映画『イメージの本』は、2019年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
生ける伝説、ジャン=リュック・ゴダール。
齢88歳、フランスに生まれスイスで育った大巨匠が私たちに投げかける、怒りと希望。
過去に制作された膨大な数の映画・記録映像・絵画・文章・音楽・写真などのコラージュによって構成されたゴダール監督の最新作『イメージの本』がついに日本上陸!
本記事ではジャン=リュック・ゴダール監督のドキュメンタリー映画『イメージの本』のあらすじと感想をご紹介します。
映画『イメージの本』の作品情報
【公開】
2019年(スイス・フランス合作映画)
【原題】
Le livre d’image
【監督】
ジャン=リュック・ゴダール
【キャスト】
【作品概要】
あらゆる暴力・戦争・不和に満ちた世界への怒りを、過去に人類が遺してきた映画・記録映像・絵画・文章・音楽・写真などあらゆるアーカイブをコラージュすることで表現、そして怒りの先にある希望の探求を試みた作品。
監督はヌーヴェルヴァーグの旗手にして、世界映画界の生ける伝説であるジャン=リュック・ゴダール。
巷では「彼の最後の作品かもしれない」と囁かれている齢88歳の大監督ですが、今作での若々しい姿勢からして、まだまだ映画を作り続けそうな気がします。
本作は第71回のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、史上初の「スペシャル・パルムドール」に輝き、その内容は様々な議論を呼びました。
映画『イメージの本』のあらすじとネタバレ
1人の男がフィルムをいじっています。
「手で考えること…」。ゴダール自身によるナレーションが始まりました。
スクリーンには、指を天に向けた白い手が映し出されています。ゴダールは“5本の指” を強調しました。
「イメージは来たる」。映像が切り替わると、画面にその一文が映し出されます。
短編映画『アンダルシアの犬』劇中における、女性の眼球を剃刀で切るショットが引用されます。
「イメージと言葉」。その一文がスクリーンに映し出されると、フランス語の代わりに英語によるナレーションが入ります。
《1章 リメイク》
本作は5本の指に対応する5つの章立てによって構成されており、その第1章が始まりました。
原爆投下時の記録映像が引用されると、ゴダールともう1人の男の混ざり合った声が劇場に響きます。
『キッスで殺せ!』などのアメリカ映画の映像が引用された後、スクリーンにはゴダールがかつて監督した映画『アルファヴィル』のとあるシーンが映し出されました。
“暴力のイメージ=映像”を示すための映像が繰り返し流されると、突然、映画『大砂塵』劇中のヴィエンナとジョニーの告白シーンがスクリーンに浮かび上がります。
「ずっと待っていたと言ってくれ」。“愛のイメージ”としての映像が引用されましたが、それも束の間、“暴力のイメージ”としての映像が再開します。
中東世界における殺戮の場面、映画『ソドムの市』における性的な残虐シーン、映画『ブラックホーク・ダウン』の一場面などの引用によって、激しい戦場を描き出します。中には、人を襲うサメを描いた映画『ジョーズ』の引用まで含まれていました。
今度は記録映像が中心に引用されます。
1944年。大戦下のヨーロッパにて、兵士が銃殺刑に処され、海に沈められました。
そして現代。ISISが兵士或いは一般市民を銃殺し、海に沈めました。
血で染まったように見える赤い海が、映像が記録した残虐性と事象の反復性を物語ります。
“暴力のイメージ”はその後も絶えずスクリーンに現れ、聖女ジャンヌ・ダルクの顔と独裁者アドルフ・ヒトラーの顔が映し出されると、映画は次の章へと進みます。
映画『イメージの本』の感想と評価
引用、引用、引用、そして引用…。
『イメージの本』はまさにタイトルの通り、大量のイメージ=映像(過去の映画作品、iphoneで撮られた記録動画など)が1冊の《本》として集約され、1ページ1ページがスクリーンに投影されているかのような作品です。
そして、そのページの多くを占めるのは“暴力のイメージ”です。
『ソドムの市』における目を覆いたくなるような映像や、第二次大戦時の処刑映像、ISISの残虐極まりない記録映像…。
それらは赤と青、そして黄色の強烈な光線を放ち、私たちの脳内に焼き付いてきます。
もちろん、その《本》のページをめくる主導権は私たちには与えられていません。
84分という決まった時間内で、次から次へとページが勝手に捲られていきます。
いつも通りか、或いはそれ以上に難解で厄介な作品を前に、上映開始から15分で席を立つ人やしきりに時間を気にする人などが見受けられたのは、ある意味必然と言えるかもしれません。
しかし、私たちに混乱を与え続けた齢88歳の老将は最後にこう締めくくります。
「希望は生き続ける」と。
唐突に何を言い出したのかと耳と目を疑いたくなりましたが、あるシーンを思い返すと、なるほどなと、うなづける気もします。
実は、本作にうずめく“暴力のイメージ”の狭間に“愛のイメージ”という相反する映像がわずかながら引用されています。
例えば、ニコラス・レイ監督作『大砂塵』のジョニーとヴィエンナの愛の告白シーンや、マックス・オフュルス監督作『快楽』の娼婦ローザに恋したリヴェが汽車を追いかけて帽子を振るシーンなどがそうです。
世界は暴力に満ちている、でも確かな愛も存在する。
前作『さらば、愛の言葉よ』にて“言葉”にお別れをしたゴダールは、そのシンプルな世界の縮図を“映像”を用いて《本》という形へと編みました。
ゴダールの指摘する「希望」とは、まさにそのささやかな“愛のイメージ”なのです。
そして、それは映画の中に生き続けていくのです。
まとめ
多くの方が、この作品を観た後に「なんのこっちゃ…」と呟きたくなるでしょう。
ほぼ全編が映画、絵画などのコラージュで成り立っているため、その情報量の多さに頭がパンクしそうになります。
大巨匠ゴダールのある意味「破茶滅茶」とも言えるスタイルは、今作でも健在でした。
しかし、世界各国にファンを作り続けてきたそのゴダール流のスタイルは、時代と共に、特に若者層には、受け入れられなくなってきているという印象を受けます。
確かに、わけもわからない、楽しめない映画に1500円以上のお金を払うのは馬鹿馬鹿しいかもしれません。
ただ、意外とこんな身勝手な監督に付き合ってみるのも悪くないかもしれません。
映画内に出てくる引用作品の名前を思い出してみたり、片目で観てみたり、たまには耳を塞いでみたりと様々な鑑賞の仕方を実験的に実践する。その中で、身勝手に、自由に、自分なりの”解釈”を試みてみる…。
まるで図画工作のように、フィルムや文章を切ったり貼ったりしているゴダールの作品において、私たちが彼の映画と戯れることは、なんの問題もないのではないかと思います。
さあ、是非劇場でゴダールの作品と遊んでみてください。
映画『イメージの本』は、2019年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。