映画『犬ヶ島』は、5月25日より全国ロードショー!
『グランド・ブダペスト・ホテル』や『ファンタスティックMr.FOX』など、マニアックなまでの人気を博したウェス・アンダーソン監督。
日本を深く愛するウェス監督は、4年の歳月を掛けて、670人ものスタッフとともに心を込めて作り上げ、「黒澤明をはじめとする日本の巨匠たちから強いインスピレーションを受けて作った」とまで語った、近未来の日本を描いた『犬ヶ島』。
ユニークで愛くるしいスポッツやチーフという犬たちと、少年アタリの間に芽生えてた絆とは?
CONTENTS
映画『犬ヶ島』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Isle of Dogs
【原案・脚本・製作・監督】
ウェス・アンダーソン
【キャスト】
コーユー・ランキン、リーブ・シュレイバー、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、F・マーレイ・エイブラハム、ティルダ・スウィントン、野村訓市、高山明、伊藤晃、オノ・ヨーコ、グレタ・ガーウィグ、村上虹郎、フランシス・マクドーマンド、野田洋次郎、渡辺謙、夏木マリ、ハーベイ・カイテル、フィッシャー・スティーブンス、コートニー・B・バンス、フランク・ウッド
『犬ヶ島』のキャストインタビューのメイキング映像
【作品概要】
「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督が日本を舞台に、「犬インフルエンザ」の蔓延によって離島に隔離された愛犬を探す少年と犬たちが繰り広げる冒険を描いたストップモーションアニメ。
声優キャスト陣に、ビル・マーレイ、エドワード・ノートンといった、ウェス監督の常連俳優が参加。そのほか、スカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、オノ・ヨーコなどの豪華で多彩なメンバーも集結。日本からは野田洋次郎や夏木マリが参加。
第68回ベルリン国際映画祭のオープニング作品として上映、そのコンペティション部門で銀熊賞(監督賞)を受賞しています。
ウェス・アンダーソン監督のプロフィール
ウェス・アンダーソン監督は、1969年5月1日にアメリカのテキサス州ヒューストン生まれ。
その類い稀なユニークな才能と美意識は、世界中から熱狂的な人気を博している映像作家。
1996年の映画『アンソニーのハッピー・モーテル』で、長編映画監督デビューを果たします。
1998年に『天才マックスの世界』で、インディペンデント・スピリット賞監督賞を受賞。
2001年に『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』で、アカデミー賞脚本賞にノミネートされました。
2004年に『ライフ・アクアティック』、2007年に『ダージリン急行』の監督などを経て、2009年に初のストップモーション・アニメ『ファンタスティック Mr. FOX』が、アカデミー賞長編アニメ賞にノミネートされます。
2012年に『ムーンライズ・キングダム』で、アカデミー賞脚本賞、ゴールデン・グローブ賞作品賞にノミネート。
そして2014年に世界的にヒットを記録した『グランド・ブダペスト・ホテル』が、アカデミー賞9部門にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞作品賞を獲得、自身もベルリン国際映画祭審査員特別賞など数々の映画賞を受賞しています。
映画『犬ヶ島』のあらすじ
いまから20年後の日本…。ウニ県メガ崎市ではドッグ病が蔓延しました。
市政を掌握した小林市長は、人間への感染を考え、野良犬も飼い犬もすべて犬をゴミ島と法で定めた“犬ヶ島”に追放すること宣言。
小林市長は賛成派の団結を図るために、補佐メジャー・ドウモを呼びつけ、市長宅の護衛犬であるスポッツを真っ先に島への追放を命じました。
それからか約6ヶ月の月日が流れ、犬ヶ島では怒りと悲しみと空腹を抱えた犬たちがさまよっていました。
その犬たちのなかでも、かつては、快適な屋敷で飼われていたレックス、22本のドッグ・フードのCMに出演したキング、最強の高校野球チームのマスコットだったボス、健康管理に気を使う飼い主の愛犬だったデュークといった、ひときわ大きな5匹のグループがいました。
そんな今から思えば贅沢な暮らしをしていた元ペットの4匹たちに、飼い犬であったことを恥じろとばかりに強く生きることへの喝を入れるのが、ノラ犬である誇りを持ったチーフでした。
その時のことでした、1人の少年が小型プロペラ機を低空飛行させ、島に不時着します。
その少年の名前は小林はアタリ、かつて、自身の護衛犬だったスポッツを捜しに犬ヶ島にやって来た小林市長の養子でした。
新幹線の事故で両親を亡くして、独りぼっちになり、遠縁の小林市長に引き取られた12歳のアタリに「あなたの安全を末長く守ります」と誓ってくれたスポッツだけが、アタリが心を許せる親友でした。
アタリはレックスからスポッツのことを聞きまわってくれたことで、1度はカギのかかったゲージの檻から出られずに死んでしまったと思われましたが、それは犬違いの間違いでした。
アタリは絶望が希望に転じた時でした、上空に市庁専用の監視カメラ付きの捕獲用ドローンが飛来します。
すると、あれよあれよと言う間に、捕獲隊の市庁タスクフォースとロボット犬がアタリを捕獲。
5匹の犬たちは話し合い、多数決を取ると少年アタリを救出に襲い掛かります。
激闘の末、アタリたちは勝利をおさめるが、メガ崎市を掌握した小林市長はアタリが5匹の犬に誘拐されたと発表したのです。
アタリは養父に反旗をひるがえし、何としてもスポットを救い出そうと決意をします。
そんな愛した犬との友情に感動したレックスは、伝説の予言犬ジュピターとオラクルを訪ねて、教えを請おうと提案します。
しかし、人間に愛されたことのないチーフは、危険だと反対しますが、5匹の犬たちの多数決で従うことにしました。
ゴミ島にいながら綺麗な毛並みを維持する孤高の犬・ナツメグに少年アタリを助けてあげてと言われたことも、実は引っかかっていたのです。
一方、メガ崎市では、小林政権を批判し、ドック病の治療薬を研究していた渡辺教授は治療薬を作ることに成功しますが、軟禁されました。
またメガ崎高校で学生新聞を編集し、犬愛護活動家でもあるヒロシ編集長と交換留学生のトレーシー・ウォーカーは、背後に潜む陰謀を嗅ぎつけ、調査を始めます。
ようやくジュピターとオラクルの元にたどり着いたアタリと5匹は、もしもスポッツが生きていたとしたら、獰猛な先住犬に拐われたのだろうと教えられます。
また「旅を続けよ」と言う予言に従い、ふたたび旅立つが、思わぬアクシデントから仲間たちと逸れてしまったアタリとチーフ。
しかし、1人と1匹となった彼らは、少しずつ心を通合わせ始めます…。
映画『犬ヶ島』の感想と評価
スクリーンで日本の巨匠監督と出会った外国人監督たち
2009年に制作された『ファンタスティックMr.FOX』や、2014年に公開された『グランド・ブダペスト・ホテル』など、独自の世界観や美意識で映画界に新たな旋風を吹かせ、人気と実力の両面で評価を博したウェス・アンダーソン監督。
本作『犬ヶ島』で、ウェス監督が描いたのは、誰も見たことがない20年後の日本でした。
50年代から60年代の日本映画に強いインスピレーションを受けて、世界観を構築させた作品には、“世界のクロサワ”と呼ばれ愛された黒澤明監督と、映像表現が世界に唯一無二な“清順美学”の鈴木清順監督の名前を挙げ、その影響力にリスペクトしています。
また、ウェス監督は、アニメーション表現として傑作な映画『崖の上のポニョ』を制作した宮崎駿監督の名前も影響されたと言っています。
このことは、今となっては何も特に珍しいことではありません。
かつて、日本映画界で活躍した映画監督たちについて、現在活躍している外国人の映画監督が名前を挙げて、影響を受けたと言うのはもはやポピュラーと言えます。
例えば、「キル・ビル」シリーズのクエンティン・タランティーノ監督あたりから、広く一般化したと言っても過言ではないでしょう。
クエンティン監督は、誰よりもいち早く三隅研次監督や鈴木清順監督、塚本晋也監督(今最も注目の日本の中堅監督)のファンを公言していました。
参考映像:黒澤明監督DVDマガジン予告
また、2018年日本公開された『レディ・プレイヤー1』を観ても日本文化へのこだわりはお分かりですよね。
かねてから『機動戦士ガンダム』の映画化に乗り出したかったのスティーブン・スピルバーグ監督。
彼が若かりし頃の1970年代後半には、常々スピルバーグ監督は黒澤明監督の名前をあげるほどの信仰者でした。
さらには、今となっては若いファン層までも知るところになりましたが、ジョージ・ルーカス監督もそうでした。
B級映画としてはじまった「スター・ウォーズ」シリーズも、黒澤明監督の『七人の侍』(1954)、『隠し砦の三悪人』(1957)、『蜘蛛巣城』(1958)などの影響がなければ、今のディズニーが必死に買い付けるまでの作品にならなかったはずです。
そのように鑑みれば、ウェス・アンダーソン監督が黒澤明監督をはじめ、俳優の三船敏郎や志村喬、仲代達矢に至るまで、映画作風にリスペクトしたこと。
また、黒澤作品の映画音楽を担当した早坂文雄の『七人の侍』や『酔いどれ天使』の楽曲引用は、当然といえば当然の出来事なのではないでしょうか。
それでも気になることがあります。
2017年にウェス監督と同じようにストップモーションアニメの表現手法を使用した、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』が公開されました。
この2本のストップモーションアニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』と『犬ヶ島』が、物語設定の時代の違いこそあれ、日本を舞台に描いたのは単なる偶然でしょうか。
強者の大陸文化から外れ、極東の最果ての島国日本は、虐げられた負け組が集まった歴史を背景にした、弱者(マイノリティ)が独自の文化を生み出していくガラパゴス文化の土壌があります。
そこに魅せられてしまった外国人監督がいることを、もっと日本の映画監督たちは、強く学ぶ意識を持ったほうがよいかもしれません。
まさに、「Youは何しに日本へ?」海外映画監督です。
残念ながら、今の日本映画界には、ここで挙げた数名の外国人映画監督たちのように、良い意味で“真の知性を持った”無邪気な子どもように仕事をする監督たちは少ないのが現状です。
かつての巨匠や50〜60年代の映画に影響を受けたと、例え高尚な引用でなかろうと、真似だろうが何だろうが辺り構わず公言して言える映画関係者少ないことが、“日本映画”の貧しさのような気がしますね。
蛇足にはなりますが、クエンティン監督がファンだと公言した塚本晋也監督は、彼が高校生の頃に観た市川崑監督の『野火』を当時そのまま“コピペのように戦争映画”を撮ったそうです。
それを塚本監督は50代になって、ようやく機が熟したと(時代の風を危惧して)本格的に映画『野火』を2014年に完成させます。
誰かに憧れるファン、何かにひとつを偏愛するマニア、研究者のように深掘りするオタク、何でも呼び方はかまいません。
そのようなコアなマイノリティのなかに潜んでいる新世代の孤独な若者にこそ、ウェス監督の『犬ヶ島』は観てもらいたいです。
でないと『犬ヶ島』に登場したような、火山列島で地震大国の日本はいつか、ゴミ島みたいになちゃうから…。
映画を作ることは学ぶこと
ウェス・アンダーソン監督は、「知らない異文化を描く映画」を作ることについて、学ぶことだと言ったインタビュー記事があります。
「不安と言う感じではないのですね。日本を舞台にすることは、我々にとっては、学ぶことだからです。これまでに収集してきたことや自分の感じたインスピレーション、それから他人が既に知っているかもしれないけれどもまだ知らない人もいるかもしれない新たな発見を、映画を作ることで共有しようとするのです。多くの時間をリサーチに費やし、とにかく新しいことを学びます」
このウェス監督の示した姿勢こそが、撮影期間だけでも合計日数445日を掛け、総勢670人のスタッフが稼働したチームの仲間たちを引き連れた才覚で、日本文化への入魂となった結晶的な輝きを見せた『犬ヶ島』が誕生したのでしょう。
まさに、本作『犬ヶ島』の劇中のストーリーには描かれていませんでしたが、護衛犬スポッツを失ってしまった少年アタリがプロペラ機でゴミ島に行くまでの半年(6ヶ月)という時のなかにいただろう姿ではないでしょうか。
小さなゴミ島にいる愛するスポッツを、独り寂しく思いを馳せて、心配して行動を起こそうと計画した12歳の少年アタリの優しさと勇気の気持ち。
“学び”の冒険に旅立ち、成長をした少年アタリこそ、ウェス・アンダーソン監督そのものだと言えますね。
まとめ
本作『犬ヶ島』という映画は、国家としてメジャーなアメリカで制作され、“常々マジョリティな考えた”だと政治の場で意見を押し通すような国の芸術家(アーティスト)によって作られました。
しかし、この作品の舞台は極東の最果てのマイノリティ国家といえる日本の物語です。
『犬ヶ島』を観た誰もが、ウェス・アンダーソン監督の構築した日本の世界観に魅せられ、犬の遠吠えに悲しみを感じ、アタリや犬たちと口笛を吹きたくなることでしょう。
そして、随所に配置されたユーモアに“子どもに戻ったように”見入って心を躍らせます。
ですが、黒毛犬として登場するチーフの洗浄場面は、毛並みのホワイトウォッシュを表すのか?
また、留学生トレーシーという女の子の活躍いう行動に何を思うのか?
人それぞれに深い考察を付け加えることができるであろう、感慨深い作品に仕上がっています。
筆者が特に印象的なのは、メガ崎市に再上陸する少年アタリが船上で声明文を書き綴る場面。
この作品は、漢字やカタカナといった文字が配置された美術を背景に、市政の壇上での声明文を読む、しかも、人の心を貫く“呪文”のような俳句といった言葉。
まさに『犬ヶ島』は言語の映画でもあるのです。
日本語と英語が入り混じった作風を“イヌ語とヒト語”ととるのか。
それとも、少年アタリとスポッツが、2人だけの専用シーバーで呟きあった関係は、単なる主従関係ではなく、“言語”が異なり、異文化であったとして心は繋がり近いことを表現していていたと見抜くのか。さて、如何でしょう。
ウェス・アンダーソン監督は、映画を言語のように見せ、知らないものを学べる勇気の冒険だと示してくれたように感じました。
あなたは『犬ヶ島』について、どのように映像言語を読み解きますか。
今年、観ておくべきオススメの作品だと言い切れるワンダフルな1本。ぜひお見逃しなく!