「ナチス第三の男」暗殺をめぐる真実の物語。
第二次世界大戦中、冷徹極まりない手腕から「金髪の猛獣」と呼ばれたナチス親衛隊No.2のラインハルト・ハイドリヒ。
映画『ナチス第三の男』は、ナチス政権内にて手にしたその絶大なる権力から「ナチス第三の男」と称され、かのヒトラーさえも恐れていたというハイドリヒの暗殺計画にまつわる真実に迫った戦争アクションサスペンスです。
150万人を超えるユダヤ人虐殺の首謀者として、ナチス政権内でも絶大な権力を振るっていたハイドリヒ。彼の狂気と暴走を止めるべく、チェコ亡命政府は暗殺部隊を送り込みます。
史上唯一成功した、ナチス高官の暗殺計画の全貌とは。フランス・イギリス・ベルギーの合作により実現した、誰も知らないハイドリヒ暗殺計画の真実の物語を描いた『ナチス第三の男』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
映画『ナチス第三の男』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス・イギリス・ベルギー合作映画)
【原作】
ローラン・ビネ
【監督】
セドリック・ヒメネス
【キャスト】
ジェイソン・クラーク、ロザムンド・パイク、ジャック・オコンネル、ジャック・レイナー、ミア・ワシコウスカ、スティーブン・グレアム
【作品概要】
『フレンチ・コネクション 史上最強の麻薬戦争』(2014)を手掛けたセドリック・ヒメネスが監督を務めた、R15+指定の戦争アクションサスペンス。フランスで最も権威のある文学賞「ゴングール賞」の最優秀新人賞に輝いた作家ローラン・ビネが書いた世界的ベストセラー小説『HHhH プラハ、1942年』が原作。
『ホワイトハウス・ダウン』(2013)や『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014)、『ターミネーター:新起動 ジェニシス』(2015)などに出演するジェイソン・クラークが主演を務めます。その他、ロザムンド・パイクやジャック・レイナーら豪華キャスト陣が出演しています。
映画『ナチス第三の男』のあらすじとネタバレ
1942年5月27日のチェコ・プラハ。2児の父である38歳のラインハルト・ハイドリヒと、その運転手はベンツの黒のオープンカーに乗り、街から少し離れた道を颯爽と走ります。
すると1人の青年が機関銃を持って車の前に飛び出し、ハイドリヒに銃口を向けました。
時を遡ること1929年。ドイツの海軍将校であるハイドリヒは、ドイツのキール海軍基地にてフェンシングの剣技を磨き、バイオリンを弾いて心を落ち着ける日々を送っていました。
ある日、ハイドリヒは社交場で出会った貴族階級の娘リナと出会い、恋に落ちます。
ハイドリヒは映画デートをし、やがて交際に至ったリナと結婚すると決心し、彼女と一緒に汽車に乗りリナの両親に挨拶に行きました。
その道中、リナはハイドリヒにナチ党の党員証を見せます。リナは両親と賑やかに暮らしていた幼い頃の生活を、「今より強いドイツ」とその実現のために行動し続けるヒトラーが取り戻してくれると信じていました。
リナはハイドリヒに「自分と婚約するなら、この信念を理解して欲しい」と告げます。さらにリナは、ハイドリヒにヒトラーの著書『我が闘争』を読むべきだと強く勧めました。
ハイドリヒはリナの告白を聞いた後、彼女の両親に結婚を認められます。
しかし、リナと無事結婚したハイドリヒは後日軍法会議にかけられ、不名誉除隊処分を受けます。その原因は、ドイツの海軍提督の親友の娘クリスティーナ・ウェーゲルと肉体関係を持ったからでした。
1年半前、クリスティーナとハイドリヒは出会い、彼女はハイドリヒと婚約したものだと思い込んで、勝手に軍関係者に言いふらしていました。そのため、ハイドリヒの結婚を知ったクリスティーナは、婚約不履行だと訴えてきたのです。
不名誉除隊を言い渡されたハイドリヒは、部屋にある物を片っ端から壊すほど荒れてしまいます。リナはそんなハイドリヒに喝を入れ、「私と結婚したいならする。だけどもう二度と、その女の事は口にしないで」と言いました。
後日、ハイドリヒは車に乗り、鶏を1棟70羽ずつ入っている6棟の鶏舎を見つつ、その先にある屋敷へ向かいます。そこは、ナチ党親衛隊(SS)指導者ハインリヒ・ヒムラーの屋敷でした。
新たに創設するSS諜報部の人材を探すため、ヒムラーはハイドリヒと面接をします。
ヒムラー曰く、SS諜報部は政敵の情報収集と政府機関と外国勢力の不適切な関わりを暴くことを目的としていました。
ハイドリヒはヒムラーに、「諜報活動とは、直感を情報と結びつけること。熱意を持って、効率的に動かねばならない。私ほど効率的に動ける者はいない」と、諜報活動に対する自分の考えを伝えます。
さらにハイドリヒは、ヒムラーが経営する鶏舎が、彼が多忙な故に適切な飼育環境がなっていないせいで経営が悪化していると告げます。ヒムラーは初対面のハイドリヒに問題点を指摘されたことに驚き、彼の明晰な頭脳を買って、SS諜報部の創設を任せることにしました。
ハイドリヒはその後、ベルリンの至る所にスパイを送り、密告者を募って政敵である共産主義者を摘発・抹殺していきます。
ハイドリヒがSS諜報部長官としてメキメキと頭角を表していく一方、リナの父親レーム率いる突撃隊は、総統アドルフ・ヒトラーへの造反を企んでいました。ハイドリヒはこの証拠を掴み、部下のミューラを連れてヒムラーに報告します。
ヒムラーはハイドリヒたちに、「今こそSSの義務を果たすべき時だ。総統の偉大なる計画を阻もうとする者を抹殺する。前に進むために、汚れたナチ党を浄化するために」と言い、反乱者の粛清を命じました。
ハイドリヒたちSS諜報部は、レーム率いる突撃隊全員を粛清します。
一方でハイドリヒの家に招待されたヒムラーは、2人の男児の母親となったリナに、ハイドリヒの功績を称えたヒトラーが「鉄の心臓を持つ男」と彼を評したことを話しました。
第二次世界大戦が始まった1939年9月。ハイドリヒは「政治戦士」と呼ばれる、SS特別行動部隊を組織します。
そしてハイドリヒ率いるSS特別行動部隊は、ドイツ国防軍が征服したポーランドの土地に住む、外国人や病人を含むナチスに歯向かう敵全てを抹殺していきました。
SS特別行動部隊が、反ドイツ勢力の人々を虐殺していく様を記録した映像を見ながら、ハイドリヒはリナが3人目の子供を出産したと報告を受けます。
ハイドリヒはドイツ国防軍の将校と会った際、「SS特別行動部隊は、ただの虐殺集団だ」と皮肉を言われました。しかし彼は怒ることなく、将校に「諜報活動の結果」だけを淡々と伝えます。
ハイドリヒは事前に将校の身辺をについて調べており、彼がベルリンで未成年の娼婦とよく遊んでいることも知っていたのです。
ハイドリヒは将校をその情報で脅した結果、彼からドイツ国防軍の支援と、反対勢力についての情報提供を受けることができました。
ハイドリヒは家で息子クラウスにピアノを教えていた際、リナにヒトラーから1か月前、ボヘミア・モラヴィア保護領の副総督に任命されたことを報告します。
1941年、チェコスロバキアのプラハに赴任したハイドリヒは、ベルリンやウィーン同様、ユダヤ人のいない街にすると宣言しました。
さらにハイドリヒは、全てのユダヤ人は最寄りの警察署に出頭するよう命じ、ユダヤ人である証として腕章を必ず身につけることを義務づけます。
またチェコのレジスタンス組織をいかなるものであっても、生き延びる余地がないほど粉々に解体する一方で、ハイドリヒは兵器工場で働くチェコ人の給与を引き上げることを約束しました。
ハイドリヒが出世街道を歩むにつれ、リナとの関係は冷え切っていきました。
リナはハイドリヒが、子供の教育は熱心にやるのに、自分との時間は僅かしか与えられず、会話もないことに不満と寂しさを募らせていき、一度離婚を申し出ます。
それに対し、ベルリンへの出張の準備中だったハイドリヒは、リナに初めて怒鳴り「それ以上何も口にするな、私の妻でいたいのなら」と告げました。
1942年1月20日。ハイドリヒはヴァンゼー会議に出席し、上層部にヨーロッパ各地に暮らす150万人を超えるユダヤ人の虐殺・強制労働を提言します。
そして場面は物語の冒頭に戻り、ハイドリヒは車の前に飛び出してきた青年に機関銃を向けられますが、その銃口から弾は出てきませんでした。
ハイドリヒは逃げる青年をピストルで撃ち殺そうとします。しかしその直後、ハイドリヒは背後に迫るもう1人の青年から、手榴弾を投げ込まれてしまうのです。
映画『ナチス第三の男』の感想と評価
ドイツの海軍将校だったハイドリヒが、副総督の地位にまで上り詰め、暗殺されるまでの過程を描いた映画『ナチス第三の男』。
ハイドリヒは物語の序盤で、クリスティーナと肉体関係を持っていたことにより、不名誉除隊を言い渡されます。そんなハイドリヒを副総督まで導いたのは、彼の妻でナチ党員のリナと、ナチ党親衛隊(SS)指導者のヒムラーです。この二人なくしては、彼はヒトラーさえ恐れた「ナチス第三の男」にはなっていません。
また作中では「ヒトラーでなく、なぜハイドリヒが暗殺の標的に選ばれたのか」が、ハイドリヒ自身の視点、彼を暗殺しようとしたパラシュート部隊の視点の両面から描かれています。
ハイドリヒ率いるSS特別行動部隊による、150万人を超えるユダヤ人の虐殺。パラシュート部隊に協力した者たちの無情なる死……思わず目を背けてしまいたくなるほどの場面の連続には、ハイドリヒが「ナチス政権最大の“迫害者”」として人々に認識されていった過程を思い知らされます。
一人の人間であったハイドリヒが何気ない出来事を機に、その暴力性と狂気、そして人々の「憎悪」というイメージによって“迫害者”という名の怪物と化していく。そうした「怪物の生まれ方」は、歴史上にて人々から“怪物”と非難された人間全員に共通しているということを、「ナチス政権の総統たるヒトラーが、写真以外一切出てこない」という演出が証明しています。
人間として登場することなく、ただ写真というイメージのみでしか描かれない。それは人間性どころか人間としての姿形すら失い、ついには人々のイメージだけが残ったという、本作のハイドリヒが持っていた“人物像”すらも失ってしまったヒトラーの“怪物像”を描いているといえます。
そしてヤンたちパラシュート部隊は、ハインリヒという怪物と化していく人間を、あくまでも“人間”として討とうとします。しかし映画は、人間として暗殺を試みた者たちの「人間であったがゆえに生じた悲劇」さえも残酷に描くのです。
まとめ
ハイドリヒが不名誉除隊から副総督にまで上り詰め、暗殺部隊によって暗殺されたまでを描いた戦争アクションサスペンス『ナチス第三の男』。
ハイドリヒの苦悩と挫折、リナや息子たちへの愛、ドイツのために行動した信念……そして、それらが混ざり合い錯綜したことで生じていった狂気を、彼を演じたジェイソン・クラークは完璧に表現していました。
そしてハイドリヒ暗殺の為に、ヤンたちパラシュート部隊やレジスタンス、それに協力するプラハの住民たちがどんな思いと苦労をしてきたのかも、画面越しにひしひしと伝わってきます。
人間がなぜ、“怪物”になるのか。そして人間はなぜ、“人間”であるがゆえに悲劇を見舞われるのか。「ナチス第三の男」の暗殺の真実とは、人間が人間として生きようとするがゆえにたどり着く、怪物と悲劇という二つの残酷な末路を意味しているのかもしれません。