Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/09/01
Update

チャドウィック・ボーズマン映画おすすめ5選!かっこいい黒人俳優が差別や悪習に立ち向かった軌跡|SF恐怖映画という名の観覧車118

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile118

2020年8月23日、「アベンジャーズ」シリーズへの出演で世界的に人気を集めた俳優、チャドウィック・ボーズマンが結腸癌によりこの世を去りました。


チャドウィック・ボーズマン公式ツイッターより

今回のコラムでは新作Netflix映画『闇に棲むもの』(2020)をご紹介させていただく予定でしたが、映画界だけでなく世界情勢を変えようとした1人の俳優の刻んだ歴史を皆さんにも知っていただくため、チャドウィック・ボーズマン出演作の中から5作のおすすめ作品を当コラムに記載させていただきます。

チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ①『42 〜世界を変えた男〜』

映画『42 〜世界を変えた男〜』の作品情報


(C)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

【原題】
42

【日本公開】
2013年(アメリカ映画)

【監督】
ブライアン・ヘルゲランド

【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード、ニコール・ベハーリー、クリストファー・メローニ、アンドレ・ホランド

【作品概要】
アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを『L.A.コンフィデンシャル』(1998)などの脚本を手掛けたことで知られるブライアン・ヘルゲランドが描いた伝記映画。

ジャッキー・ロビンソンをチャドウィック・ボーズマンが演じ、ジャッキー・ロビンソンを見出したゼネラルマネージャーのブランチ・リッキーを、「スター・ウォーズ」シリーズなど数々の名作に出演するハリウッドスターのハリソン・フォードが演じ話題となりました。

【あらすじ】

1945年、ブルックリン・ドジャースのゼネラルマネージャーであるブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)はアフリカ系アメリカ人のジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)をチームへ迎え入れます。

1947年、有色人種がメジャーでプレイすることが無かった時代にメジャーへと移籍することになったロビンソンは、観客だけでなくチームメイトや各球団から激しい差別の行動を取られるようになり…。

自分を貫くことで世界を変えた伝説の男の物語


(C)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

有色人種で初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの背番号「42」は現在アメリカの全ての野球チームで永久欠番となっています。

今でこそ伝説的な扱いを受けるジャッキー・ロビンソンですが、そのメジャーリーガーとしての駆け出しは苦難に満ちたものでした。

ジャッキーを嫌ってのチームメイトの移籍や相手チームのボイコット、さらには露骨な暴力行為などを受け続けながらもジャッキーはやり返すことなく耐え忍びます。

ジャッキー・ロビンソンの生涯を描いた本作『42 〜世界を変えた男〜』(2013)では、嫌がらせを受けながらも、あくまで紳士的に耐え続けるジャッキーをチャドウィック・ボーズマンが熱演。

スポーツの優劣を決める場でなぜ肌の色で争い合うのか。

そんな理不尽に暴力を使わず「野球」で立ち向かった男の人生が描かれた作品です。

チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ②『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』

映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の作品情報


(C)2016 Marvel All rights reserved.

【原題】
Captain America: Civil War

【日本公開】
2016年(アメリカ映画)

【監督】
アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

【キャスト】
クリス・エヴァンス、ロバート・ダウニー・Jr、セバスチャン・スタン、スカーレット・ヨハンソン、チャドウィック・ボーズマン

【作品概要】
マーベル・コミックのスーパーヒーローを同一世界観で描く映画シリーズ「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の13作目にあたる作品。

シリーズの区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)も担当したルッソ兄弟が本作で監督を務めました。

【あらすじ】

人類の絶滅を目論んだ「ウルトロン」と「アベンジャーズ」の戦いでソコヴィアの街には多数の犠牲者が出ました。

度重なるアベンジャーズの戦闘行動による犠牲者の出現に痺れを切らした国際連合はアベンジャーズに国際連合の管理下に入ることを打診しますが、「キャプテン・アメリカ」ことスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)はこの提案を拒否。

アベンジャーズとしての戦線から離脱するトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、組織の維持のため国際連合下に入るようにスティーブを説得しようとしますが…。

「団結」の難しさと「復讐」の身勝手さを描く内乱(シビル・ウォー)映画


(C)2016 Marvel All rights reserved.

「United we stand, Divided we fall.」(団結すれば立ち、分裂すれば倒れる)。

アメリカの建国の歴史のなかで多く使われてきたことわざであり、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)のキャッチコピーとなったこの言葉は本作を的確に表現しています。

「世界をより良くする」と言う理念を掲げていたとしても、生まれも育ち違う人間たちの見ている「世界」は異なります。

本作ではその「世界」の違いによりあっさりと崩れていく「団結」と、「ヒーロー」であっても「人間」である彼らの心の弱さを描いています。

本作でチャドウィック・ボーズマンはシリーズ初登場となるティ・チャラ(ブラックパンサー)を演じ、「復讐」に身を投じキャプテン・アメリカの親友バッキーを執拗につけ狙いながら「復讐」の愚かさを理解していく様を見事に演じ、この演技が『ブラックパンサー』(2018)の成功に繋がっていくことになります。

チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ③『マーシャル 法廷を変えた男』

映画『マーシャル 法廷を変えた男』の作品情報

(c) 2017 Marshall Film, LLC. All Rights Reserved.

【原題】
Marshall

【日本公開】
2017年(アメリカ映画)

【監督】
レジナルド・ハドリン

【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、ジョシュ・ギャッド、ケイト・ハドソン、ダン・スティーヴンス、ジェームズ・クロムウェル

【作品概要】
マーベル・コミックで「ブラックパンサー」の脚本を務めていたレジナルド・ハドリンが実在の人物を題材に製作した伝記映画。

『スティーブ・ジョブズ』(2013)でジョブズの成功を支えたスティーブ・ウォズニアックを演じたジョシュ・ギャッドが共演を務めました。

【あらすじ】

1940年、全米黒人地位向上協会(NAACP)で弁護士を務めるサーグッド・マーシャル(チャドウィック・ボーズマン)は、コネチカット州で発生した黒人男性による白人女性へのレイプ事件の弁護を担当することになります。

現地のユダヤ人弁護士のサム・フリードマン(ジョシュ・ギャッド)と共に容疑者ジョゼフ・スペル(スターリング・K・ブラウン)の無実を主張するマーシャルでしたが、黒人弁護士が黒人容疑者を弁護することに厳しい批難が相次ぎ…。

人種差別が世界を包む時代に抗った弁護士の物語

「マレイ対ピアソン裁判」などの有名な裁判に勝訴し、アフリカ系アメリカ人初の最高裁判所判事ともなったサーグッド・マーシャルを題材とした法廷映画。

本作は日本では劇場公開されなかったものの、主題歌の『Stand Up for Something』がアカデミー賞歌曲賞にノミネートされるなど本国では話題となった作品でした。

1940年代という人種差別が色濃く残る時代では、「黒人」による「レイプ事件」は仮にそれが冤罪であったとしても、判決を覆すことは非常に難しいと言える風潮でした。

しかし、「法による正義」を信じるマーシャルはあらゆる逆境に立ち向かい、容疑者の無実を立証しようとします。

本作の特筆すべき点はメインとなる登場人物が「黒人」「ユダヤ人」「白人女性」と、1940年代では「白人男性」から差別を受けていた人種であると言う部分です。

この事件が世界をどう変えていくのか、チャドウィック・ボーズマン演じるサーグッド・マーシャルの活躍を学べる作品です。

チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ④『ブラックパンサー』

映画『ブラックパンサー』の作品情報


(C)Marvel Studios 2017

【原題】
Black Panther

【日本公開】
2018年(アメリカ映画)

【監督】
ライアン・クーグラー

【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ

【作品概要】
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場した「ブラックパンサー」を主人公とした「MCU」18作目の作品。

『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)を監督したライアン・クーグラーが本作の監督を務め、同じく『クリード チャンプを継ぐ男』で主人公クリードを演じ高い評価を受けたマイケル・B・ジョーダンがヴィランを演じ話題となりました。

【あらすじ】

世界最強の硬度とエネルギーを持つ鉱石「ヴィブラニウム」を多数保管するワガンダ国は、自らを未開の部族とすることでその強すぎる力を守り通してきました。

「アベンジャーズ」の分裂のきっかけとなった事件への介入を終え、正式に国王を継承するティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)はCIAの捜査官エヴェレット・ロス(マーティン・フリードマン)と協力することになりますが……。

「維持」と「改革」、「王」のあるべき姿を探す戦い


(C)Marvel Studios 2017

第91回アカデミー賞において作品賞を含む7部門へのノミネートを果たし、『アベンジャーズ』(2012)を越える興行収入を記録した映画『ブラックパンサー』(2018)。

本作では国王となったティ・チャラが、「王」としてのあるべき姿を苦悩しながら模索していく様子が描かれています。

当初ティ・チャラは先代までの国王がそうであったように、長く守り抜いてきた「伝統」を貫く姿勢を見せます。

しかし、時代によって情勢が変わる中、それでも守ろうとする「伝統」の意味を疑い出した時、「伝統」の犠牲となったヴィラン「キルモンガー」が姿を現します。

選ぶべきは「維持」か「改革」か、新しい生活様式を求められるようになり「悪習」との対峙を求められる現代にもぴたりとハマる作品といえます。

チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ⑤『ザ・ファイブ・ブラッズ』

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の作品情報

【原題】
Da 5 Bloods

【日本公開】
2020年(NETFLIX独占配信映画)

【監督】
スパイク・リー

【キャスト】
デルロイ・リンドー、ジョナサン・メイジャーズ、クラーク・ピーターズ、ノーム・ルイス、イザイア・ウィットロック・Jr、チャドウィック・ボーズマン

【作品概要】
『マルコムX』(1993)や『ブラック・クランズマン』(2019)など、差別問題を正面から捉える作風が特徴のスパイク・リーが監督した戦争映画。

『マルコムX』などスパイク・リー監督作品に多く出演するデルロイ・リンドーが主演を務めました。

【あらすじ】

ベトナム戦争からの帰還兵のポール(デルロイ・リンドー)は、戦地に残してしまったノーマン隊長(チャドウィック・ボーズマン)の亡骸と金塊を探すため、共に戦った戦友3人と息子を加えた5人で再びベトナムを訪れます。

しかし、そこで目にしたものは未だ終わらぬ「戦争の続き」を痛感させられる光景で……。

深く残された「戦争の爪痕」を真正面から描く戦争映画

『地獄の黙示録』(1980)や『フルメタル・ジャケット』(1988)でベトナム戦争の悲惨さは描かれ、『ランボー』(1982)や『ディア・ハンター』(1979)でベトナム戦争からの帰還兵の持つ苦しみは描かれてきました。

しかし、ベトナム戦争が戦地となったベトナムに残した「爪痕」が描かれたことはほとんどなく、本作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)はその意味でも非常に珍しい作品であると言えます。

さらに本作では「黒人から見たベトナム戦争」にも真正面から向き合い、戦争において現地では「被害者」しかいないのだと、戦争を経験したことのない世代がこの映画を観るべき意味を与えてくれます。

チャドウィック・ボーズマンが演じた、「ある使命」を心に刻み戦場で奮闘したノーマン隊長。

戦地にはノーマン隊長のような人間が本当にいたのだと思わず涙するほど、リアリティの高いチャドウィック・ボーズマンの演技が光る作品でもありました。

まとめ


(C)Marvel Studios 2017

黒人俳優として2番目となるアカデミー主演男優賞を受賞し、映画界で間違いなく黒人俳優の立ち位置を変えていった俳優デンゼル・ワシントン。

そんなデンゼル・ワシントンが留学費を提供し、映画界における黒人俳優のあり方に一石を投じると期待された俳優チャドウィック・ボーズマン。

2016年に結腸癌との闘病が始まって以降も人種差別や悪習に立ち向かう男を演じ続け、アメリカのみならず世界中の人間に問題提起をした彼は間違いなく「世界を変えた男」となりました。

彼の残した功績を胸に秘め、そして同じ過ちを人間が繰り返さないように、我々はチャドウィック・ボーズマンの出演作品を語り継いでいかなければならないと強く思います。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile119では、映像配信サービス「Netflix」が世界に配信した最新メキシコ映画『闇に潜むもの』をネタバレあらすじを含めて魅力をご紹介させていただきます。

9月9日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『大鹿村から吹くパラム』あらすじ感想と評価解説。東京学生映画祭でグランプリを受賞した金明允(キムミョンユン)は日本で何を見たのか⁈|銀幕の月光遊戯 82

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第82回 南アルプスに囲まれた長野県下伊那郡大鹿村。村の人々と偶然出会った韓国からの留学生・金明允(キム・ミョンユン)監督は、自然と共存して暮らす人々にカメラを向けます。古 …

連載コラム

遊郭編 最終話ネタバレ|童磨役声優は宮野真守!感想と考察解説×原作登場シーン比較で分かる“完璧な掴み”【鬼滅の刃全集中の考察33】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第33回 大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。 2021年12月5日より放送 …

連載コラム

映画『ティーンエイジ・パパラッチ』感想とレビュー評価。13歳少年が手にしたカメラが過熱セレブリティの実像を活写|だからドキュメンタリー映画は面白い35

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第35回 少年パパラッチが、お騒がせセレブたちに突撃取材! 今回取り上げるのは、2010年にアメリカ公開されたドキュメンタリー映画『ティーンエイジ・パパ …

連載コラム

映画『キュクロプス』あらすじ感想と評価解説。画家ルドンの描いた単眼の巨人が復讐鬼と化す理由|シニンは映画に生かされて5

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第5回 はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。 今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。 第5回でご紹介する作品は、妻とその愛人を殺した罪で投獄 …

連載コラム

映画『完全なる飼育ètude』ネタバレ感想と内容解説。シリーズ9作目にして初の“女性が男性を飼育する”愛憎劇|映画という星空を知るひとよ39

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第39回 映画『完全なる飼育ètude』は、少女と中年男の歪んだ純愛を描いてきた「完全なる飼育」シリーズ第9作めの作品です。 これまでのシリーズと大きく違って、 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学