Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

アニメーション

Netflix映画『クロース』ネタバレ感想と考察評価。サンタクロースの新説をセルジオパブロスが心温まるアニメ作品へと昇華

  • Writer :
  • からさわゆみこ

セルジオ・パブロス監督が描くサンタクロースの誕生秘話は、子供から大人まで夢を繋いでいく。

どんなことにも始まりはありますが、どこで始まった慣習なのかも気にせず、今では恒例になっているイベントにも起源があります。

その中でも「クリスマス」になぜ、サンタクロースがプレゼントを配るようになったのか。これはとても謎の多いイベントですが、その詳細を描いたアニメ映画『クロース』をご紹介します。

この作品は怠け者で落ちこぼれの郵便配達員が、子供の描いた絵を偶然拾ったことから「サンタクロース」誕生の秘話へとつながる物語を描いています。

映画『クロース』の作品情報

Netflixクロース

【配信】
2019年(アメリカ映画)

【監督】
セルジオ・パブロス

【原題】
Klaus

【キャスト】
ジェイソン・シュワルツマン、J・K・シモンズ、ラシダ・ジョーンズ、ウィル・サッソー、ノーム・マクドナルド、ジョーン・キューザック

【作品概要】
2019年にスペインで制作された、サンタクロースの誕生にまつわる秘話を新しい観点で描いたアニメ映画です。

監督は『怪盗グルーの月泥棒』(2010)や『スモール・フット』(2018)の原案・制作に携わったセルジオ・パブロスです。

パブロス監督はこのアニメの制作にあたり、スペインの制作会社SPA Studiosに世界23カ国から総勢250名のスタッフを招集させ、2Dの手描きアニメーションとして制作をしました。

また、監督はインタビューで「有名だけど生い立ちが不明なキャラクターを描きたかった。そして、背景はシールを貼ったような図にしたくはない。つまり、これはCGを使わない現代のアニメなんだ」と語っています。

ディズニーアニメーションにも携わってきたパブロス監督は、本作でディズニーの手描きアニメ時代の世界観を再現したといえるのです。

作品は第92回アカデミー賞で長編アニメーション部門にノミネートされ、第73回英国アカデミー賞ではアニメ映画賞、第47回アニー賞を受賞しました。

映画『クロース』のあらすじとネタバレ

Netflixクロース

ジェスパーは「ロイヤル郵便サービス」の局長の息子です。彼は父親のコネで「ロイヤル郵便アカデミー」に入り9カ月間の研修を受けていました。

しかし、彼は郵便の仕分け、伝書バトの取り扱い、ワレモノの運び方、全てにおいてまともにできない落ちこぼれな上に、局長の息子という立場を笠に着て威張ったり怠けてばかりしていました。

アカデミーをわざと落第したジェスパーのことを局長は、父親として将来を心配し配達員として厳格な配属辞令をジェスパーに言い渡します。

それは最北の島「スミレンズブルク」の郵便局に行き、1年間で6000通の手紙にスタンプを押すこと。そして、それが達成できなければ親子の縁を切るというものでした。

それまで何不自由のない贅沢な暮らしをしてきたジェスパーにとって、誰の助けもない見知らぬ街で仕事どころか、暮らすことさえどうしたらいいのか。彼には考える余地などまったくありません。

ジェスパーは粗末な馬車を与えられて、スミレンズブルクへとイヤイヤ出発しました。

以下、『クロース』ネタバレ・結末の記載がございます。『クロース』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

Netflixクロース

ジェスパーはスミレンズブルクに向かう船着き場で連絡船の船長モーゲンスに会い、一緒に島に上陸し案内をしてもらいました。

島は寒さが厳しい上に人気が少なく、重苦しく暗い空気が漂っていました。建物が傷んでいたりオブジェのようにぶら下がった様子を「伝統的な文化」と説明をします。

そして、島の中央広場に到着するとジェスパーは「歓迎セレモニーはないの?」と言います。するとモーゲンスは不敵な笑みを浮かべて「あの鐘を鳴らすとセレモニーが始まる合図さ」と教え、ジェスパーは広場の中央にある鐘を勢いよく鳴らしました。

しかし、それはジェスパーの歓迎セレモニーの合図なんかではなく、街の住民達の闘いの合図でした。

ジェスパーの配属されたスミレンズブルクの街は、「クラム族」と「エリングボー族」がいがみ合い、争いごとの絶えないところでした。

彼は配属初日からひどい目にあいますが、こんなものではありません。この街はふたつの部族が争い合っているので手紙を送り合う習慣がないのです。

つまり到底6000通の手紙にスタンプを押すことなどできそうになかったのです。

しかも、子供達は学校にも行かせてもらえずに読み書きもろくにできません。ジェスパーは通りかかりに、街の学校の中の様子を伺います。

しかし、そこは教室はなく若い女性が魚をさばいて売っていました。その女性はアルバといい、その学校に赴任してきた教師でした。

部族の争いに巻き込まれた子供たちは学校にも行けずにいたので、教える相手がいません。アルバは魚を売ったお金を貯めて他の土地に移ろうと考えていました。

あい変わらずジェスパーは、あてもなく島中を手紙の集配に歩いていました。ある日、モーゲンスは言います。

「この街では言いたいことはあきらかで、手紙なんて送らなくても伝わる」と。

ジェスパーは手紙の存在がないことに絶望していると、どこからか子供が描いた絵の紙が舞い飛んできます。

絵の持ち主は近くの家に棲む子で、上階の窓から返してくれるように言います。ところがジェスパーはあることを思いつくのです。

「このままじゃ渡せないけど、郵送はできる。この絵を封筒に入れて1セント払ってスタンプを押す。僕が配達して君はこの絵を受け取る」

その子は家の前に恐ろしい形相で立っていた父親に「郵送料を払って」と言い、驚いたジェスパーはその絵を封筒に入れたまま逃げ、持ち帰りました。

ある日、ジェスパーは島のはずれの森に棲む木こりのクロースを訊ねてみてはどうかとモーゲンスに言われ、行ってみることにしました。

クロースの家にはたくさんのおもちゃがありましたが、子供がいる様子はありません。クロースは何も言わず仁王立ちしてジェスパーの前に現れます。

怖くなって逃げだそうとした時にジェスパーのカバンから、一通の手紙が飛び出しクロースの目の前に舞い落ちるのです。

家に閉じ込められた子供(自分)を描いたその絵を観たクロースは、その子を哀れんで夜中に自分の作ったおもちゃを届けようと考えます。

一方ジェスパーは耐えきれずに島を出ようと郵便局を飛び出し、そこでクロースと会い絵を描いた少年の家までおもちゃを届けました。

それをきっかけにして子供達に、クロースさんに手紙を送るとおもちゃがもらえると口コミが広がります。

ジェスパーはそれをヒントにしてレターセットを作り子供たちに配り始め、字の書けない子には学校へ行くよう促しました。

そこからクロースとジェスパーの二人三脚で、子供達へのプレゼント配達が始まります。

クロースの家にあるおもちゃは、クロースと亡き妻が子供が授かるまで作り続けたものでした。2人には子供が授からないまま妻は亡くなってしまい、大量のおもちゃだけが残っていたのです。

ある日、ジェスパーは街の意地悪な子供には木炭を置いていきました。そして、その子に「悪い子はおもちゃはもらえない。悪い子リストがある」と嘘を言います。

ところがその嘘も子供達にお手伝いや良い行いをすれば、おもちゃがもらえるというふうに伝わりました。たちまち街の中が綺麗になったり、人々のいがみ合いが減り、平和的な交流が生まれていったのです。

クロースは「本当に欲のない行いは、人の心を動かす」と言い、ジェスパーは「善い行いをする人には目的がある。子供はおもちゃだ」と言うのでした。

しかし、その様子を気に入らないクラム族とエリングボー族の長老たちは、ジェスパーとクロースを街から排除しようと企みます。

長老達はジェスパーは手紙の配達を6000通達成したら島を出ることを知り、ロイヤル郵便サービスにジェスパーの活躍を書いた手紙を1万通送りつけるのでした。

おもちゃの残りが少なくなって来たある日、クロースはクリスマスを目指しておもちゃ作りを再開すると決め、ジェスパーや隣接した村のサミー族、教員として復帰したアルバたちがその手伝いをします。

ところがクリスマスを目前に長老たちの手紙をみたジェスパーの父親が迎えに訪れました。手紙作戦のことが街の住民達に知れてしまいます。

そして、長老たちは次にクロースの作ったおもちゃを奪い取ろうとしますが、その企みは子供達がアルバに伝えていたので、おもちゃは奪われず無事でした。

ジェスパーは島での奇蹟のできごとをきっかけに、スミレンズブルクに残り配達員を続けることを決めました。

そして、アルバと結婚し、毎年クリスマスになるとクロースと共にプレゼントを配っています。

映画『クロース』の感想と評価

Netflixクロース

親の立場でいると子供にはクリスマスというイベントを使って、1年間「善い子」でいたら……という大義名分がとても都合がよいのです。

ところが「サンタクロースはいるのか? いないのか」と、いう子供の疑問が必ずやってきて、その疑問に対して大人は少なからず説明に困惑することでしょう。

この映画を観るとサンタクロースが単なる「伝説の人」ではなくて、実在した人であり今もその伝統が伝わっていると説明がつきます。

つまりこの作品を観たあとは、親が子供にうやむやな「嘘」をついたり、いきなり現実を突きつけて幻滅させない「説明書」をもらえたと感じるのです。

そしてこの作品は「概要」でも説明した通り、2Dの手描き感があるので観る者に優しさやぬくもりを与えてくれます。

なぜそう感じるのかは、250名の技術者の手による愛情が込められた、結晶ともいえる作品だからでしょう。

まとめ

Netflixクロース

本作はサンタクロースの誕生秘話を新しい観点で描いた物語でした。

子供達が抱きそうな「なぜ」は、「サンタクロースはなぜおもちゃを配るの?」「どうしてソリで運びトナカイがソリを曳くの?」「赤い服を着ているのはどうしてなの?」と、いろいろあります。

加えて笑い方からサンタのソリが空を飛ぶシチュエーションまで、とても丁寧に描いていて、大人も子供も納得できて心温まる内容でした。

そして、一通の手紙を通して、言葉では言えない自分の気持ちは手紙で伝えることもできると、この映画では教えてくれています。

1年の終わりにその年にあったことを手紙に書いて、サンタクロースに送る習慣が世界中に広がれば、毎年平和な1年になるような気持ちになります。

サンタクロースを題材にした映画は他にもありますが、この映画は現代の子供や大人達の腑に落ちる定番作品になることでしょう。


関連記事

アニメーション

Fate映画3章ネタバレあらすじ感想と結末解説【劇場版Fate/stay night[Heaven’s Feel]III. spring song】凛とイリヤの姉としての愛情と第五次聖杯戦争を解く

「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]」シリーズ最終章 須藤友徳が監督を務めた、2020年製作のファンタジーアニメ映画、『劇場版 Fate/stay ni …

アニメーション

映画『海獣の子供』感想評価とネタバレ解説。渡辺歩監督の「海・波・水の触覚」は大胆で圧倒的な表現!

アニメ映画『海獣の子供』は、2019年6月7日(金)より全国ロードショー 一番大切な約束は言葉では交わせない。 漫画家・五十嵐大介の世界観をそのままにアニメーション映画化。 『鉄コン筋クリート』(20 …

アニメーション

映画『ズートピア』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説評価。初のウサギの警察官とキツネの詐欺師ニックの活躍とは⁈

かわいい動物たちが、高度な文明社会を築いた世界《ズートピア》。 ウサギの女性ジュディが夢をかなえるため、勤務した警察での奮闘を描いたディズニー制作のアニメーションです。 演出は『塔の上のラプンツェル』 …

アニメーション

ひつじのショーン展広島美術館の開催期間と混雑情報まとめ

アードマン・アニメーションズ設立40周年記念「ひつじのショーン展」が、2017年7月15日から広島県立美術館にて開催されます。 『ひつじのショーン』は、もちろんですが!人気作品『ウォレスとグルミット』 …

アニメーション

映画『名探偵コナン 紺青の拳(2019)』あらすじネタバレと感想。国民的アニメとなった作品の今回の舞台はシンガポール!

真実vs奇術vs蹴撃─雌雄を決するトリニティバトルミステリー。 劇場版第23弾『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』2019年4月12日(金)全国ロードショー! 全世界で発行部数2億3000万冊を突破 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学