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Entry 2020/08/22
Update

Netflix映画『思いやりのススメ』ネタバレ感想と考察評価。原作ジョナサンエビソンの希望を見つけるロードムービー

  • Writer :
  • からさわゆみこ

「誰が私に希望を見せられようか」介護士の男が、難病を抱え人生に希望のない青年との旅で一緒にみつけた希望の物語

映画『思いやりのススメ』は、利用者の気持ちを尊重しながら、残こされた時間に「希望」という必要不可欠なチャンスを与え、自らも「希望」を見つける物語。

ジョナサン・エビソンの原作小説を、ロブ・バーネット監督が映画化しました。

自分の望むことは、必ずしも誰かが叶えてくれるとは限りません。けれども少し勇気を出して踏みだせば、相棒がそれを聞き逃さず、見過ごさずに叶えてくれるかもしれません。

介護士は「必要」としていることを訊ね、聞いて、観察しながら手伝い、そしてまた訊ねる・・・。これが障がい者に対する『思いやり』で、それ以上でもそれ以下でもありません。ですが、この作品の主人公は違います。この映画が示す『思いやり』をご紹介します。

映画『思いやりのススメ』の作品情報

Netflix 思いやりのススメ

【公開】
2016年6月(アメリカ映画)

【監督】
ロブ・バーネット

【原題】
The Fundamentals of Caring

【原作】
作者:ジョナサン・エビソン
『The Revised Fundamentals of Caregiving』

【キャスト】
ポール・ラッド、クレイグ・ロバーツ、セレーナ・ゴメス、ジェニファー・イーリー、ミーガン・ファーガソン

【作品概要】
本作はアメリカ図書協会から「最も魅力的な作家」(2009年と2011年)に指名され、ワシントンステートブックアワードなど数々の受賞歴のある、小説家ジョナサン・エビソンの2012年に発表した小説『The Revised Fundamentals of Caregiving』が原作です。

監督にはテレビプロデューサーとしてエミー賞を複数回受賞している、ロブ・バーネットが務め、主演は「アントマン」シリーズや「アベンジャーズ」でアントマン役を演じた、ポールラッドが好演し、共演に「サブマリン」のクレイグ・ロバーツ、ディズニー・チャンネルドラマ『ウェイバリー通りのウィザードたち』(2007~2012)で人気のセレーナ・ゴメスが出演しています。

本作はサンダンス映画祭で初上映され、2016年6月よりNetflixオリジナル映画として独占配信されています。

映画『思いやりのススメ』のあらすじとネタバレ

小説家のベンは3年前に自身の過失で一人息子を死なせてしまいます。それ以来、生業としていた小説家を辞めてしまいました。

生活をしていくためと「誰かを助けることで、自分も救われたい」ベンはそう思い介護士の研修を受けていました。

息子を死なせてしまったことで、妻からは離婚を迫られますが、応じることができないまま3年が経ち、とうとう裁判所から出廷命令が来てしまいます。

研修後の初めて担当する利用者はトレヴァーという18歳の青年で、ディシェンヌ型筋ジストロフィー症を患い、車椅子生活を送っています。

採用面接の時にトレヴァーは知的障害のあるふりをしたり、変な数字のゲームをしてベンを困惑させます。

「1から3500の数字の中で何番がいい?」と、トレヴァーは聞くとベンは「・・・・・・3」と、答えますが理由もわからないまま「不合格」と告げられます。

しかし、そのトレヴァーがベンを採用すると決定したのは、下の世話をしたあとのケア方法でした。「拭き残しがないように……自分の尻と同じように拭く」躊躇なくこう答えて採用となるのです。

トレヴァーは気難しい性格で1日のルーティーンは時間で決められて、それが崩れるとパニック発作を起こし、偏食もひどくサプリメントで栄養を補っています。

朝のテレビ番組でアイダホの2階建てトイレの情報が流れると、トレヴァーは「アメリカのダサイ名所マップ」を取り出して、テプラで名前を打ち込みその場所に貼り付けます。

その「ダサイ名所マップ」にひときわ大きい星印のついた場所を訊ねると、そこは『世界一深い穴』と、いう名所でベンはトレヴァーがその場所に関心があることを知りました。

ベンは介護の仕事を順調にこなしていきました。トレヴァーのきつい悪ふざけにも徐々に慣れて、コミュニケーションも良好になっていきます。

そして、トレヴァーの母親は「息子は今まで他の介護士には心を開かなかったの。だから、とても感謝しているわ。でも、いずれは離れていくのだから、今以上に親密にならず守れない約束はしないでほしい」と、念を押してベンに約束させました。

以下、『思いやりのススメ』ネタバレ・結末の記載がございます。『思いやりのススメ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ある朝、ベンが出勤するとトレヴァーはリッツヴィル名物の「世界最大の牛」を紹介する番組を観て、ダサイ名所マップにマークを付けます。

ベンは「リッツヴィルならそう遠くもないし観に行ってみるか?そのあと世界一深い穴を一緒に見に行こう」と誘ってみます。トレヴァーは「願いが叶うことならね」とつぶやきました。

その日はトレヴァー宛に一通の手紙が届いていましたが、彼はそれを未開封のまま同じように届いている手紙の束の中にしまい込みます。

それを見ていたベンは、ここで立ち入ったことをトレヴァーに訊ねてしまいます。手紙の主はトレヴァーの父親でトレヴァーがジストロフィーを発症した3歳の時に家を出て、母親と離婚したと話しました。

手紙を読もうとしないトレヴァーにベンは父親のことを理解するよう言ってしまいます。トレヴァーは出て行ったのは父親で自分の意志とは関係ないと言い返し、口論へとなってしまうのでした。

翌朝、エレナは深く干渉し合わないよう忠告したにも関わらず、父親の話しをしたことで、ベンの息子の事は調査済みで知っていると告げます。そのことはトレヴァーも知っていました。

トレヴァー親子には、ベンが自分の過失で息子を亡くした償いをトレヴァーを介護することで、自己憐憫していると思われてしまいます。

しかし、ベンは利用者がトレヴァーだと知ったのは面接した日が初めてで、自己憐憫を断固否定し息子の事故死を知りながら、父親を全否定したトレヴァーに言い放ちます。

「家にとじこもってばかりで、人生の半分を無駄にしている!」と、そしてトレヴァーも「あんたはどうなんだ? もう3年だろ? こんな仕事してていいのか?」と切り返します。

また翌朝、エレナは口論したことで「介護五原則、アロハを思い出して」と言います。そして、ベンは「ダサイ名所マップ」を持ち出しトレヴァーとエレナに提案します。

エレナはトレヴァーを危険にさらす行為だと反対をしますが、「彼は家の外に出るべきだ。」そう訴えるとエレンも思うことがあったのか、「綿密な旅の計画を立てましょう」と同意しました。

2人が世界最大の牛を観たあと、トレヴァーはベンに「父親に会いたい。会って出て行った時の言い分を聞く」と言います。

ソルトレイクで自動車のディーラーをしている父親に、「突撃訪問をする」と言うのです。ベンは少しひるみますが、トレヴァーの決意に従うことにしました。

旅の途中、母親を癌で亡くしソリの合わない父親の元を離れ、学校に通うためヒッチハイクしながらデンバーに向かう、ドットという少女と出会います。

トレヴァーはドットのことが気になり車に乗せてあげたらと言い、ベンに声をかけさせようとします。

しかし、ベンは内気なトレヴァーに声をかけるよう仕向けるのですが結局、声をかけられずトレヴァーが誘い同乗することになりました。

3人で旅を続けますが後方からずっと追従してくる車に気づき、ベンの妻が雇った探偵だと考えます。

そして、更にお産のため実家へ向かうピーチズがエンストを起こし、立ち往生しているところに出くわし彼女も同乗させて4人で旅を続けます。

その晩、トレヴァーはドットを夕飯に誘います。生まれて初めて女の子とのデートを実現させました。

また、ベンとピーチズが2人を見守っているとベンに胎動を触らせます。

ピーチズはベンの息子のことは聞いたと言い「親になるってどういう感じ?」と質問し「世間で親になると言われていることは全部本当のことで、今こうしてみんなここにいる」と答えます。

デートから帰ったトレヴァーはその晩、人工呼吸器をつけずに幸せな面持ちのまま就寝しました。

次の日、トレヴァーはソルトレイクにいる父親に会いますが、父親は感激するわけでもなくむしろ困惑し、トレヴァーに送った手紙はエレンが書いたものだと告げます。

深く傷つくトレヴァーは家に帰ると言い出しますが、父親の対応に激怒したドットは、むしろ世界一深い穴を観に行くべきだと提案し、4人は最終目的地の世界一深い穴へと向かいました。

「穴」に到着するとトレヴァーとドット、ピーチズは見学に行き、ベンは追従してきた車の運転手の正体を確かめると、運転手は探偵などではなく、ドットのことを心配してついてきた父親だったのです。

そこにドットから緊急電話が入ります。ベンが駆けつけると、そこには産気づいたピーチズが横たわり、他の観光客が見守る中、ベンがお産を手伝い取り上げました。

ピーチズは病院に搬送され、ドットは父親と一緒にデンバーへと向かいました。ベンはここであることを思いつきます。

救急隊から担架を借り、トレヴァーを乗せて固定し穴に向かって立たせます。それはトレヴァーの言った願いの「立ち小便をしたい」を体験させることでした。

トレヴァーは世界一深い穴に放尿し「最高の気分だ!」と、叫び2人は素晴らしい旅の体験をすることができました。

ベンは旅のあと妻とは離婚し介護士を辞めて小説家に戻り、トレヴァーとの旅を小説にしました。

映画『思いやりのススメ』の感想と評価

本作で主人公が介護士の講習の中で習う、「必要」としていることを訊ね、聞いて、観察しながら手伝い、また、訊ねる・・・これは『介護五原則』のことです。

この五原則は、Ask(訊ねる)、Listen(聞く)、Observe(観察する)、Help(助ける)、Ask Again(再び訊ねる)の頭文字を取った「ALOHA」と略されています

この『ALOHA』はハワイ語で「こんにちは」と「さようなら」の意味がありますから、介護士と利用者の関係性を表すものでもありますが、他にも「愛と愛情」という意味もあるのです。

それまでトレヴァーを担当する介護士は彼のひねくれた態度や、卑猥で下品な言動などに耐えられずすぐに辞めていったのでしょう。

ところがベンにとってトレヴァーの発想や言動は同性ならではのことで、理解もでき気転を活かしすぐに打ち解けられたのです。

また、父親の存在を知らずに育ったトレヴァーもベンに「父親像」を見ていたと考えられます。母親には言えないこともベンには言えること、察してもらえることが嬉しかったと考えられるのです。

つまり、トレヴァーにとって介護士は「こんにちは」と「さよなら」の関係でありながらも、ベンとは愛のある交流ができ、2人の旅はまさに「介護五原則」に沿ったものだったのです。

まとめ

この作品はとんでもなく突飛なアクシデントがおこる演出はありません。映画にありがちな推測できる旅のアクシデントは、2人がジョークとして表現しています。

その方が逆に介護士と障がい者の関係が現実的です。そこにジョークを入れることで観客の予想にも応えていたといえるでしょう。

『思いやりのススメ』は旅を通じてトレヴァーの「願い」を訊ね聞き、それを叶える旅でした。

行きたい場所へ行き、会いたい人と会い、知らない人たちと関わり初デートをして、生命の誕生に立ち合い、「立ち小便」まで経験できたのです。

健常者なら何でもない体験をサラリと描いて、観終わった後には最高に清々しい気持ちになり、心から感動できる作品でした。

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