怪異を幻想的に描く傑作
巨匠・溝口健二が、上田秋成の読本『雨月物語』に収録された『浅茅が宿』『蛇性の婬』の2編にモーパッサンの短編『勲章』を加えて映像化した代表作『雨月物語』。
戦乱の中で世俗の欲に翻弄される人々を幽玄な映像美で描き、1953年・第14回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞するなど世界的に認められました。
森雅之、田中絹代、京マチ子が共演。
金を儲けて家族を喜ばせようとした男が、いつの間にか金と幽霊に取り憑かれる悲劇を幻想的に描く名作です。
映画『雨月物語』の作品情報

(C)KADOKAWA 1953
【公開】
1953年(日本映画)
【原作】
上田秋成
【監督】
溝口健二
【脚本】
川口松太郎、依田義賢
【キャスト】
森雅之、京マチ子、水戸光子、田中絹代、小沢栄、青山杉作、羅門光三郎、香川良介
【作品概要】
『近松物語』(1954)の巨匠・溝口健二の代表作。
上田秋成の読本『雨月物語』に収録された『浅茅が宿』『蛇性の婬』の2編に、モーパッサンの短編『勲章』を加えて映像化しました。
幽玄な映像美で描き、多くの映像作家に世界的に影響を与えました。
主演は『浮雲』(1955)の森雅之、『浮草』(1959)の京マチ子。
水戸光子、田中絹代、小沢栄らが共演します。
映画『雨月物語』のあらすじとネタバレ

(C)KADOKAWA 1953
戦国時代、琵琶湖北岸の村。
戦乱の到来を機に大儲けを狙う陶工の源十郎と、侍として立身出世を夢見る義弟・藤兵衛。
ある日突然、村は柴田勝家の軍勢に襲われ、彼らは一家で命からがら逃げ出します。
幸いなことに、釜に残した器はきれいに焼き上がっていました。
それらを抱えて舟で琵琶湖を渡り都を目指しますが、海賊が出ると知り、源十郎は妻の宮木と息子の源市だけを陸に戻します。
その後、藤兵衛は妻を捨てて羽柴勢に紛れ込みました。
都で陶器を売っていた源十郎は、若狭と名乗る妖艶な美女から注文を受け、彼女の屋敷を訪れました。
映画『雨月物語』の感想と評価

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切なくも光差すラストシーン
人間の背負った業を鋭く描く、泥臭いヒューマンドラマです。
戦乱の世に乗じて金儲けを望む陶工の源十郎は、沢山陶器を作って売ろうと必死で働きます。
彼の妻の宮木はしっかり者で立派な女性でした。彼女は金が入っても浮かれることなく、自分に新しい着物を買ってくれる”夫の気持ち”が嬉しいのだと言って喜びます。
宮木はただ親子3人が穏やかに楽しく暮らせることだけを望んでいました。
しかし、彼女の願いは叶うことはありませんでした。夫を送り出し、小さな息子を抱えて必死で生きていた宮木は、落ち武者に襲われてあっけなく命を落とします。武士や落ち武者らの極悪非道ぶりには胸が塞がれます。
紆余曲折の末に、ラストで遂に妻子の大切さに気づいた源十郎が我が家に帰ってきます。
最初誰も室内にいなかったはずなのに、彼が家の周りを一周して戻ってくると、いろり端にはいつの間にか宮木が座っていました。
観客はすでに彼女がこの世にいないことを知っているので霊だと気づきますが、何も知らない源十郎は疑うことなく妻に駆寄るのです。
我が子を抱きながら妻に酌をしてもらい、食事をして満たされきって眠る源十郎。
しかし翌日、彼は妻がすでに殺されていたことを知るのです。
昨日自分を迎えてくれたのは妻の霊でした。自分を異世界に連れて行こうとした若狭の悪霊とはまったく違うことに、源十郎は気づいたことでしょう。
墓前に手を合わせる夫に向かい、天から宮木が語りかけます。
夫がやっと私の願う人間になってくれたというのに、自分はこの世の人ではなくなってしまった。そう言いながらも、悲嘆しているわけではありません。淡々と、これが世の中というものでしょうねぇ、などと呟きます。
苦労して帰宅した夫を、どうしても温かく迎えてあげたかった宮木。
そして、彼が更生したことを見届けたからこそ成仏できたのです。これからは天から見守り続けるとやさしく語りかけながら。
優しい妻が、命を失っても尚、自分を迎え入れるために待っていてくれたことを知った源十郎。
これからも彼女の愛を拠り所にしっかり地に足をつけて生きていくことができるに違いありません。
彼には守るべきかわいい息子の源市もいるのですから。これからは決して金や色に溺れることなく生きていけるはずです。
父と息子の明るい未来を信じさせる、切なくも光差すラストシーンとなっています。
あやかしの美しさ

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幻想的な本作の象徴となるのは、京マチ子演じる異形の女・若狭です。京マチ子の圧倒的な美しさが、作品を独特の世界感に彩ります。
金に取り憑かれていた源十郎は、すぐに若狭の目にとまったのでしょう。心を失っていた彼は、異世界にいる彼女との波長が合ってしまったのかもしれません。
自分にとって本当に大切な妻子を忘れ、美しく若い若狭の色に溺れてしまった源十郎。しかし、それも仕方ないと思わず思ってしまうほど、若狭は魅力的です。
悪霊ではありますが、若狭とその乳母もまた、武力によってすべてを奪われた憐れな存在でした。暴力によって人生を壊される時代に生きる悲しみが伝わってきます。
この世のものとは思えない美しい若狭。彼女の美は、現世での宮木の持つ地に根を張った美しさとは対照的です。
若狭との桃源郷のような生活に墜ちた源十郎は、さながら浦島太郞のようでした。その間に本当に大切な妻は殺されるという、あまりにも酷い罰を受けることとなります。
まとめ

(C)KADOKAWA 1953
海外でも高く評価され、多大な影響を与えた世界的な名作『雨月物語』。
荒んだ屋敷、美しい霊、悪霊払いのできる高僧など、日本ならではの怪談要素を、幻想的な映像で美しく映し出します。
非現実を描く一方で、そこで生きる人々はあまりにも人間くさく、逃れられない欲によって悲劇に突き落とされるさまはとてもリアルです。
それでも必死で立ち上がり、美しい明日を迎えるために懸命に生きる人間たちの姿に胸を打たれずにはいられません。







































