Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2026/08/17
Update

【ネタバレ】映画『左利きの少女』あらすじ感想と結末の評価解説。“左手づかいは悪魔の子”と叱られた少女と母姉の物語

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

ショーン・ベイカー監督作のプロデュースなどを務めたツォウ・シーチンの単独監督デビュー作

『左利きの少女』は、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2018)などのショーン・ベイカーが編集・製作に名を連ね、ショーン・ベイカーと共に『テイクアウト』(2025)で共同監督を務めたツォウ・シーチンが単独監督デビューした作品です。

シングルマザーの母・シューフェンと姉・イーアンと暮らす左利きの少女・イージン。

祖父はイージンの左利きをみて、左手は「悪魔の手」だと言い、イージンは罪悪感を抱き始めます。

借金を抱えた母は台北でやり直そうと奮闘しますが、イーアンと顔を合わせれば口喧嘩になり、次第に家族の罪が炙り出されていきます。

ショーン・ベイカー監督のiPhoneで撮影『タンジェリン』(2017)のように、iPhoneを駆使し台北の「通化街夜市(臨江街夜市)」でロケを敢行しました。

アジア版『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のような少女の目線で送る台北の夜市の風景や、家族の姿を映し出します。

映画『左利きの少女』の作品情報


(C)2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2026年(台湾・フランス・アメリカ・イギリス合作映画)

【原題】
左撇子女孩 Left-Handed Girl

【監督】
ツォウ・シーチン

【脚本】
ツォウ・シーチン、ショーン・ベイカー

【編集】
ショーン・ベイカー

【キャスト】
ニーナ・イエ、マー・シーユエン、ジャネル・ツァイ

【作品概要】
監督を務めたツォウ・シーチンは、ショーン・ベイカーと共同監督で『テイクアウト』(2025)を製作。以降ショーン・ベイカー監督作品のプロデューサーを務め、『左利きの少女』で単独監督デビュー。

イージンを演じたのは、台湾のCMで見ない日はないと言われる売れっ子の子役ニーナ・イエ。姉のイーアン役には、本作が本格的映画経験となったマー・シーユエン。

シングルマザーのシューフェン役には、『台北に舞う雪』(2010)、『星空』(2017)のジャネル・ツァイが務めました。

映画『左利きの少女』のあらすじとネタバレ


(C)2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

5歳の少女・イージンは、借金を抱えるシングルマザーのシューフェンと姉のイーアンと共に田舎町から台北に戻ってきます。

シューフェンは、台北の夜市で麺屋台の店を始めます。一方、イーアンはビンロウ屋で働いています。

シューフェンとイーアンは、顔を合わせれば喧嘩ばかりで、何を話しているのかイージンが聞こうとすると「大人の話に入らないの」と怒られてしまいます。

台北に住むシューフェンの両親の元に挨拶しに行くと、イージンが左手で食事をしているのを見た祖父が「左手は悪魔の手だ」と直すように言われます。

すぐに、そんな古臭いことを今は言わないと祖母がたしなめますが、イージンは左手が良くないことをするのではと思うようになります。

シューフェンが働く夜市にすっかり馴染んだイージンでしたが、つい万引きをしてしまうようになります。万引きをしては、家の箱の中にしまうイージン。

シューフェンの元に、10年前に工場が倒産して一家で蒸発し、借金を残したイーアンの父親がガンで余命があまりないと病院から連絡がきます。

病院に見舞いに行くシューフェンに、イーアンは自業自得だから放っておけばいいと言いますが、シューフェンは見舞いに行き、父親が亡くなるとその葬式代と病院代を代わりに払います。

一方、イーアンもイーアンで、ビンロウ店の店長と交際し、妊娠してしまいます。離婚したと言っていた店長でしたが、実際は離婚しておらず、イーアンとの不倫を知った妻が店に怒鳴り込んできます。

イーアンは店をやめますが、そのことも妊娠したこともシューフェンに言いません。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『左利きの少女』ネタバレ・結末の記載がございます。『左利きの少女』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

シューフェンは、葬式代を出したことにより出費がかさみ、数ヶ月経っても夜市の露店の賃料を払えずにいます。

集金にきては怒鳴られているシューフェンを隣で雑貨店を営んでいるジョニーは心配し、助けたいと言いますが、自分で工面するとシューフェンは頑なに金銭支援を受けることを拒みます。

一方で、シューフェンにジョニーが好意を抱いていることを感じていたシューフェンは、ジョニーと恋人関係になります。

シューフェンは自分の母にお金を貸してほしいと相談しに行くと、家を借りるお金も貸したのに、まだ返していないと断られました。「嫁いだ娘は他人と同じ」とまで言われます。

お金に困っていることを感じ取っていたイージンは母を助けたいという思いから祖母の家から封筒を盗み、質屋に持って行きます。

その封筒が祖母が加担していた移民に渡す偽装パスポートなどが入っていました。困惑した質屋からイーアンに連絡が入ります。

連絡を受けたイーアンに、イージンは、祖父に左手は悪魔の手と言われ、悪いことをしたのは自分ではなく「悪魔の手」だと言います。

イージンが封筒を盗んだことにより、逮捕を免れた祖母はイージンに感謝し、シューフェンにお金を貸します。

そのお金を預かったイーアンはシューフェンに渡し、「子供のしつけをする」と言ってイージンと共にイージンが盗んだものをお店に返しに行きます。

シューフェンとイーアン、それぞれが事情を抱えるなか、祖母の還暦祝いのパーティが行われます。

そこにやってきたのは、ビンロウ店の店長と妻でした。イーアンが妊娠していることが、シューフェンだけでなく、会場の皆に知れ渡ってしまいます。

店長の妻は「うちには娘しかいないから、子供が息子だったらお金を出すから子供をちょうだい」と言います。

イーアンは怒りながら、「子供はとっくにいなくなった」と怒鳴ります。そんなイーアンにシューフェンは「本当のことなの」と怒り、「何も学んでいないのね」と言い捨て席に戻ります。

最悪の空気のなか、シューフェンの妹が何とか仕切り直そうとしますが、遮ってイーアンがイージンと共に壇上に上がります。

イーアンは酔っ払った様子で祖母の還暦を祝うとイージンに耳打ちして何かを言うように仕向けます。イージンは動揺しながら、「曽おばあちゃんおめでとう」と言います。

「曽おばあちゃんじゃなくておばあちゃんよ」と言いますが、イーアンは「イージンは私が産んだの、母さんは隠し通すつもりだったのかもしれないけど」と衝撃の暴露をします。

イーアンのためというシューフェンにイージンは「自分のメンツのため」と言い、祖母は「なぜ今その話を?」とメンツをつぶされて怒ります。

後日、シューフェンの露店には、手伝いに来たイーアンの姿があり、音楽に合わせて楽しそうに踊るイージンの姿がありました。

『左利きの少女』の感想と評価


(C)2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

ツォウ・シーチンの単独監督デビュー作であり、ショーン・ベイカー監督が製作・脚本に名を連ねた映画『左利きの少女』。

5歳の少女・イージンの視点で描く台湾の夜市の様子や、左利きは「悪魔の手」と言われ罪悪感を抱いたり、罪を重ねてしまったりするイージンの姿は、まさにアジア版『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2018)と言えます。

様々な世代の女性を通して、家父長制社会と女性の抑圧が描かれている本作。

シングルマザーのシューフェンは、工場の倒産により蒸発してしまった夫の借金を抱えています。そんな苦労をさせられた張本人であるイーアンの父が、ガンにより余命わずかと知ると病院に通い、病院代や葬式代までも肩代わりします。

そんなシューフェンに対し、イーアンやシューフェンの妹たちは「慈善活動じゃない」「なぜ肩代わりする必要が」と言いますが、シューフェンは聞かず、そうするしかないと受け入れ何とかしようと自分を追い込みます。同時にどこか男性に精神的に頼っている部分もあります。

苦労してきたシューフェンの姿を見てきたイーアンは、男性に頼らず自分の力で稼ごうとする意志がうかがえますが、一方でどこか自暴自棄な様子もうかがえます。

その理由が終盤に明かされる秘密につながります。イーアンは夜市で高校の同級生に会った際に、どうして急に姿を消したのかと言われます。成績優秀で人気もあったイーアンですが、高校を卒業せず、大学にも進学していません。

それは、イージンを妊娠し、出産したからなのでしょう。シューフェンは、イージンがイーアンの子である事実を祖父母や周りに隠し、イージンにも真実を伝えず自分の子として育ててきました。

イーアンのためというシューフェンに、「自分のメンツを保つため」とイーアンは言います。自分が産んだ子なのに、自分の子供として育てられない、若くして未婚の母になることは恥ずかしいことだと植え付けられたことに反発しているのです。

シューフェンが自分のメンツを大事にしていることも事実でしょう。しかし、イーアンを守りたい気持ちも、しっかりと自分の人生に責任を持って生きてほしい気持ちもまた事実であり、イーアンがまだ未熟であることも事実です。

誰しも不器用で不完全だからこそ迷い、ぶつかるのです。不器用さと、社会の根深い抑圧、両方の側面を本作は浮き彫りにしていきます。

シューフェン以上にメンツを大事にし、家父長制社会で生きてきたのが、シューフェンの母です。シューフェンは4人きょうだいの長女で2人の妹と一人の弟がいます。

母は、息子ばかり可愛がり、「嫁に行った娘は他人も同然」と言い、皆で分けるはずの家も弟の名義に変更しています。

そして、働いていた店の店長との間に妊娠したイーアンに対し、店長の妻は「男の子だったら私たちにちょうだい」と言います。信じられないような提案ですが、その根底にあるのは家父長制社会なのです。

まとめ


(C)2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

“左手づかいは悪魔の子”と叱られた少女と母姉を描く映画『左利きの少女』。

日本においても、昭和の頃などは、左利きは苦労する、直すべきという風潮があったと言います。矯正され、鉛筆や食べる時だけ右利きという人もいました。

しかし、現代の日本において左利きを矯正させようという風潮は感じられません。台湾においても左利きを良くないと思うのは、祖父のような上の世代だけなのかもしれません。

左利きを通して描かれているのは、変化しつつある価値観と、全時代的な価値観によって今もなお抑圧されている人々がいる現状です。

「悪魔の手」と言われ、よくないことをしてしまうのは左手だというイージンの幼さや、イージンなりに家族を助けようとする姿は、家族の大変な状況と対比してユーモラスな空気感を醸し出します。そのバランス感覚も『フロリダ・プロジェクト』に通じる点といえます。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

Netflix映画『ハーフ・オブ・イット』ネタバレ解説と考察感想。ラブレターの代筆がもたらす真実の愛

愛は寛大でも親切でも謙虚でもない。愛は厄介。おぞましくて利己的。それに大胆。 Netflix映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』は、「ラブレターの代筆」という古典的な設定から始まる青春ス …

ヒューマンドラマ映画

映画『ワンダーウォール劇場版』感想とレビュー評価。大学側と対立する学生らの心情を描き反響を呼んだドラマの劇場版

『ワンダーウォール 劇場版』は、2020年4月10日(金)より、全国順次公開 京都の片隅に存在する学生寮を舞台に、学生寮の存続を巡り、大学側と対立する学生達の心情を描いた群像劇『ワンダーウォール 劇場 …

ヒューマンドラマ映画

『土を喰らう十二ヵ月』映画原作ネタバレとあらすじ感想。水上勉の精進レシピは“食することの奥深さ”

水上勉の『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』を原案とする 映画『土を喰らう十二ヵ月』が2022年11月11日(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開! 昭和36年(1961)に『雁の寺 …

ヒューマンドラマ映画

『ブラック・クランズマン』感想と内容解説。スパイク・リーというニューヨーク派映画監督の孤高と才能

映画『ブラック・クランズマン』は2019年3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開 1970年代後半、アメリカコロラド州のコロラドスプリングズで黒人として初めて警察官に採用されたロン …

ヒューマンドラマ映画

『ある少年の告白』ネタバレ感想。映画の結末で殻を破ることが出来た人間たちの可能性を示唆

NYタイムズ紙がベストセラーに選んだ 胸打つ衝撃の実話を映画化! 今もなお、アメリカ中西部、南部に残る同性愛矯正施設。同性愛を克服するため施設に入れられた少年の体験と、本当の愛とは? ルーカス・ヘッジ …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学