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Entry 2019/04/24
Update

映画『イメージの本』あらすじネタバレと感想。ゴダールの希望とは“ささやかな愛のイメージ”

  • Writer :
  • 吉田竜朗

映画『イメージの本』は、2019年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

生ける伝説、ジャン=リュック・ゴダール

齢88歳、フランスに生まれスイスで育った大巨匠が私たちに投げかける、怒り希望

過去に制作された膨大な数の映画・記録映像・絵画・文章・音楽・写真などのコラージュによって構成されたゴダール監督の最新作『イメージの本』がついに日本上陸!

本記事ではジャン=リュック・ゴダール監督のドキュメンタリー映画『イメージの本』のあらすじと感想をご紹介します。

映画『イメージの本』の作品情報


(C)Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

【公開】
2019年(スイス・フランス合作映画)

【原題】
Le livre d’image

【監督】
ジャン=リュック・ゴダール

【キャスト】

【作品概要】
あらゆる暴力・戦争・不和に満ちた世界への怒りを、過去に人類が遺してきた映画・記録映像・絵画・文章・音楽・写真などあらゆるアーカイブをコラージュすることで表現、そして怒りの先にある希望の探求を試みた作品。

監督はヌーヴェルヴァーグの旗手にして、世界映画界の生ける伝説であるジャン=リュック・ゴダール。
巷では「彼の最後の作品かもしれない」と囁かれている齢88歳の大監督ですが、今作での若々しい姿勢からして、まだまだ映画を作り続けそうな気がします。

本作は第71回のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、史上初の「スペシャル・パルムドール」に輝き、その内容は様々な議論を呼びました。

映画『イメージの本』のあらすじとネタバレ


(C)Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

1人の男がフィルムをいじっています。

「手で考えること…」。ゴダール自身によるナレーションが始まりました。

スクリーンには、指を天に向けた白い手が映し出されています。ゴダールは“5本の指” を強調しました。

「イメージは来たる」。映像が切り替わると、画面にその一文が映し出されます。

短編映画『アンダルシアの犬』劇中における、女性の眼球を剃刀で切るショットが引用されます。

「イメージと言葉」。その一文がスクリーンに映し出されると、フランス語の代わりに英語によるナレーションが入ります。

《1章 リメイク》

本作は5本の指に対応する5つの章立てによって構成されており、その第1章が始まりました。

原爆投下時の記録映像が引用されると、ゴダールともう1人の男の混ざり合った声が劇場に響きます。

『キッスで殺せ!』などのアメリカ映画の映像が引用された後、スクリーンにはゴダールがかつて監督した映画『アルファヴィル』のとあるシーンが映し出されました。

“暴力のイメージ=映像”を示すための映像が繰り返し流されると、突然、映画『大砂塵』劇中のヴィエンナとジョニーの告白シーンがスクリーンに浮かび上がります。

「ずっと待っていたと言ってくれ」。“愛のイメージ”としての映像が引用されましたが、それも束の間、“暴力のイメージ”としての映像が再開します。

中東世界における殺戮の場面、映画『ソドムの市』における性的な残虐シーン、映画『ブラックホーク・ダウン』の一場面などの引用によって、激しい戦場を描き出します。中には、人を襲うサメを描いた映画『ジョーズ』の引用まで含まれていました。

今度は記録映像が中心に引用されます。

1944年。大戦下のヨーロッパにて、兵士が銃殺刑に処され、海に沈められました。

そして現代。ISISが兵士或いは一般市民を銃殺し、海に沈めました。

血で染まったように見える赤い海が、映像が記録した残虐性と事象の反復性を物語ります。

“暴力のイメージ”はその後も絶えずスクリーンに現れ、聖女ジャンヌ・ダルクの顔と独裁者アドルフ・ヒトラーの顔が映し出されると、映画は次の章へと進みます。

以下、『イメージの本』ネタバレ・結末の記載がございます。『イメージの本』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

2章 ペテルブルクの夜話

映画『戦争と平和』における舞踏会のシーンが引用されます。しかし、その映像の色彩は酷く誇張され、赤青黄の原色が強烈に炙り出されました。

スクリーンにはまた“暴力のイメージ”が映し出されます。ISISの兵士が、道を歩く兵士か市民をメチャメチャに撃ち殺してゆきます。

余りにも無残な映像が続く中、ゴダールはサンクトペテルブルクについて語ります。

すると「ローザ・ルクセンブルグ」という名が刻まれた墓標が映し出されます。

ゴダールは言います。「戦争は世界の法則であり、戦争は神聖である」と。

子供が撃たれ、死ぬ。そして首がはねられる処刑の映像…そこで、2章は幕を閉じます。

3章 線路の間の花々は旅の迷い風に揺れて

予告編にも登場している、駅を歩く少女の顔が映し出されます。

やがて、列車が向かってくるショットへと切り替わりますが、今度は向かってくる列車を映したショットとは反対に、列車が画面の奥へと進んでゆくショットが引用されます。

連続して執拗に切り替わる映像は、徐々に暴力性を帯びてゆきました。
強制収容所に向かう列車、線路の上に散らばる死体、そして列車に轢かれる男…。

こうして“暴力のイメージ”が流れる中、スクリーンに“愛のイメージ”が訪れます。

再び映画『大砂塵』における列車のシーンが引用された後、映画『快楽』の微笑ましいシーンが引用されます。ジャン・ギャバン演じるリヴェが、列車の後を追い、乗車している女性に手を振る…。3章は、美しい映像によって幕を閉じました。

4章 法の精神

市民に威嚇する警察。暴動を起こす女性市民。革命を連想させるシーンがスクリーン上に引用された後、フランスを生きたランボーの詩「民主主義」の一節が読まれます。

そして、映画『道』や自身の監督作『ウィークエンド』などのショットが引用した後、ゴダールはしきりに法について語ります。

しかし、映像は再び暴力的なものに切り替わります。人が殴り殺される様、焼かれる男の姿…。

ギュスター・カイユボットの絵画『床にかんなをかける人々』、ゼネストを敢行する現代の女性などが映し出された後、映画『エレファント』の殺戮シーンも引用されました。そして、4章が幕を閉じます。

5章 中央地帯

「種の絶命の物語」について触れた後、ゴダールは環境問題について語り出します。
彼が言及する事象の舞台は、徐々に西洋/ヨーロッパ世界からアラブ世界へと移ってゆきました。

「5本の指による贖罪」。そして「成就」を語るゴダール。やがて彼ではない男の声が、東洋と西洋の違いについて話し始めます。

「東洋には時間があり、皆よく考える。東洋人は哲学者だ、西洋人は…」。東洋の日常が映像に映し出された後、西洋における戦争の映像が映し出されます。

その後、ゴダールが本作のために新たに撮影した映像が流れます。

それは、チュニジア共和国の首都・チュニスのアラーニョという場所で撮られた、ヴィヴィッドな色彩に満ちた海岸の映像でした。


(C)Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

2人の少年が海岸で遊んでいます。そして静かに流れる海水。

「中東は常に一括りにされる」。「アラブ人は語れるのか」。

そう発言するゴダールに被さるように、アラブの映画や記録映像が引用されます。

スクリーンには、再び海の映像が浮かび上がります。灼けるように赤くなった太陽を中心に海岸が映し出されます。

物語は進み、サマンタールという1人の革命児の話になります。彼はドーサという石油もない、不毛な土地で革命活動を繰り広げていました。

しかしベン・ガラムという政治家が彼の期待と目論見を崩し、ベンがその地でハーレムを築くという結果のみが残りました。

すると、これまでに引用されてきた映画・記録映像・絵画・文章・音楽・写真などが洪水のように次々とスクリーンに映し出されてゆきました。

「希望は生き続ける」ゴダールは咳をしながら、そう告げました。

映画『快楽』劇中に登場する仮面の男が踊ります。そして、映画『イメージの本』は幕を閉じました。

映画『イメージの本』の感想と評価


(C)Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

引用、引用、引用、そして引用…。

『イメージの本』はまさにタイトルの通り、大量のイメージ=映像(過去の映画作品、iphoneで撮られた記録動画など)が1冊の《本》として集約され、1ページ1ページがスクリーンに投影されているかのような作品です。

そして、そのページの多くを占めるのは“暴力のイメージ”です。

『ソドムの市』における目を覆いたくなるような映像や、第二次大戦時の処刑映像、ISISの残虐極まりない記録映像…。

それらは赤と青、そして黄色の強烈な光線を放ち、私たちの脳内に焼き付いてきます。

もちろん、その《本》のページをめくる主導権は私たちには与えられていません。

84分という決まった時間内で、次から次へとページが勝手に捲られていきます。

いつも通りか、或いはそれ以上に難解で厄介な作品を前に、上映開始から15分で席を立つ人やしきりに時間を気にする人などが見受けられたのは、ある意味必然と言えるかもしれません。

しかし、私たちに混乱を与え続けた齢88歳の老将は最後にこう締めくくります。

希望は生き続ける」と。

唐突に何を言い出したのかと耳と目を疑いたくなりましたが、あるシーンを思い返すと、なるほどなと、うなづける気もします。

実は、本作にうずめく“暴力のイメージ”の狭間に“愛のイメージ”という相反する映像がわずかながら引用されています。

例えば、ニコラス・レイ監督作『大砂塵』のジョニーとヴィエンナの愛の告白シーンや、マックス・オフュルス監督作『快楽』の娼婦ローザに恋したリヴェが汽車を追いかけて帽子を振るシーンなどがそうです。

世界は暴力に満ちている、でも確かな愛も存在する。

前作『さらば、愛の言葉よ』にて“言葉”にお別れをしたゴダールは、そのシンプルな世界の縮図を“映像”を用いて《本》という形へと編みました。

ゴダールの指摘する「希望」とは、まさにそのささやかな“愛のイメージ”なのです。
そして、それは映画の中に生き続けていくのです。

まとめ


(C)Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

多くの方が、この作品を観た後に「なんのこっちゃ…」と呟きたくなるでしょう。

ほぼ全編が映画、絵画などのコラージュで成り立っているため、その情報量の多さに頭がパンクしそうになります。

大巨匠ゴダールのある意味「破茶滅茶」とも言えるスタイルは、今作でも健在でした。

しかし、世界各国にファンを作り続けてきたそのゴダール流のスタイルは、時代と共に、特に若者層には、受け入れられなくなってきているという印象を受けます。

確かに、わけもわからない、楽しめない映画に1500円以上のお金を払うのは馬鹿馬鹿しいかもしれません。

ただ、意外とこんな身勝手な監督に付き合ってみるのも悪くないかもしれません。

映画内に出てくる引用作品の名前を思い出してみたり、片目で観てみたり、たまには耳を塞いでみたりと様々な鑑賞の仕方を実験的に実践する。その中で、身勝手に、自由に、自分なりの”解釈”を試みてみる…。

まるで図画工作のように、フィルムや文章を切ったり貼ったりしているゴダールの作品において、私たちが彼の映画と戯れることは、なんの問題もないのではないかと思います。

さあ、是非劇場でゴダールの作品と遊んでみてください。

映画『イメージの本』は、2019年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

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