーラは、壊れたトラクターに乗り込み、超能力で動かして遊びますが、トラクターの暴走に気付いたビッツァーが止めに入ります。
ショーンとルーラは、トラクターを止めて逃げ出しますが、そこへ牧場主が現れて、全てをビッツァーの仕業と思い込みます。
しかし、トラクターが暴走した後の牧場に、ミステリーサークルのような模様が出現した事で、牧場主は町のUFO騒動に便乗し、牧場でUFOイベント「ファーマゲドン」を開催して金儲けする事を企みます。
牧場主は、ビッツァーに罰として、UFOイベントの会場と、イベントの象徴となる高い塔の設営を命じます。
ひつじ小屋に逃げ込んだ、ショーンとルーラ。
ルーラは、ひつじ小屋の道具を浮かして、あるシンボルを作ります。
そのシンボルを見たショーンは、自分が注文をしたピザ屋のシンボルマークである事に気付き、その近くに、ルーラが乗ってきたUFOがあると知ります。
ショーンは、ルーラをUFOのある場所まで送り届ける事を決意し、ショーンとルーラは牧場の外に出ます。
一方、UFO目撃情報を受けた、宇宙人探知省の秘密工作員、エージェント・レッドは、相棒のロボットのマギンズと、部下の工作員たちと共に、宇宙人の行方を探し、捕獲しようとしていました。
映画『ひつじのショーン UFOフィーバー!』感想と評価
人気テレビシリーズの、2作目の映画作品となる『ひつじのショーン UFOフィーバー!』。
テレビシリーズでは、ショーン達が暮らす、牧場での出来事がメインとなっています。
2015年に公開された前作『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』では、街が舞台となり、物語のスケールが大きくなりましたが、『ひつじのショーン UFOフィーバー!』では、宇宙が舞台という、劇場版ならではの、壮大なスケールとなっています。
「ひつじのショーン」シリーズの魅力は、個性豊かなキャラクター達となっています。
主人公であるショーンは、好奇心旺盛でいたずら好きですが、頭が良く、仲間のピンチを閃きとアイデアで救う、仲間思いな性格。
ショーンの親友で、牧羊犬のビッツァーは、働き者ですが、ショーン達に振り回されたり、自身のドジな性格から、さまざまなトラブルに巻き込まれたりしてしまう損な役回り。
ショーンとビッツァーのメインキャラクター以外にも、陽気で団結力が強い、ショーンの仲間のひつじ達。
かわいらしい見た目と、いたずら好きでヤンチャな性格を持つ、子ひつじのティミー。
ビッツァーの飼い主で、怠け者で欲張りな牧場主など、個性豊かなキャラクターが多数登場し、それらをセリフ無しで表現しています。
『ひつじのショーン UFOフィーバー!』では、全くシリーズを見た事が無い人でも、ぞれぞれのキャラクターを、序盤の騒動を通して紹介し、本編に入るという、分かりやすい構成となっています。
ストーリーも、全くセリフを用いずに、ショーンとルーラとの遭遇で始まる冒険、宇宙人捕獲部隊との攻防戦、宇宙人イベントを企画して金儲けを企む牧場主と、それに巻き込まれたビッツァーとひつじ達という、それぞれのストーリーを、クライマックスに全て1つにまとめるという、入念に練られた構成となっています。
ショーンや、敵であるエージェント・レッドの、細かい心情の変化なども表現してしまう辺り、本当にお見事の一言です。
「ひつじのショーン」シリーズはクレイアニメなので、120人体制で毎日8時間の撮影を行っても、1日に15秒しか撮影ができません。
細かい積み重ねで本作を完成させた、アードマン・アニメーションズの職人技が光ります。
「ひつじのショーン」シリーズは「子供向けの作品」というイメージで見られがちですが、実はそうではありません。
「ひつじのショーン」シリーズの原案を担当し、前作の『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』で監督を務めたリチャード・スターザックは、インタビューで「子供向けに作っている訳じゃない、自分たちが笑える事は、他の人も楽しんでもらえると思っている、ターゲットは自分たち」と語っています。
その言葉通り、テレビ版でも、ショーンが映画『パルプフィクション』のジョン・トラボルタと同じ踊りを披露したり、ハリウッドの有名な観光地「チャイニーズシアター」で、ハリウッドスターが手形を残す式典のパロディをしたりと、大人向け、特に映画好きに向けた、細かいパロディやオマージュが多い事が特徴です。
『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』でも、『羊たちの沈黙』や『タクシードライバー』など、名作映画へのオマージュが多数盛り込まれていましたが、『ひつじのショーン UFOフィーバー!』でも数々のSF映画へのオマージュが盛り込まれています。
まず、本作のストーリーは、1982年の映画『E.T.』や、1977年の映画『未知との遭遇』という、SF映画の名作がベースとなっています。
どちらも、スティーヴン・スピルバーグ作品という部分も、面白いですね。
特に『未知との遭遇』は、宇宙人と交信する時に演奏された有名なメロディや、作品を象徴する有名な巨岩「デビルズ・タワー」のパロディも入っており、製作チームの作品への愛を感じます。
また、SF映画の、名作中の名作とも言える『2001年宇宙の旅』のテーマ音楽が効果的に流れたり、秘密の扉を開ける為のメロディが、人気テレビシリーズ『X-FILE』のオープニングテーマだったり、とにかくSF映画好きなら、ニヤリとしてしまうネタが盛り込まれています。
これらの小ネタは、映画を知らなくてもストーリーに関係ない、お遊びとなっており、映画本編は、地球と宇宙を舞台にしながら、最後は友情や家族愛を描いた、心温まる作品となっていますので、普段SF映画をあまり見ない人でも楽しめますよ。
まとめ
「ひつじのショーン」シリーズは、年齢を問わず楽しめる作品である事は、前述したとおりですが、前作の『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』では、ペットを簡単に捨てる無責任な飼い主など、社会が抱える問題点も描いていました。
『ひつじのショーン UFOフィーバー!』は、前作よりも、テレビ版の雰囲気を大事にしている作品なので、目に見えて重いテーマが込められてはいませんが、偶然出会った宇宙人、ルーラの為に、さまざまなトラブルを、仲間と力を合わせて乗り越えていくショーン達の姿に、我々は学ぶものがあると感じます。
ショーンの冒険を、軽快なテンポで展開させ、笑って泣ける、文句なしのエンターテインメント作品に仕上げた『ひつじのショーン UFOフィーバー!』。
シリーズ未見の方も、本作をキッカケに、緻密に作られた「ひつじのショーン」の世界に、触れてみてはいかがでしょうか?