女性たちの連帯が生む新たな希望……
ままならない人生に葛藤しながらも自由に生きたいと願う女性たちの友情を、光に満ちた淡い映像美と幻想的な世界観で描く感動作です。
2024年・第77回カンヌ国際映画祭にてインド映画として初めてグランプリに輝き話題となりました。パヤル・カパーリヤー監督の初長編劇映画です。
穏やかで詩情に満ちた映像の中、過酷な境遇の中で女性たちが自由に向かって歩み出す姿を描く傑作の魅力をご紹介します。
映画『私たちが光と想うすべて』の作品情報

(C)PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINEMA – 2024
【日本公開】
2025年(フランス・インド・オランダ・ルクセンブルク合作映画)
【監督・脚本】
パヤル・カパーリヤー
【編集】
クレマン・パントー
【キャスト】
カニ・クスルティ、ディビヤ・プラバ、チャヤ・カダム、リドッゥ・ハールーン、アジーズ・ネドゥマンガード
【作品概要】
第77回カンヌ国際映画祭でインド映画史上初のグランプリを受賞した話題作。日本から審査員として参加した是枝裕和監督も本作を絶賛しました。
ドキュメンタリー映画『何も知らない夜』(2025)で、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023インターナショナル・コンペティション部門の大賞を受賞するなど注目を集めた、ムンバイ出身の新鋭パヤル・カパーリヤー監督の初長編劇映画です。
都会で生きる女性たちが、ままならない人生と向き合いながらも、ありのままでいたいと願いながら支え合う姿を描きます。夢のように詩的で幻想的な世界観が、これまでのインド映画のイメージを一新しました。
出演はカニ・クスルティ、ディビヤ・プラバ。パルヴァディ役を『花嫁はどこへ?』(2024)のチャヤ・カダムが演じます。
映画『私たちが光と想うすべて』のあらすじとネタバレ

(C)PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINEMA – 2024
ムンバイの病院で働く看護師プラバと年下の同僚アヌはルームメイトですが、真面目なプラバと陽気なアヌの間には心の距離がありました。
プラバは親が決めた相手と結婚したものの、ドイツで仕事を見つけた夫からは1年以上も連絡がありません。
一方、アヌにはシアーズというイスラム教徒の恋人がいますが、親に知られたら大反対されることがわかりきっていました。親からは見合いの話が持ち込まれています。
ある日、プラバ宛てにドイツ製の炊飯器が送られてきました。しかし、差出人名はありません。
そんな中、病院の食堂に勤めるパルヴァディが高層ビル建築のために自宅から立ち退きを迫られ、故郷である海辺の村ラトナギリへ帰ることになります。
ひとりで生きていくというパルヴァティの引越の手伝うために、プラバとアヌは一緒にラトナギリへ向かいました。
映画『私たちが光と想うすべて』の感想と評価

(C)PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINEMA – 2024
過酷な環境、自由へと手を伸ばす女性たち
世代も境遇もすべて異なる3人の女性たちの生き方を通して、苦しい状況の中でも自由を追い求める心の在り方を描き出す名作です。
インドの女性を取り巻く過酷な環境は、何層にもなって彼女たちを厳しく締め付けているかのように見えます。日本の根深いジェンダー問題にも根底ではつながっていると言えるでしょう。
主人公のプラバには、ドイツで働く夫がいます。彼に会ったのはお見合いの時の一度きりで、しかも大勢の親戚と一緒でした。
家が決めた全く知らない相手と結婚する風習が、インドにはまだ残っています。そんな状況でありながらも、彼女は深く夫を愛していましたが、夫からの連絡は1年以上も途絶えています。
プラバのルームメイトのアヌは、陽気な性格で、恋を楽しんでいます。しかし、恋人シアーズはイスラム教徒でした。彼らは互いの家族には決して受け入れてもらえないことを理解し、この関係を今後も続けるべきか深く悩んでいます。
周囲の関係ない人たちすらも、2人の交際を受け入れがたく感じています。それほどまでに、宗教間の対立は根深い問題です。
食堂で働くパルヴァティは、高速ビル建設地となった我が家から追い出されます。20年以上も住んでいながら、居住権を示す書類を持っていないことが理由でした。
3人それぞれが、自分の力ではどうにもならない人生の苦しみにさらされ、進むべき道の選択を突きつけられます。どんなに厳しい中でも、彼女達は自由に生きる道を模索し続けるのです。
タイトルにある「光」の意味について考えさせられます。大都市ムンバイを照らす人口的な光、海辺の田舎町ラトナギリに降り注ぐまぶしいほどの陽の光、そして彼女たちが求める人生の光。
カパーリヤー監督は、「そこから抜け出す可能性を光として表現したい」と語っています。「別の道があるかもしれない」と人々が想像する可能性です。また、プラバという名は、マラヤーラム語で光を意味するそうです。タイトルは言葉遊びのようなもので「プラバが想像するすべて」あるいは「光そのもの」を表していると語っています。
最初、プラバはアヌとムスリム教徒との恋をよく思っていませんでした。しかし、ラトナギリの自然の中で本当の自分にかえり、静かな共感を抱いてアヌの存在そのものを受け入れるようになっていきます。
また、喧噪から離れたラトナギリの美しさを認めたことで、パルヴァティの生き方も受け入れられたのでしょう。自分がいなくなっても誰も気づかないと嘆くパルヴァティに言った、「私たちがいるわ」というプラバの言葉の重さに心打たれます。
電気も通らない田舎町は、しがらみに縛り付けられている者にとっては楽園そのものだったのではないでしょうか。
束の間の癒やしを得た後、プラバとアヌはまた大都会ムンバイで生きていくことでしょう。それでも、彼女たちの人生を新たな光が照らしてくれるに違いありません。
インドの実情を幻想的に映し出す

(C)PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINEMA – 2024
興味深いのは、インドの現実の姿を克明に映しながらも、詩情にあふれた幻想的なタッチを貫いている点です。カパーリヤー監督は、ムンバイの人工的で不快な光を美しく撮るために試行錯誤を繰り返したと語っています。
プラバたちが暮らすムンバイは大都市で、きらびやかなネオンに満ちています。ここにはたくさんの仕事もあり、家族の一人はムンバイに働きにきているのが実情です。
夜遅くに女性が歩いている姿から、治安のよさも伝わってきます。しかし、しょっちゅう大雨に見舞われ、ひどい時には電車が一斉にストップしてしまうと脆さも併せ持っています。
プラバとアヌが暮らすアパートの窓は、大雨だと開いてしまうため紐でくくってあります。しかし、それがほどけてしまえば部屋は水浸し。プラバが必死で部屋の水をぬぐい、ふと目に入った夫が送ってきたのであろうドイツ製の炊飯器を抱きかかえてうずくまるシーンもとても印象的です。
また、多言語国家としてのインドの現状も印象的です。言葉に不自由して患者との意思の疎通に苦労する医師のマノージが、プラバを頼り、誘惑しようとするエピソードにはリアリティがあります。
ムンバイという都会とは対照的な、のどかな海辺町ラトナギリの描写にも注目です。
おそらく、インドにはラトナギリのような田舎町の方が多いはずで、美しいけれどもインフラが整わず、人々が出稼ぎに出なくては生活が立ちゆかないのが実情でしょう。
どの町にも存在する光と影を、本作は静かに美しく映し出しています。
まとめ

(C)PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINEMA – 2024
生きづらさを抱えながら、けなげに手を取り合う3人の女性たちを詩的に映し出す傑作『私たちが光と想うすべて』。
美しく賢いプラバが愛を求める自由があったなら。宗教の垣根を越えて純粋に互いを愛し合うアヌとシアーズが、堂々と一緒になれたなら。そう願わずにはいられません。
彼らと同じ悩みを抱く人達は、きっと数え切れないほど大勢いることでしょう。誰もが自由に生きられる世界になったら、どれほど素晴らしいかと想像してみてください。
故郷を捨てなければ手に入らない自由ではなく、誰もがいつ、どこでも、自由を手にできる世界を、常に追い求めていきたいと思えるようになる作品です。


































