第2次世界大戦、北アフリカ戦線のイタリア軍将兵を描いた戦争ドラマ。
第2次世界大戦当初、ドイツ軍を中心とした枢軸側は破竹の勢いで進撃していました。しかしその攻勢は頂点に達し、連合軍が反撃に転じる時期を迎えます。
それが1942年の、ロシア戦線ではスターリングラードの戦いであり、アフリカ戦線ではエル・アラメインの戦いでした。
“砂漠の狐”ロンメル将軍率いるドイツ・アフリカ軍団。ロンメル将軍は、アメリカ映画『砂漠の鬼将軍』で主人公として描かれるなど、欧米の映画にも度々登場している人気の人物です。
そのアフリカ軍団が決定的に敗北し、攻守ところを変える事になった戦場がエル・アラメインです。かつて敗北の原因は、イタリア軍の敗走にあると信じられていた時期もありました。
その戦いをイタリア軍の視点から描いた、本格的な戦争映画が『炎の戦線 エル・アラメイン』です。
CONTENTS
映画『炎の戦線 エル・アラメイン』の作品情報
【日本公開】
2004年(イタリア映画)
【原題】
El Alamein – La linea del fuoco
【監督・脚本】
エンツォ・モンテレオーネ
【キャスト】
パオロ・ブリググリア、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、エミリオ・ソルフリッツィ、シルヴィオ・オルランド、ロベルト・チトラン、ジュゼッペ・ツェデルナ
【作品概要】
1942年10月に、連合軍が大攻勢に転じたエル・アラメインの戦い。それを最前線に配置された、一人のイタリア軍兵士の目を通して描いた戦争映画。
本国イタリアでは、イタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、撮影賞・編集賞・録音賞の3部門受賞を成し遂げた作品です。
主人公と行動を共にする、リッツォ曹長を演じるピエルフランチェスコ・ファヴィーノは、『ラッシュ プライドと友情』や『天使と悪魔』など、ハリウッド映画でも活躍する世界的俳優です。
映画『炎の戦線エル・アラメイン』のあらすじとネタバレ
1942年10月の北アフリカ戦線。バイクの後ろにまたがった1人の兵士、学生志願兵のセッラ(パオロ・ブリググリア)が最前線に到着します。
彼はドイツ・イタリア枢軸軍と連合軍がにらみ合う、エル・アラメイン戦線の地中海から最も離れた南端の、第14パヴィア歩兵師団の、第27連隊に配属されました。
負傷兵が次々後方に送られていく最前線。セッラは中隊への到着をフィオーレ中尉(エミリオ・ソルフリッツィ)に報告しますが、中尉は補充兵がたった彼1人であることに落胆します。
中尉の指示で、伍長に案内されリッツォ曹長(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)の分隊に向かうセッラ。中尉も伍長も彼の水筒の水をねだります。皆新鮮な真水に飢えていました。
突如飛んできたイギリス軍の砲弾に、伍長の体は跡形も無く吹き飛んでしまします。そこに現れ、セッラに運を1つ使ったな、と言うリッツォ曹長。最前線はセッラの想像以上に過酷な環境でした。
リッツォ曹長に塹壕を案内されるセッラ。敵陣の方が高地で、こちらからは敵は見えないが、敵からは見える不利な地形。また前の鉄条網の先には、地雷原が広がっていると説明するリッツオ。
リッツォは3つの注意を与えます。常に頭を低くしていろ。赤痢になっても報告するな、全員がかかっているからだ。サソリに気をつけろ、靴を履くときは要注意だ。
こうしてセッラの最前線での生活が始まります。一日に与えられる水は250cc。顔を洗うにも軍服の洗濯にも、水ではなく砂を使います。セッラは早速母に宛てて手紙を書きます。
時折陣地に降り注ぐ敵の砲弾。イタリア軍は装備も劣り対抗する大砲も無く、セッラたちは敵の砲撃にただ耐えるしかありません。
前線に現れたフィオーレ中尉に、敵の狙撃兵が現れたとの報告がもたらされます。中尉はルッソを、迫撃砲を持って来させるよう伝令に出します。
狙撃兵に負傷した兵を助けようとした衛生兵が射殺され、リッツォ曹長たちは怒りに燃えます。中尉の指示で敵の狙撃兵は、隠れていた残骸ごと迫撃砲で吹き飛ばされました。
照明弾に照らされた夜の塹壕で、砂と虫の混じる粥を食べる兵士たち。セッラがいつドイツ・イタリア軍が攻勢に転ずるのかを尋ねても、補給も途絶えがちな現状では現実味の無い話でした。
枢軸軍ははるか離れた港から補給を送っているのに対し、前線近い軍港から続々と物資を送ってくる連合軍。ロンメル将軍の作戦に期待する兵もいましたが、その言葉を信じる者は誰もいません。
生き残る事だけを考えろというリッツオ曹長。そこに爆発音が響きます。イギリス軍のトラックが地雷を踏んだのです。食糧が手に入るかもと、セッラら部下と共に現場へ向かうリッツォ。
鉄条網を越え、トラックに向かい地雷原を進むリッツォたち。ところがセッラが地雷を踏んでしまいます。セッラの報告に、リッツオが助けに向かいます。
地雷は300㎏以上の重さに反応する、対戦車用のものでした。人生に3回起きる奇跡の内、2回を使ってしまったなとセッラは仲間に言われます。
横転したトラックの脇に横たわるイギリス兵の遺体から、持ち物をあさるリッツォたち。セッラが調べたイギリス兵は重傷ですが生きていました。しかし彼らは、そこにイギリス兵を残して立ち去るしかありません。
塹壕に戻ったセッラは、3回起きる奇跡についてリッツォに尋ねます。リッツォ曹長も他の兵士も、一つ間違えば死ぬ経験を重ねていました。
皆人生に3回起きる奇跡を使い果たした、と語るリッツォたち。後は神に祈るしかない、と続けます。
陣地に物資を積んだ2台のトラックが迷い込みますが、積み荷は大量の靴磨き粉と一頭の馬。枢軸軍がエジプトのアレキサンドリアを占領した際に、パレードする兵が使う靴磨き粉と、ムッソリーニが乗る為の馬でした。
まともな物資も送らず、空軍の支援も無い中、馬鹿げた積み荷を見て怒るフィオーレ中尉。馬を射殺して肉を部下に与えようとしますが、馬の目を見てためらい、射殺を諦めます。
イギリス軍の砲撃は続き、仲間の兵士は1人、また1人と倒れ戦場に埋葬されます。部隊はどんどん弱体化していました。
ある日リッツォ曹長はセッラら部下と共に、トラックで水を受け取りに向かいます。与えられた水は、ガソリンを詰めるのに使用した缶に入っており、飲めたものではありませんでした。
ここから40㎞先は海。リッツォ曹長らは命令を無視して海に向かいます。目の前に広がる海に、皆歓声を上げ砂浜を駆け、軍服を脱ぎ捨てて全裸になり、我先にと海へ入ります。
砂浜に横たわり日光を浴びながら、戦争が終わるまで隠れているか、と語り合うリッツォたち。そこに現れた兵士にそこは地雷原だと注意され、慌てて飛び起きます。
陣地に戻ったセッラは、リッツォ曹長と戦争について語り合います。ある日前線の見張りに立ったセッラは、前線に迷い込んだラクダを見つけて射殺します。
ラクダの肉にありついて喜ぶ、リッツォ曹長や仲間の兵士たち。しかしフィオーレ中尉はセッラに、どこでラクダを射殺したかを尋ねます。
ラクダは前線の地雷原を越えて現れました。前線の地雷が除去され、その確認にラクダが放されたものとも考えられます。部下にそれを確認させ、改めて地雷を埋めさせるフィオーレ中尉。
フィオーレ中尉は敵の攻撃が迫っていると考えますが、軍の上層部は主要な街道が走る地中海沿岸、北側に敵の攻撃が集中すると判断し、そこに戦車を集めていました。
戦線南端のこの陣地は、敵が攻めてくれば味方の戦車も支援も無く、単独で戦う事になります。フィオーレ中尉はリッツォ曹長に、北側の崖になった低地を、敵の戦車が通行する事が可能か調べるよう命じます。セッラを連れ、北の荒野に向かうリッツォ曹長。
2人は灼熱の中を歩き、蜃気楼を目撃します。荒野の岩に刻まれた、大古の現地人の描いた絵を見つけたセッラ。ここはかつて緑に広がる草原だったとリッツォに説明します。
故郷では学ぶ機会が無かったと言うリッツォは、セッラの言葉に素直に感動を覚えます。さらに偵察を続ける2人はイタリア兵の遺体を見つけ、その場所に埋葬するのでした。
荒野で食事をとる2人。満月の10月23日の夜でした。この日は妻の誕生日、もう2年も妻と会っていないと語るリッツォ。
突然、地平線のかなたに閃光が光ります。それは連合軍がドイツ・イタリア枢軸軍の防衛線に向けた、激しい砲撃でした。ついに連合軍の大攻勢が始まったのです。
映画『炎の戦線 エル・アラメイン』の感想と評価
イタリア軍の視点で描かれた北アフリカ戦線
日本でも抜群に知名度を持つ、アフリカ戦線で活躍したドイツ軍のロンメル将軍。
ロンメル将軍の、そしてドイツ軍の足を引っ張ったのが、“ヘタリア”ことイタリア軍、と俗に信じられてきましたが、現在その評価は変わりつつまります。
ロンメル将軍が敵味方の将兵から慕われた、カリスマ的な人物だった事は間違いありませんが、名門貴族の出身では無い故の激しい出世欲、戦略的な視点に欠けた軍の運用など、“ロンメル神話”を否定する評価も広まりつつあります。
エル・アラメイン戦線でのイタリア軍の戦いぶりは、連合軍側からも高く評価され、映画で主人公たちが所属する、パヴィア歩兵師団と共に戦ったフォルゴーレ空挺師団の奮戦は有名です。
戦力比は兵力で1対13、戦車で1対70、対戦車装備も無い状態で、2度も敵を退けたフォルゴーレ師団は、チャーチルから「獅子の様に戦った」と評されました。
彼らが壊滅したのは、ドイツ戦車軍団が彼らを残して逃げ去った後です。そんな彼らの奮闘と、貧弱な装備と途絶えがちな補給に苦しむ姿を描いた、イタリア側視点ならではの戦争映画です。
登場するイタリア軍装備に注目
この作品はイタリア映画だけあって、その時代考証や装備、軍装の再現には注目すべき点が多数あります。
リッツォ曹長が戦場で使用する、横に固定弾倉が付いたユニークな機関銃、ブレタM30軽機関銃が大活躍するシーンは、他の映画に無い貴重なものです。
参考映像:ブレタM30軽機関銃操作・射撃動画
他にもフォルゴーレ空挺師団の将校が、さりげなくベレッタM38短機関銃を持っているなど、ガンマニアの方には色々な場面で、様々なイタリア軍銃器が多数登場する、目を閉じる暇の無い映画です。
各部隊の服装・装備の違いも緻密に再現し、劇中に登場する部隊や人物を的確に表現した演出は、この映画を公開時に解説した、日本のイタリア戦史研究家を唸らせています。
残念ながら戦車こそ現用戦車の流用ですが、その他イタリア軍車両も、当時使用された実車が多数登場しています。
オープニング、エンディングで主人公セッラの乗る、モト・グッチのアルチェ型500cc軍用バイクや、リッツオらが水の補給に行く際に乗る、ユニークなフロントが印象に残るSPA・L39軽トラックなど、様々な車両が登場し、マニアを飽きさせないでしょう。
作り手の時代考証への拘りが、細部まで徹底しているこの作品。イタリア軍ファンならずとも、戦争映画に興味のある方は必見です。
まとめ
何かと世界的にお荷物扱いとネタにされ、日本では“ヘタリア”という作品まで生んでしまった、第2次世界大戦のイタリア軍。
しかし『炎の戦線 エル・アラメイン』で描かれた彼らは、ネタで言われる「砂漠でパスタを茹でるイタリア軍」ではありません。補給にそんな余裕があれば、戦争に勝っていたでしょう。
補給も無く貧弱な装備で勇敢に戦った、彼らの姿を追体験するには最良の映画です。
なお、そうは言っても部隊ごとに制服が違ったり、羽根飾りの付いたヘルメットを被ったりしてるイタリア軍。流石お国柄なのか、ファッションセンスはドイツ軍・日本軍を上回っています。
砂漠で疲労困ぱいした主人公たちが、海を見て歓声を上げ、全裸となって海に入る、解放感溢れる素晴らしいシーンがあります。しかし劇場公開時はボカシが入って残念な状態でした。
映画におけるダメなボカシシーンの1つだと思いますが、テレビ放送やネット配信の際も、やっぱりボカすんでしょうね。