角膜の移植手術の成功により、視力を取り戻した女性ジーナと、ジーナの変化に強い嫉妬心を抱く夫のジェームズ、すれ違いの末に辿り着く、ある悲劇を描いた映画『かごの中の瞳』。
観客の視界を奪う、独特な演出が特徴的な、本作の魅力をご紹介します。
映画『かごの中の瞳』の作品情報
【公開】
2016年公開(アメリカ映画)
【原題】
All I See Is You
【監督・製作・脚本】
マーク・フォースター
【協同脚本】
ショーン・コンウェイ
【キャスト】
ブレイク・ライブリー、ジェイソン・クラーク、アナ・オライリー、イボンヌ・ストラホフスキー、ウェス・チャサム、ダニー・ヒューストン
【作品概要】
視力を取り戻した妻のジーナに、戸惑いと嫉妬心を感じた夫ジェームズが、ある行動をとった事により起きる悲劇を描いたサスペンス。主演に、テレビシリーズ『ゴシップガール』でブレイクしたブレイク・ライブリー。嫉妬深い夫のジェームズに『ターミネーター:新起動 ジェニシス』でジョン・コナーを演じた、ジェイソン・クラーク。監督は『007 慰めの報酬』『ネバーランド』のマーク・フォースター。
映画『かごの中の瞳』のあらすじ
タイのバンコクで、保険会社に勤務する夫のジェームズと暮らすジーナ。
ジーナは幼少期に、交通事故に遭っており、両親を失ったうえに、自身も失明していました。
それでもジーナは、ジェームズの献身的な介護のお陰で、幸せに暮らしていました。
ジェームズは、ジーナとの間に子供を授かる事を望んでいますが、医師からはジェームズの問題で、子供は無理だと聞かされます。
ある時ジーナは、名医と評判の高い、ヒューズ医師に角膜の移植手術を提案されます。
ヒューズ医師から「角膜の移植手術で、右目の視力は0.4まで回復する」と診断されたジーナは、ジェームズの勧めにより、移植手術を受ける事を決意します。
角膜の移植手術の翌日、ジーナは完全ではないですが、視力を取り戻します。
ジーナはジェームズの姿を初めて目にし、感動の涙を流しますが、想像していた姿とは違い、少し落胆した様子も見せます。
視力を取り戻したジーナに、ヒューズ医師は2種類の目薬を渡し、1時間おきに使用するように伝えます。
ジェームズは、「色が見たい」と望むジーナを、生花市場へと連れて行きます。
生花市場で楽しそうな様子を見せたジーナですが、自宅に戻ると、想像していた部屋と違い、落胆の様子を見せます。
ジーナは飼っていた犬の散歩に出かけるようになり、ダニエルという男性と知り合い、仲良くなります。
ジェームズは、ジーナに2度目の新婚旅行として、バルセロナで暮らすジーナの姉、カーラ夫婦に会いに行く事を提案します。
バルセロナに到着したジェームズとジーナは、カーラと夫のラモンに歓迎されます。
ですが、ラモンは真面目なジェームズとは対照的な性格で、陽気で常識外れの部分がありました。
ジェームズは、ラモンと距離を置きますが、ジーナはラモンの影響を受け、次第に開放的な性格となり、セクシーなドレスに身を包み、派手なメイクをして、夜の街に出かけるようになります。
夜の街に、カーラ夫婦と出かけたジーナとジェームズ。ですが、ジーナが痴漢にあった際にジェームズは何も出来ず、ラモンが追い払った為、ジーナはジェームズに強い不満を抱くようになります。
ジェームズは、視力を取り戻したジーナが豹変していく様子に戸惑いを感じるようになり、ジーナを連れてタイに戻ります。
映画『かごの中の瞳』感想と評価
視力を取り戻した妻ジーナの変化により、戸惑いと嫉妬の入り混じった、複雑な感情を抱く夫ジェームズの姿を描いた『かごの中の瞳』。
視力を奪われたジーナを献身的に介護していたジェームズは、優しく真面目な男ですが、違う見方をすれば退屈な男にも見えます。
視力を取り戻したジーナは、いろいろな景色が見えるようになり、その視線が、ジェームズだけに注がれる事はありませんでした。
派手な衣装やメイクを好むようになったジーナは、これまで抑圧していた自分を解放しただけといえますが、今度は逆にジェームズが、ジーナの事が見えなくなる、分からなくなるという皮肉な結果となります。
もともとが、性格的に合わなかっただけともいえますが、世界を広げていくジーナと対照的に、ジェームズはジーナしか見えておらず、ジェームズにとっての世界はジーナなのです。
そしてジェームズは、過去のジーナを取り戻す為にある歪んだ行動に出るのですが、その部分について、ハッキリと映像で描かれていません。
その為、ジェームズがジーナに向けて行ったと思われる、目薬への細工やジーナの愛犬を捨てた行為などは、作品内の情報などから、こちら側が推理するしかありません。
本作においての核心的な部分について、観客の視覚を奪っているといえるでしょう。
一方的とはいえ、ジェームズのジーナに対する愛は本物です。ですが、ジェームズへの愛情を失ったジーナにとっては、ジェームズは自分の全てを奪う、危険な存在となりました。
この点において、本作はサスペンスともいえますし、ラブストーリーともいえる、鑑賞した人によって大きく受け取り方の変わる作品となっています。
まとめ
本作は人によって、受け取り方の変わる作品です。
ジェームズは真面目で保守的な性格で、仕事も認められて出世していますが、視力の戻ったジーナには、退屈な存在に見えています。
ジェームズは、自身に子供を作る事が出来ないという、男性として後ろめたく自信を持てない部分があります。
それでも、ジーナに対しては、献身的な愛情を注いでおり、ジーナが選んだ新しい物件に文句を言わない辺り「自分に可能な事は、全て与えたい」という想いを感じます。
しかし、ジェームズの愛情は、見方を変えると、ジーナを私物化した考え方です。
ジェームズが望んだのは、自分を必要としてくれるジーナで、その事で自らの自尊心を満たしていたとも考えられます。
本作のラストで、ジーナはジェームズの束縛から解放され、自分の人生を歩み始めたともいえます。
ジェームズ目線で見れば、愛した女性に裏切られた悲劇の物語、ジーナ目線で見れば、新たな人生を切り開いた物語、双方の捉え方ができる本作は、鑑賞した人の人生観に委ねられた作品となっています。