映画『ポルトガル、夏の終わり』は2020年8月14日より公開。
映画『ポルトガル、夏の終わり』は、アイラ・サックス監督の2014年の映画『人生は小説よりも奇なり』に感銘を受けたイザベル・ユペールが、監督に直接ラブコールしたことで実現した作品です。
自らの死期を悟った女優が、夏の終わりにこの世のエデンと称されるポルトガルのシントラに親族と親友を呼び寄せたことから、それぞれの人生が動き出します。
映画『ポルトガル、夏の終わり』をあらすじや見どころをご紹介します。
CONTENTS
映画『ポルトガル、夏の終わり』の作品情報
【日本公開】
近日公開(フランス・ポルトガル合作映画)
【原題】
Frankie
【監督】
アイラ・サックス
【キャスト】
イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、パスカル・グレゴリー、ヴィネット・ロビンソン、アリヨン・バカレ、グレッグ・キニア、セニア・ナニュア、カルロト・コッタ
【作品概要】
『ピアニスト』『未来よ こんにちは』『エル ELLE』などで知られるイザベル・ユペールが主演を務め、ポルトガルの世界遺産の街シントラを舞台で描いたヒューマンドラマ。
共演に『ロンドン、人生はじめます』のブレンダン・グリーソン、「スパイダーマン」シリーズのマリサ・トメイ、『2重螺旋の恋人』のジェレミー・レニエ。脚本と演出は、映画ファンの間では隠れた秀作として知られる『人生は小説よりも奇なり』のアイラ・サックス監督。2019年に第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品されました。
映画『ポルトガル、夏の終わり』のあらすじ
ヨーロッパを代表する女優フランキーは、重い病に侵され自身の余命を悟ります。おそらく最後になるであろう夏の休暇を家族や親友と過ごそうと、世界遺産の街ポルトガル・シントラに呼び寄せます。
その裏には自分の亡きあとに愛する者たちが迷うことなく暮らしていけるよう段取りをつけようとする計らいもありました。しかしフランキーの思惑とは別に、それぞれ問題を抱えている家族の想いは一筋縄ではいきません。
フランキーをはじめとして、彼女の家族や友人がそれぞれの人生模様を描いていく、ある夏の1日の物語です。
映画『ポルトガル、夏の終わり』の感想と評価
イザベル・ユペールの憂いのある表情
本作は、アイラ・サックス監督の『人生は小説よりも奇なり』に共感したイザベル・ユペールからのラブコールで実現したといいます。
サックス監督は、ユペールとメールのやり取りや直接会って話をしたのち、彼女を念頭に脚本を執筆しました。作品を通して、ユペールのさまざまな魅力が前面に出ているのは、こうした2人の綿密なやりとりがあったからでしょう。
物語の冒頭で、イザベル・ユペールが演じる大女優フランキーは、トップレスでホテルのプールで泳いでいます。義理の孫に注意を促されても言うことを聞かないフランキーは、自由奔放で私生活では家族を意のままにあやつる女性なのかもしれません
そんな彼女は自身の死期を悟り、どうにもならない苛立ちを家族や元夫にぶつける場面もあります。
物語を通して、フランキーは自身の死期を悟っているとは思えない美しさがあるのですが、その表情はどことなく寂しげです。印象的なのは、森の中を散策している時に出会ったフランキーのファンだという80歳の誕生日パーティーを開いていた老女との場面。
「あなたの大ファン。ぜひ参加して」と誘われたフランキーは、戸惑いながらも応じます。おそらく次の誕生日を迎えられないフランキーにとって、パーティーに参加するだけでも酷なのに、悪気はないとはいえ、老女の語り掛ける言葉にフランキーの表情は徐々にこわばっていきます。
哀しみでもない、怒りでもない、なんともいえないフランキーの複雑で憂いのある表情と、太陽の光が降り注ぐ明るいシントラの街とのミスマッチが、観ている者を切ない気分にさせるのです。
世界遺産の街シントラの美しい風景
物語の舞台となっている世界遺産の街シントラの美しい風景は、本作品の大きな見どころとなっています。フランキーと彼女を取り巻く人たちの人生模様が美しいシントラの街とともに描かれていきます。
フランキー一家が滞在しているホテル「キンタ・デ・サン・ティアゴ」、フランキーの義理の孫が一人で訪れるマサンス海岸、フランキーの息子・ポールと義理の娘・シルヴィアが密会するぺーナ宮殿、そして圧巻のラストシーンの舞台となるペニーニャの聖域など、まるでフランキー一家と一緒に旅をしているような感覚を味わえます。
しかし美しい風景を背景に描かれるのは、シビアな人間模様です。時にはシントラで言い伝えられている伝説をあざ笑うかのような現実も突き付けられ、美しい景色とのギャップが際立ちます。
そんな中で救われるのは、フランキーの義理の孫・マヤが、通称リンゴの浜と呼ばれているマサンス海岸で甘い恋に落ちるところです。演じているセニア・ナニュアのみずみずしい水着姿を見て、若いっていいなあと思わずつぶやいてしまう人もいるのではないでしょうか。
家族や友人が向き合うさまざまな問題
フランキーに呼び出され、シントラに集まった家族たちは、それぞれ問題を抱えています。ジェレミー・レニエが演じるフランキーが前の夫との間に授かった息子・ポールは、2年前に別れた女性に未練たらたらで、心に深い傷を負っているようです。見ているこちらもイライラしてしまうほど、情けない男性です。
ヴィネット・ロビンソンが演じるフランキーの現在の夫の娘・シルヴィアは、夫と不仲で離婚を考えているのですが、その気配を察した娘・マヤの反抗期に手を焼いています。
家族旅行の最中にも関わらず、こそこそと別居するための家を探しをしているシルヴィアも自分のことだけを考えている勝手な女性に映ります。
そしてマリサ・トメイが演じるフランキーが心を許している親友で、ヘアメイクアップアーティストのアイリーンは、恋人のゲイリーとともにシントラへやってきましたが、ゲイリーからの突然のプロポーズに戸惑いをみせます。
集まった全員がフランキーの病状を知って落ち込み、涙を流しながらも、フランキーがこの世からいなくなったあとも続く自分自身の人生をどう生きていくか、模索するのに必死なのです。
まとめ
自分自身の余命がいくばくもないと知った時に、人は何を感じてどのような行動をとるのか、また自分の身近な人が余命いくばくもないと知った時に、人は何を思うのか。この映画はそうしたシビアな現実を淡々と描いていきます。
フランキーの現在の夫ジミーは、愛情深く彼女に寄り添い、元夫・ミシェルもフランキーのことを思いやる気のいい男性です。2人の男性に思われるフランキーは、やはり女性として魅力あふれる人なのかもしれません。
そしてフランキーが向き合っている現実に心を痛めているのは、親友のアイリーンです。アイリーンはフランキーよりもずいぶん年下ですが、フランキーが彼女を慕い、尊敬し、何より友人として愛していることがひしひしと伝わってきます。それはアイリーンにとってのフランキーの存在も同じだといえるでしょう。
しかし一方で、フランキーの息子・ポールは、幼い頃からフランキーに対して不満を持っているのか、屈折したところがあり、フランキーと二人きりで話していても、どこか斜に構えているところがあります。
母親の人生が終わろうとしていることを分かってはいるものの、これまでの母親との溝は簡単に埋められないと感じているのかもしれません。義理の娘・シルヴィアにいたっては、血のつながりがないからか、フランキーが亡くなったあとのことまで口にしてしまうほど現実的な面を見せます。
人生の最後に誰が寄り添ってくれるのか、それはその人が関わってきた人々や歩んできた人生がダイレクトに投影されるものなのだと本作品を観てしみじみ感じました。
そして自分の存在がこの世から消えても、世界は変わらず動き続けていくのです。シントラの美しい風景とともに、今一度自身の人生を考え直すきっかけになる作品となるのではないでしょうか。
映画『ポルトガル、夏の終わり』は2020年8月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵館ほかにて全国順次公開されます。