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Entry 2018/08/01
Update

マット・デイモン『オデッセイ』と宇宙に移住する人類の問題点|SF恐怖映画という名の観覧車8

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile008

8月3日に『金曜ロードSHOW!』で放映予定の映画『オデッセイ』(2016)。

事故で1人火星に取り残されたマーク・ワトニーが生きて地球に帰るために知識の限りを尽くす宇宙サバイバル映画な今作は、火星でジャガイモを育てるシーンが有名です。

NASAのスタッフを科学考証に起用し、ワトニーの生き残る方法の正当性が売りでもあるこの作品ですが、実は「火星」は方法次第では人が住めるのではないか、と様々な科学者が提唱する星でもあります。

今年は世界各地で異常気象が発生し、日本でも連日高温が続いており、そんな異常気象が続く状況を危惧し「いつか地球が終わりを迎える」と悲観する声も多いと同時に、「人類が住める条件下の惑星を探す」と言う夢のような研究も行われています。

その可否はともかく、映画の世界でもCG技術の発展により「人類移住」をコンセプトにした映画は多く作られてきました。

今回はそんなコンセプトと『オデッセイ』で主演を勤めたマット・デイモンが出演する映画から、「人類移住」に伴う「技術」以外での問題点を考えていきたいと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『エリジウム』(2013)

『第9地区』(2009)で世界的に有名になったニール・プロムガンプが、マット・デイモン主演で製作した『エリジウム』。

余命いくばくもない主人公がその病気を治すため、富裕層しか住めないスペースコロニー「エリジウム」を目指す今作は、プロムガンプ監督らしい世界観のSF作品になっています。

かつて、黒人と非黒人と言う人種の差で強い差別行為を行ったアパルトヘイト政策。

政策そのものは既に廃止となっていますが、その影響を直に受け、深刻な治安の悪化が今もなお続くヨハネスブルクで生まれ育ったプロムガンプ監督の描く世界は、「差別」や「格差社会」と言った要素が強く押し出されています。


© 2013 MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

『エリジウム』では、大気汚染などによる地球環境の悪化に伴い、自然等も完全に移植することに成功したスペースコロニーが建造されます。

そのスペースコロニーでは、ほぼ全ての病気を一瞬で完治できる医療ポッドなどあらゆる技術が発展していて人類にとって夢のような生活が繰り広げられています。

ですが、コロニーに住めるのは富裕層に限り、貧困層や移住を認められていない人間は、ロボットによる厳しい勤務管理と、治安も生活環境も悪化した地球で過ごし続けています。

コロニーへの不法侵入は死罪で、その場で殺害も認められていると言う厳しい管理の中、ロクな医療も受けれず死を待つだけの主人公による反乱が描かれた今作。

考えてみれば現実でも、70億人を越えた地球人口の全ての人間を移住できる環境を用意することは、素人目に考えても難しいことです。

そうした状況下で、間違いなく優先される「権力を持つ人間」や「富裕層」、ヨハネスブルクと言う過酷な状況下で生まれ育ったプロムガンプ監督だからこそ描ける、技術の発展でも人間の「本質」は変わらないと言うメッセージが伝わってくる作品です。

映画『インターステラー』(2014)

「人類移住」を描いた作品として、個人的に外すことが出来ない作品が、『ダークナイト』(2008)のクリストファー・ノーラン監督が手掛けた『インターステラー』。

人類が移住できる環境の星を探し、様々な星を巡る壮大な物語が圧倒的な映像美によって描かれた今作は、3時間ほどの上映時間でちょっとした「宇宙旅行」を終えたような鑑賞後感を味わえる名作です。


(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

この作品の物語でメインとなるのは、限られた時間の中で移住可能な星を探す博士たちと主人公である宇宙船のパイロットなのですが、それぞれが自身の「想い」のため動こうとします。

恋人を助けたいと言う想い、自身の失態を隠したいと言う想い、家族にまた会いたいと言う想い、生きて帰りたいと言う想いなどそれぞれの思惑が交差し「人類を救う」任務が困難になっていきます。

しかし、今作ではその「想い」こそが重要な鍵となり、終盤の大事な展開へと繋がります。

人それぞれの「想い」は破滅をももたらしかねない危険な要素であると同時に、それこそが人を動かす動力源であると表現している『インターステラー』は、「宇宙」と言う壮大なスケールの世界を描きつつも「人間」の内部を深く描いてもいる作品でした。

まとめ


(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

人類の歴史の中で、大きな危機的出来事は「人」によって招かれてきました。

今もなお続く異常気象も、際限の無い技術の発展が招いたとも言われ、「人」が招く事柄の深刻さは年々増しているとすら言えます。

しかし同時に、災害の発生時にその被害を最小限に止めたり、復興に尽力出来るのも「人」の力です。

それは「人類移住」と言う夢物語でもきっと変わりなく、『エリジウム』や『インターステラー』を見た後は、本質的な「人」の「気持ち」こそが夢物語すらも現実に出来るのではないかと想いを巡らせてくれます。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile009では、次々とゲーム化される名作ホラー映画の数々を紹介しつつ、各作品の映画との繋がりや、「体験する映画」としてのゲームと映画の関わりを検証していきたいと思います。

8月8日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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