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【東京ドキュメンタリー映画祭2023】グランプリ受賞式開催!各受賞作は12月22日まで新宿K’s cinemaにて作品上映

  • Writer :
  • 星野しげみ

東京ドキュメンタリー映画祭2023授賞式開催!

2023年で6回目を迎え、2023年12月9日(土)〜22日(金)/新宿K’s cinemaにて開催の「東京ドキュメンタリー映画祭2023」

「短編」「長編」「人類学・民俗映像」の各コンペティション部門の厳選された作品のほか、舞踏の世界や、1990年代・沖縄の伝説のお笑いコンビ『ファニーズ』、2016年に逝去した歌手・りりィの生前のライブを記録した『りりィ 私は泣いてます』の特別上映など、2週間にわたり多彩なドキュメンタリー映画を上映しています。

折り返しとなった2023年12月15日(金)に新宿K’s cinemaでは本映画祭の授賞式も開催され、各コンペティション部門のグランプリ・準グランプリ・観客賞がそれぞれ発表されました。

本記事では「東京ドキュメンタリー映画祭2023」授賞式の詳細と、上映される各作品情報をご紹介いたします。

「東京ドキュメンタリー映画祭2023」受賞式リポート×受賞作情報

『香港時代革命』佐藤充則監督&平野愛監督

「長編コンペティション部門」受賞作品

グランプリを受賞した『香港時代革命』について、本部門審査員で映画ライター・まつかわゆまは「まさに今考えなくてはいけない問題。今世界で起こっていることの象徴的な動き。観ておくべき作品。監督の二人がプレス、しかも外国のプレスであるからこそできる取材。親中派にも話を聞けるし、警察に捕まったら大使館に駆け込める」と言及。

そして「自分が今何をしなければいけない、何をしたい、何をできるかということをよく考えながら動いている。運動を扱った色々なドキュメンタリーの運動は全て負けている。負けているのに、もしかしたらまだ希望はあるかもしれないというのを見つけたいと思って彼らはまだ通っているのではないか。それを応援したい」と熱弁しました。

また同じく本部門審査員の代島治彦監督も「これからも撮り続けるという日本人がいることが僕らにとって誇り。このような映画を応援したい。二人が撮り続けてくださることを願っている」と話しました。

『ロマンチック金銭感覚』緑茶麻悠監督&佐伯龍蔵監督

グランプリ受賞後のコメントとして平野愛監督は「民主や自由は言うのは簡単だけれど、自分たちの手で守っていかないといけない。この当たり前ができているんだろうか?」と疑問を呈し、佐藤充則監督は「自由は一瞬のうちに奪われるというのをまざまざと見て本当に怖くなったので、香港のことをこれからも見続けていかなくてはいけないと思う。興味を持っていただければ」と訴えました。

準グランプリの『ロマンチック金銭感覚』は、審査員の代島監督のイチオシだったため、まつかわは2度目は映画館のスクリーンで観て「とても丁寧に撮っている。結構確信犯」とわかったとのこと。代島監督は、同作は「話題作、問題作」であり「笑いながら最後まで観て、何かがわかった気がした」と評しました。

『いっしょ家』宮下浩平監督

佐伯龍蔵監督は「変化球のような作品なので、受賞するとは思っていなかった。非常に嬉しい」、緑茶麻悠監督は「ドキュメンタリーとフィクションが融合されている。ドキュメンタリーの要素をふんだんに使っている。観ていただいた後、どういう感想をお持ちいただいたのか興味がある」と笑顔で話しました。

また観客賞を受賞した『いっしょ家』について、代島監督は「丹精な作品。フィックスの画の中に流れている感情が観客に伝わった」と評価。宮下浩平監督は「施設の方々のユニークさが観客の方々に伝わったのだと思う」と観客賞を喜びました。

グランプリ:『香港時代革命』

【監督】
佐藤充則、平野愛

【作品概要】
2019年、香港では自由と民主化を求める大規模な抗議デモが勃発。警察の暴力に抵抗するデモ隊を、市民や学生の立場で支持し、撮影する人々がいた。しかし破壊行為への反感から政府支持の市民も現れ、デモは行き詰まる。

分断の進む中、もがきながら記録を続けるトラック運転手や学生記者に密着し、激動の香港に生きる人々の姿を見つめる。

準グランプリ:『ロマンチック金銭感覚』

【監督】
緑茶麻悠、佐伯龍蔵

【作品概要】
監督二人が出演し、自らの生活状況を交えながら、「お金」の価値やそれに伴う人同士のつながりへの考察を深めてゆく、フィクションとドキュメンタリーが融合したユニークな作品。

緑豊かな京都の里山で、作家ミヒャエル・エンデの提唱したエイジングマネー(自然に還るお金)を実践する人々の刺激的な言葉が、“価値の常識”に揺さぶりをかけてゆく。

観客賞:『いっしょ家』

【監督】
宮下浩平

【作品概要】
福井県越前市にあるデイサービス「いっしょ家」では、お年寄りや発達に特性のある子ども、障がいのある人などが集い、スタッフと共にひとつ屋根の下で過ごしている。

それぞれが思い思いの時を過ごす「いっしょ家」の日常を見つめながら、インタビューを交え、この“共生の空間”が利用者に果たすそれぞれの意味を、ていねいに追っていく。

「短編コンペティション部門」受賞作品

『田舎娘』林里穂さん

60分以内の短編コンペティション部門について、同部門審査員の佐々木誠監督は「全作品素晴らしい。どの作品が選ばれてもおかしくなかったほどクオリティが高い作品ばかりだった。真剣にドキュメンタリーと向き合えて、幸せな時間だった」と審査員としての時間を振り返りました。

また佐々木は「『繁殖する庭』と『肩を寄せあって』がいいなと思った。共通しているのは、作り手がテーマに対してどうアプローチしているか、映像表現にどう関係しているかというのと、その構造が作り手が思っている以上の効果になって、いい意味で心情が逸脱して結末を迎えるか」と評価基準を語りました。

映画研究者の伊津野知多は、佐々木と推薦作が重ならなかった理由を「佐々木監督は何かはみ出すようなものを選んでいた。逆に私は、まとまりの方を選んでいた。私は『田舎娘』と『岸を離れた船』の2作品を推薦した。ある長さの中に何を盛り込んで何を省略するかの思い切った作り手の判断が効いていた」と2作の推薦理由を説明しました。

『肩を寄せあって』横田丈実監督

グランプリを受賞した『田舎娘』のエレン・イバンス監督に代わり、本作を応募した林里穂が賞状を受け取り「動物と人間の関係性を綺麗に描いた、透明感のある作品なので応募した。皆さんの心に届いたら嬉しい」と話しました。

また準グランプリの『肩を寄せあって』の横田丈実監督は「奈良のお寺で坊をやって、映画を作っている。50歳を超えてドキュメンタリーを撮り出して、本作が2作目」と2作目での受賞を喜びました。

観客賞は『娘より、父へ』。大学2年生で授業を抜けられず、授賞式を欠席した龍村監督の「自分自身の気持ちの整理として作ったこの作品が、また新たな方々との出会いにつながったことをとても嬉しく思う。父が私に残してくれたものをこれからも忘れずに、出会ってくださった方に感謝しながら、今後も努力していきたいと思う」というメッセージが代読されました。

グランプリ:『田舎娘』

【監督】
エレン・イバンス

【作品概要】
発達障がいを抱え、社会保障を受けながらイギリスで暮らす赤毛の女性リリットは、ある馬主に手放された馬のメグを購入し、飼うことを生きがいにしている。

だが十分な収入は得られず、えさ代の捻出にも苦しむ日々。リリットにとってメグはどういう存在なのか?モノローグの語りと共に、馬と生きる彼女の生活が描かれる。

準グランプリ:『肩を寄せあって』

【監督】
横田丈実

【作品概要】
1999年早春に奈良県の小さな村で映画上映会が催された。丸太で組まれたテント会場。観客として集まったのは近くで暮らす村人たち。田んぼ仕事や旅行にと仲良き20人だった。 『肩を寄せあって』は上映会から20年が経った村の記録。

村人たちのその後を紡ぐ。亡くなられた人や元気な人。大切な思い出が交錯する。横田監督の父もまた観客のひとりだった。昭和6年生まれ。戦後を逞しく生きた人生。しかし撮影時は肺を患って入院中。最期のときを迎えようとしていた。

観客賞:『娘より、父へ』

【監督】
龍村仁美

【作品概要】
2023年1月、19歳になったばかりの時、父を亡くした。父が63歳の時に生まれた一人娘の私、映画監督として多くの人から慕われる父。

父の長い人生の中で、私が一緒に過ごすことのできた時間はたったの19年。それでも父は、私に色んなものを残してくれた。今の私を作った父との思い出を追憶するように、別れの整理がつくように、自分自身を記録した。

「人類学・民俗映像部門」受賞作品

『マーゴット』カタリナ・アウヴェス・コスタ監督

本部門審査員で文化人類学者の奥野克巳は「人類学・民俗映像部門は、海外からの作品が加わった結果、層が厚くなり、優れた作品が多数寄せられた。私自身、全作品観て、とてつもなく楽しい、映像経験だった」と言及。

また「マリノフスキ以降の人類学の流れとほぼ並行して、切磋琢磨をおこなってきた映像人類学と、それに連なる映像民俗学。それらの蓄積と経験が私には、この映画祭を通じてより高まっていく予感がする。本映画祭で創造性に溢れた多数の作品が上映されたことは大きな刺激であり、とても喜ばしいこと」と評しました。

同じく審査員の北村皆雄監督は「映像人類学あるいは民俗学というのは、どの作品にも資料的な価値がある。劇場で上映するということにおいては、資料性プラス映像的に見せるという面を加味しながら作られた作品かということで選んだ」と自身の審査基準を説明しました。

グランプリ(宮本馨太郎賞)の『マーゴット』について、審査員の奥野は「モザンビークに滞在をし映像を残した、ポルトガルの民族音楽学者マーゴット・ディアスに晩年出会った監督が、様々な関連資料を集めた上で、モザンビークの人々の日常風景に寄り添いながら工芸品の展示よりも生き生きとした映像記録に向かったマーゴットの体験に肉薄し、マーゴットの映像記録が植民地政府が製作した作品といかに異なるのかを作品中で示し得た点で、映像人類学のみならず人類学にとっても価値がある優れた作品」と受賞理由を明かしました。

授賞式では、ポルトガル在住のカタリナ・アウヴェス・コスタ監督の「人類学者であり映画監督として私が思うのは、この映画は研究分野としての己の物語を考えさせるものだということ。映画監督、人類学者として重要な日となった」というメッセージが代読されました。

また準グランプリの『ディタッチド』について奥野は「ロシアの少数民族チュクチの自殺率の高さやアルコール依存を扱った作品で、急激な社会変化についていけない人にもきっと光があるはずだというメッセージが感じられる、高質なドキュメンタリー」と感銘を受けた模様。

同作のプロデューサーのオルガ・ミチは「私たちの映画とチュクチ自治管区の土地の人々の問題に関心を向けていただき誠にありがとうございます。この素晴らしい民族の歴史が国際的な関心を受けることを嬉しく思う。この映画の制作は厳しい天候環境の中で大変困難なものだった。私たちのヒーローについての物語を語る機会をいただけたことに心の底から感謝している」と感謝のコメントの映像が上映されました。

グランプリ(宮本馨太郎賞):『マーゴット』


 
【監督】
カタリーナ・アウヴェス・コスタ

【作品概要】
ポルトガル植民地時代のモザンビーク北部の生活を記録したドイツの音楽家/民族音楽学者 マーゴット・ディアスが残したノート、写真、記録映像。そこには史上初となるマコンデ族文化の映像と音が記録されている。

監督はこれらの資料をモザンビークの人々の元へ持ち帰り、現代のミュージシャンやアーティスト、新しい世代の人々とともに、植民地時代の歴史を振り返る。マーゴットの言葉から彼女の人生と仕事をうかがい知る。

準グランプリ:『ディタッチド』

【監督】
ウラジーミル・クリボフ

【作品概要】
ツンドラでのトナカイの放牧を伝統的に行ってきたが、現在は街に定住にしているチュクチの人々。だが、高い自殺率やアルコール依存が大きな社会問題になっている。本作は、ある一人のチュクチ族の男のモノローグによって、男と家族それぞれが置かれた困難な状況を描いている。

彼らの現代生活と母なる大地、そしてチュクチが自分たちのルーツから断絶されてしまう要因について劇的なシーンによって構成している。

まとめ


後列左から:宮下浩平、佐伯龍蔵、緑茶麻悠、横田丈実、林里穂(以上、受賞者)
前列左から:佐藤寛朗(プログラマー)、北村皆雄、代島治彦、まつかわゆま、佐々木誠、伊津野知多(以上、審査員)

年に一度、「長編」「短編」「人類学・民俗映像」の各部門の公募によるコンペティション上映や特集・特別上映を行う「東京ドキュメンタリー映画祭」も、2023年度でついに6回目の開催を迎えました。

授賞式の最後、本映画祭プログラマーの佐藤寛朗は「世の中を考えるときに主戦場になっているのはSNSで、言葉のラリーで展開されているが、ドキュメンタリーは考えるための道具なんだなという思いが年々強くなっている。12月16日以降は2回目の作品上映が続くので、ぜひ足を運んでいただきたい」と伝えました。

作り手の思索の過程が反映されたドキュメンタリー作品を通じて、観客は社会について、そして人についてどのような思考を生み出すのか。そして生み出された思考は、観客それぞれに一体どのような変化をもたらすのでしょうか。

本映画祭の「思考の機会」をもたらしてくれる作品たちを、ぜひお見逃しなく。

2023年度は、12月9日(日)〜12月22日(金)新宿K’s cinemaにて開催!

上映スケジュール・トークイベントなどの詳細は、東京ドキュメンタリー映画祭公式HPからご覧ください。



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