あまりにも過激なバイオレンス描写から「Bloody Sam(血まみれのサム)」との異名で呼ばれる監督のサム・ペキンパー。
彼の最高傑作とも称される『ワイルドバンチ』をご紹介します。
映画『ワイルドバンチ』の作品情報
【公開】
1969年(アメリカ)
【原題】
The Wild Bunch
【監督】
サム・ペキンパー
【キャスト】
ウィリアム・ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアン、エドモンド・オブライエン、ウォーレン・オーツ、べン・ジョンソン、ハイメ・サンチェス、エミリオ・フェルナンデス、ストローザー・マーティン、L・Q・ジョーンズ、アルバート・デッカー、ボー・ホプキンス
【作品概要】
実在した強盗団“ワイルドバンチ”をモチーフにサム・ペキンパーが手掛けた傑作西部劇。ウィリアム・ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアンら実力派俳優を起用し、第42回アカデミー賞(1970年)脚本賞(ウォロン・グリーン ロイ・N・シックナー サム・ペキンパー)、作曲賞(ジェリー・フィールディング)にもノミネートされた作品。
1960年代後半からの反体制的なムーブメントである「アメリカン・ニュー・シネマ」の一作としても名高い。
映画『ワイルドバンチ』のあらすじとネタバレ
1913年、テキサスの町サン・ラファエルに強盗団“ワイルドバンチ”が現れました。リーダーのパイクを筆頭に、ダッチ、ゴーチ兄弟(テクターとライル)、エンジェル、クレイジー・リーら6名はこの町の鉄道管理事務所にある銀貨を狙っていたのです。
しかし、これは周到に張り巡らされた罠であり、かつてパイクの仲間だったソーントンを中心とした賞金稼ぎが虎視眈々と彼らの到着を待ち受けていました。
騎兵隊に扮して到着したワイルドバンチ一行。そこへ銃弾の嵐が吹き荒れます。銃撃戦の最中、クレイジー・リーが死亡。辛くも生き残った5人は銀貨を手にし、撤退することに。
一か月以内にパイクらを捕まえることが出来れば、自由を手にすることになると約束されたいた仮釈放中のソーントンは、賞金稼ぎたちを引き連れ一路ワイルドバンチ追跡へと向かいます。
一方、無事逃げ延びたパイクらはかつての仲間サイクスの農場へと辿り着いてました。クレイジー・リーが犠牲になったものの、肝心の獲物を手に入れることは出来た彼らが早速中身を確認すると、なんとそこに入っていたのは銀貨ではなく大量のワッシャーでした。
「銀の指輪だ」と仲間の嘲笑を買ったパイク。自らの年齢のこともあり、この仕事を最後にしようとしていた彼でしたが、再び獲物を探そうとメキシコへと向かいます。
やがて辿り着いたのはエンジェルの故郷の村でした。しかし、その様変わりした村の様子に驚くエンジェル。なんでもマパッチ将軍率いる政府軍に襲われたのだそう。メキシコ内は1910年から続く革命の真っ只中。国内を二分する激しい戦いが繰り広げられていたのです。
前時代から幅を利かせていた専制政治の名残ともいえるマパッチ将軍ら政府軍の蛮行は、もはや無法者と大差ないものとなっていました。そんな奴らに父親を殺され、恋人だったテレサも連れ去られてしまったことを知ったエンジェルは怒りに震え、復讐を誓います。
ソーントンの追跡の気配を背中に感じながらも、マパッチ将軍が駐屯している村アグア・ヴェルデへと辿り着いたパイクら一行。
一行が初めて目にした車に乗って颯爽と現れたマパッチ将軍の膝の上には、エンジェルの恋人テレサの姿がありました。彼が話し掛けても冷たくあしらうテレサに逆上したエンジェルは、衝動的に彼女を撃ち殺してしまいます。
ここで銃撃戦になったら敵わないと思ったパイクとダッチが慌てて取りなすと、ある条件を持ち掛けてきたマパッチ将軍。アメリカ軍の列車を狙えというのです。そこにある大量の武器を引き渡せば、今回のことは無かったことにするということのようです。
一方、パイクらの次の行動を読んでいた追跡中のソーントン。列車へと先回りし、待ち伏せすることにします。
今度こそ最後の仕事にしようと臨んだパイク。列車を乗っ取り、貨物部分だけを切り離します。すでに列車に乗り込んでいたソーントンがこれに気付き、壮絶な追跡劇が開始されました。
映画『ワイルドバンチ』の感想と評価
1898年にフロンティア・ラインの消滅と共に終焉を遂げた西部開拓時代。T型フォードやオートマティックのガトリング銃の登場が象徴しているように、ワイルドバンチのような昔ながらの無法者たちは生きる糧を失いつつありました。
監督のサム・ペキンパーは、消えゆくパイクら無法者の存在意義と一ジャンルとしての西部劇というものの存在価値を重ね合わせ、ロマンティックともいえる哀愁とあまりにも鮮烈な暴力性を両立させることに成功させています。
この作品の後にもまだまだ西部劇映画は登場する訳ですが、こういった意味が込められているからこそ、この作品が「最後の西部劇」と言われるのです。
このように、映画史においても記念碑的作品に当たるこの『ワイルドバンチ』ですが、オープニングからサム・ペキンパー節が全開です。
アリの群れにサソリを落とし火をつける子供たちの無邪気な姿。そこへ登場するワイルドバンチの一行を、ストップモーションを駆使ししてキャストを紹介するというスタイリッシュな演出。
そしてそれに続く最初の戦闘シーンでは、サム・ペキンパーお得意のスローモーションとカットバックを組み合わせることで生み出される独特の時間の流れがとてつもない臨場感と緊張感を醸し出しています。
こういったスローモーションやカットバックの多用や、マルチ・カメラを利用した膨大な数のカット数などを特徴とするサム・ペキンパーの独特の演出。彼の数々の作品群の中で最もそれが体現されているのが『ワイルドバンチ』といって良いでしょう。
そして彼のもう一つの特徴であるバイオレンス描写は最後の戦いで存分に発揮されています。いわゆる「デス・バレエ(死のバレエ)」とも称される、そのあまりにも凄惨な銃撃戦は観る者を圧倒し、息をするのも忘れてしまうほどのもの。
しかしそこにあるのは単なる血にまみれた暴力性だけではなく、勝ち目のない戦いへ挑む男たちの生き様に美しさすら感じられるのです。
時代の波に抗うことが出来ず、表舞台から立ち去ろうとしていたパイクと彼を慕う男たち。彼らはエンジェルを見捨てることも出来たはず。なのにそれをしなかった。
「Let’s go.」「Why not?」という映画史に残る短い名セリフを残して、死に行くことが分かっていながら、それでも力強く歩いていく4人の姿。そこから発せられるのは無邪気な子供が思い描くロマンティックな幻想ともとれる美しさであり、哀しみや虚しさなどでは決してないのです。
彼らの断末魔の叫びは決してこの世への名残からくるものなどではなく、あの瞬間こそ最も強く“生きている”ということを実感したのではないでしょうか。
サム・ペキンパーは観る者の心にこう問いかけているのかもしれません。男の生き様とは何か、と。パイクの魂の叫びを受け止めたソーントンがその答えを見出したように、私たちには一体何が出来るのかということを、改めて考え直すべきなのではないでしょうか。
まとめ
派手さはないもののペキンパーらしさが香る『昼下がりの決斗』(1962)では思うような成果が得られず(近年では再評価されている)、続く『ダンディー少佐』(1965)では製作陣とのトラブルからズタズタに編集されてしまうという結果となり、思うような評価を得られていなかったサム・ペキンパー。
ちょうどその頃、セルジオ・レオーネやセルジオ・コルブッチらの台頭により、西部劇の主権がイタリアへと移り変わろうとしていました。ヘイズ・コード(検閲制度)に縛られていた当時のハリウッドの常識を打ち破るマカロニ・ウエスタンが登場したのです。
その奪われた主権を取り戻すべく発表されたのが本作『ワイルドバンチ』。前2作の失敗によって映画界から干されていたペキンパーのその渾身の一作は、彼が陥っていた負のスパイラルをむしろ力へと変換したのか、魂のこもった演出とそれに応えた俳優陣の見事としか言いようのない演技もあり、歴史に名を残す傑作として現在でも語り継がれています。
その後、ペキンパー自身が最高傑作として語っている『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』(1970)や、『わらの犬』(1971)、『ゲッタウェイ』(1972)、『ガルシアの首』(1974)、『戦争のはらわた』(1977)など、後世の映画監督たちに多大な影響を及ぼした傑作を生み出し続けた訳ですが、その記念すべき第一歩となったのがこの『ワイルドバンチ』という作品なのです。
男たちのたぎるように熱く美しい生き様を是非ご堪能ください!