人気YouTuberを目指す若者たちの野心と暴走
映画『メインストリーム』が、2021年10月8日(金)より新宿ピカデリーほかで全国順次公開中です。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)のアンドリュー・ガーフィールド主演による、人気YouTuberへと駆け上がろうとする若者たちの野心と暴走を描いた本作を、ネタバレ有りでレビューします。
CONTENTS
映画『メインストリーム』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Mainstream
【監督・製作・原案・脚本】
ジア・コッポラ
【共同脚本】
トム・スチュアート
【製作】
フレッド・バーガー、ローレン・ブラットマン、ジャック・ヘラー、アンドリュー・ガーフィールド、アラン・テルピンス、ザック・ワインスタイン
【キャスト】
アンドリュー・ガーフィールド、マヤ・ホーク、ナット・ウルフ、ジョニー・ノックスヴィル、ジェイソン・シュワルツマン、アレクサ・デミー、コリーン・キャンプ、ローラ
【作品概要】
人気YouTuberへと駆け上がろうとする若者たちの、野心と暴走を描くドラマ。
監督・製作・脚本は、名匠フランシス・フォード・コッポラの孫にしてソフィア・コッポラの姪のジア・コッポラが務め、デビュー作『パロアルト・ストーリー』(2015)に続く長編2作目となります。
主演は『ソーシャル・ネットワーク』(2011)、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ(2012~14)のアンドリュー・ガーフィールドで、本作ではプロデューサーも兼任。
共演に、イーサン・ホークとユマ・サーマンを両親に持つ新鋭マヤ・ホーク、『マイ・インターン』(2015)のナット・ウルフ、ジアの従兄弟にあたるジェイソン・シュワルツマン、「ジャッカス」(00~02)シリーズのジョニー・ノックスヴィルほか、日本からもローラがチョイ役で参加。
2020年ベネチア国際映画祭にも正式出品され、全米公開時には激論を巻き起こしました。
映画『メインストリーム』のあらすじとネタバレ
夢と野心が交錯する街ロサンゼルスで、顔に傷跡を持つ女性フランキーは寂れたコメディバーで働きつつ、YouTubeに動画をアップするも、視聴者数が増えずに悩む日々を送っていました。
そんなある日、着ぐるみのバイトをしていた、スマホを持たないリンクと名乗る男と知り合った彼女は、その天才的な話術とパフォーマンスの高さに魅了され、一緒に動画作成をしようと持ち掛けます。
やがてコメディバーの同僚で作家志望のジェイクを巻き込んだ3人で、本格的に動画制作をスタート。
「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と名乗ったリンクが他人の家のプールに勝手に入ったり、無断でゴルフ場に入って騒ぐなどの動画を次々とアップしていき、再生数を着実に伸ばします。
すると、有名インフルエンサーのフアンパから接触があり、リンクとのトーク動画を撮影。そこでリンクは、当日深夜に指定した墓場に集まるよう告げます。
墓場が動画を観た人々で溢れているのを見た3人は、自分たちの勢いを実感。しかしその一方でジェイクは、リンクが何やら男性と揉めている現場を目撃するのでした。
やがて3人は、フアンパのエージェントをしていたマーク・シュワルツのプロデュースによる、YouTube配信の番組を立ち上げることに。
「人生を変える希望を皆に与えたい」というマークのコンセプトと、「視聴者を自意識とSNSから解放させたい」というフランキーのアイデアを合わせた番組を企画します。
そんな折フランキーは、顔の傷は小さい頃に父親の起こした自動車事故で負ったもので、それにより父が死んだことを悔いているとリンクに告白。「傷も君の美しさの一部だ」とリンクに励まされ、2人は結ばれます。
かくしてYouTube番組「スマホか尊厳か」がスタート。
リンクことノーワン・スペシャルが司会となって、参加者にスマホを捨ててSNSに依存しない人生を賭けたゲームをさせるこの番組は、瞬く間に視聴者数を伸ばし、大手スポンサーも順調に獲得していきます。
刺激的な日々と名声を得たフランキーら3人。ですがその一方で、フランキーとジェイクはリンクがスタッフの女性といちゃついている現場を目撃。密かにフランキーに想いを寄せていたジェイクは、リンクに彼女を悲しませるようなことはするなと忠告します。
やがて盛者必衰とばかりに、番組の視聴数が低下していくことに3人は焦り、マークからはバズる企画を求められます。
その次の番組撮影では、インスタグラムで美顔メイクをアップする女性イザベルが出演しますが、ここでリンクは、実は彼女は顔に痣があり、それを隠すためにメイクをしていると暴露。
「痣も君の美しさの一部だから、世界に見せるべきだ」と強要するリンクを、サブ(副調整室)にいたジェイクが止めようとするも、フランキーはそれを制止。観客のコールに促されたイザベルは、泣きながらメイク前の画像をアップしてしまいます。
激怒したジェイクは、番組を降りるとフランキーに告げ、去っていくのでした。
フランキーはイザベルの泣き顔をカットし、彼女が自発的に画像をアップしたと思わせるように編集した映像を配信することに。
後日リンクは、大物インフルエンサーのテッド・ウィックが司会の、ブロガーやインスタグラマーといった人気インフルエンサーたちが集う座談番組に出演。
テッドや他のインフルエンサーは、SNSに依存するなと言っておきながらSNSで活動するリンクの矛盾を問いただし、さらに番組に匿名で届いたという、未編集のイザベルが泣く動画を見せます。
リンクは、イザベルに誘惑されたと反論したのち、ついにはその場で大暴れしてしまい、警備員に連れ出されてしまいます。
フランキーはジェイクに動画をリークしたのかと問うも、彼は否定。逆にジェイクは、墓地でリンクと揉めていた男が彼の実兄だったこと、さらにリンクが富豪の生まれながらも家族と反りが合わず、放火犯として施設に入っていた過去があることを明かすのでした。
映画『メインストリーム』の感想と評価
“バズり”を求める若者の暴走をシニカルに描く
今のご時世、TwitterやFacebook、YouTubeにインスタグラムなどなど、SNSを活用している方は多いことでしょう。
今年7月にソニー生命保険が発表した「中高生が思い描く将来についての意識調査」で、将来なりたい職業の男子中学生の1位、女子2位に「YouTuberなどの動画投稿者」がランクインするなど、YouTuberに代表されるインフルエンサーはすでに職種ジャンルの一つと認識されています。
視聴者数が増えればスポンサーも付き、セレブリティになるのも夢ではない――本作『メインストリーム』は、そんな人気インフルエンサーを目指す若者が主人公です。
自分の表現力をアピールすべくYouTube動画を投稿するも、再生数が伸びずに悩むフランキーは、偶然出会った謎の青年リンクのパフォーマンスに魅了され、一緒に動画制作を持ち掛けます。
やがてバイト仲間のジェイクや辣腕エージェントのマークも加わって始めたセンセーショナルな配信番組が人気となり、瞬く間に表現者のメインストリームを歩くように。
しかし、刺激が強いほど飽きが来るのは早いもので、次第に視聴者数は下降。人気回復させるために、リンクのパフォーマンスはエスカレートしていきます。
そして、彼に動画作成を持ち掛けた際に「芸術が作りたいのか、赤の他人からの評価が欲しいのか」と問われ、「両方よ」と答えていたフランキーも、人気インフルエンサーとしての承認欲求が強くなっていきます。
リンクの暴走は止まることを知らず、動画番組内で、インスタグラマーのイザベルが隠していた顔のコンプレックスを暴露。
顔に傷跡を持つフランキーなら、彼女のコンプレックスが痛いほどわかるはず。しかし、”バズり”を求めてリンクを制止しなかったことが、イザベルの自死という悲劇を招いてしまいます。
監督のジア・コッポラは、本作制作に際して影響を受けた作品の一つに、テレビ業界の裏側を描く『ネットワーク』(1976)を挙げていますが、この作品で視聴率欲しさに過激な番組を画策する女性プロデューサーのダイアナは、まさにフランキーです。
そしてクライマックス。世間からイザベルの死の責任を問われたリンクは独白します。
「悪いのは自分だけじゃなく、それを見て楽しんでるお前らも同罪だ。お前らが求めるから俺はやったんだ」
開き直りに聞こえるこの言葉は、ネットリテラシーが不足したSNSユーザーへの皮肉です。
ひねりの効いたキャスティング
本作で何よりも目を引くのが、リンク役のアンドリュー・ガーフィールドでしょう。
コッポラ監督が、エキセントリック演技が得意な従兄のニコラス・ケイジをモデルに創作したというリンクを見事に演じており、しかも中盤でのインフルエンサーが集う座談番組で大暴れするシーンは、なんと全編アドリブだった(つまり、インフルエンサー役の俳優たちのリアクションは本物)というから驚きです。
ガーフィールドといえば、やはりSNSのFacebookを題材した『ソーシャル・ネットワーク』(2010)で注目されました。
『ソーシャル・ネットワーク』では、感情を露にしないFacebookの共同創設者マーク・ザッカーバーグと意思の疎通が図れず、次第に対立していく青年エドゥアルドを演じましたが、本作では掴みどころのない謎の男リンクという真逆な役どころなのが、ひねりが効いています(余談ですがポスターアートも、『メインストリーム』と『ソーシャル・ネットワーク』は似ています)。
もっと言うと、ガーフィールド以外にも、本作では“ひねり”の効いたキャスティングがされています。
そもそも、モデル、歌手の顔を持ちつつ、インスタグラムには360万人近いフォロワーがいるマヤ・ホークがインフルエンサーに憧れるフランキーを演じたのもひねりが効いていますし、何よりも座談番組の司会者テッド役に、ジョニー・ノックスヴィルを配しているのがポイント。
素っ裸になってハチの巣をボールにして遊べば、自分の体をエサにしてサメの一本釣りに挑戦するなど、過激な体当たりパフォーマンスで人気を博したテレビ番組「ジャッカス」シリーズ(なんと映画版の第4弾が来年に全米公開予定!)で名を上げたノックスヴィルは、ある意味で迷惑系YouTuberの先駆者。
そんな各方面から怒られまくった男を、本作でリンクの過激パフォーマンスを糾弾する側を演じさせているあたり、ひねりが利きすぎたキャスティングといえます。
「ジャッカス」映画版第4作『Jackass Forever(原題)』(2022)
まとめ
ストーリーもさることながら、絵文字の多用やYouTubeを模した画面構成、画面映りが悪い時に生じるブロックノイズなど、SNSを視覚化した映像センスも際立つ本作。
自分も、リンクやフランキーたち同様にいつの間にかSNSに支配されているのではないか?――本作を観ていると、そう自問自答したくなることでしょう。
使い方によっては加害者にも犠牲者にもなるSNS。
リンクが言うように、あなたも「スマホに触ると魂が吸い取られて」いませんか?
映画『メインストリーム』は、2021年10月8日(金)より新宿ピカデリーほかで全国順次公開中。