薬物と聞くと、一番最初に思い浮かべる国として、スペインをあげる人は結構いるのではないでしょうか?
最近ではドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』や、ドキュメンタリー映画『カルテル・ランド』など、薬物戦争をテーマにした作品も。
今回ご紹介するのは、そう遠くない国フィリピンでの薬物実態をドキュメンタリータッチで描いたサスペンス映画『ローサは密告された』です。
1.映画『ローサは密告された』の作品情報
【公開】
2017年 (フィリピン映画)
【原題】
Ma’ Rosa
【監督】
ブリランテ・メンドーサ
【キャスト】
ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス、フェリックス・ローコー、アンディ・アイゲンマン、ジョマリ・アンヘレス、イナ・トゥアソン、クリストファ・キング、メルセデス・カブラル、マリア・イサベル・ロペス
【作品概要】
『キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド』(2009)や 『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(2012)などで知られるフィリピンを代表するブリランテ・メンドーサ監督の作品。
自国にはびこる薬物密売と取り締まる警官の汚職を、ドキュメンタリライクなカメラタッチでスリリングに描いたサスペンスとなっています。
今作でローサを演じたジャクリン・ホセは、第69回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞しました。
2.映画『ローサは密告された』のあらすじとネタバレ
マニラのスラム街にて夫と子供4人と暮らすローサ。
フィリピンで言うコンビニ「サリサリ」を営んで生計を立てるローサですが、実は薬物の売人から薬を買い取り、それを知る客に売って収入も得ていました。
息子で次男のカーウィンと買い物に行き、大量の食料品を持って帰ると、夫のネストールはローサにばれない様、こそこそとクスリをしています。
ローサは止めますが、「明日俺の誕生日だから」といい、見逃してあげます。
長女ラケルも高校から帰り、家族が続々と帰宅してきます。
そんな時、ローサの店に、一人のバイク乗りが訪れます。
バイク乗りはジョマールと言い、ローサに販売するための薬物を渡していました。
ローサは慣れた手つきで薬物を隠し、ネイマールは訪れた「顧客」に帳簿を照らし合わせながら密売をしています。
すると、息子のように接しているボンボンという少年が、ローサを見つけて「“アイス”を売って欲しい」と頼み込みます。
“アイス”とは薬物の隠語。
ローサは支払いが滞りがちなボンボンに売るのを躊躇いましたが、結局渡してしまい、さらには交通費用の小銭もせびられてしまいました。
しかしローサーは憎まれ口を言いながらも、小銭もあわせて渡します。
その後、家族で夕食をとろうとすると、外から大勢の警察官がやってきて、家に乗り込みます。
警察官たちは、ローサとネストールを薬物所持の容疑で問答無用で逮捕します。
ローサの子供たちの抵抗もむなしく、2人は車に乗せられ署に連行されます。
警察署に着くと、ローサたちは子供たちのこともあるので、刑務所だけは勘弁して欲しいと訴え続けます。
すると、巡査の一人が「解放して欲しければ、20万用意しろ」と言い出します。
当然、そんな大金などローサたちは用意できません。
すると巡査は「売人の情報をこちらに渡せば、金は作れるだろう」と、解放と引き換えに情報提供を求めます。
ローサは苦渋の末、家族のために顔馴染みの売人ジョマールを警察に売ります。
ローサを使ってジョマールを呼び出すと、警官は現場に現れた瞬間取り押さえ連行します。
ジョマールの薬物と金を押収する警官ですが、なんとその金でご馳走を買うだけでなく、薬物は自分たちで使おうというのです。
さらに巡査の一人は、その金を持って、署長室へと消えていくのでした・・・
ローサたちは警察の汚職を目の当たりにします。
さらに巡査たちは、ジョマールにローサたちと同じく、解放と金を交換条件として提示します。
しかしジョマールは密かに助けを求めるためにメールを送ります。その相手は上級警部。
その時巡査に携帯を取り上げられ、メールがばれるとジョマールは巡査たちに袋叩きに会います。
そして、そのうちの一人が、ローサに銃を突きつけ、バラせば命はないと脅すのでした。
その後、ジョマールの10万、妻のリンダが見逃し料として持ってきた5万が警察の元に集まります。
そんな時、ローサの子供たちが警察署までやってきます。
巡査は、解放して欲しければあと5万を持ってくるよう要求を続けます。
子供たちは、両親を解放してもらうべく、お金を集めます。
3.映画『ローサは密告された』の感想と評価
もともと『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』のように、ドキュメントチックな映像を得意とするメンドーサ監督の本領が遺憾なく発揮されています。
内容もフィリピンにはびこる薬物と警察の汚職がテーマになっているだけあり、その説得力は画面・ストーリともに力強ささえ感じ取れます。
主演女優のジャクリン・ホセは本国フィリピンで有名女優にも関わらず、まるで現地の人ではと見紛うほどの演技を見せてくれます。
そして薬物を根絶する気など毛頭ないフィリピンの汚職警官たち。
解放を餌に次々と金を要求する様は闇が不快どころの騒ぎではありません。
メキシコ薬物戦争はもともと組織同士のぶつかり合いなのに対し、フィリピンの現状は市民が脅かされる形で、余計に見ている私たちの感情をさかなでていきます・・・
善悪はともかく、あくまでローサは生計を立てるためであって、金儲けのために密売していたのではないのです。
今作は薬物問題についてを語ってはいますが、その根底にある貧困を生み出してしまった原因を悪だと感じることが多かったです。
まとめ
日本でも、麻薬所持で逮捕される報道を耳にすることがあります。
しかしそれは芸能人のような著名な人というケースが多く、どことなく面白おかしく取り上げたり、まるで他事のように取り上げてしまうメディアも少なからず見受けられます。
自分の生活圏で、もしも薬物がはびこるようになったら・・・
そのときの恐怖や危機感を知るためにも、今後こういう映画がもっとあってもいいのではないかと考えました。