Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画「パージ」シリーズの評価と考察。スリラーにおさまらないSF映画としての社会風刺とは|SF恐怖映画という名の観覧車15

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile015

“SF”映画では社会に対する風刺を強く描いた作品が多く、技術の進歩に対し技術を使う社会や人間への疑心が浮き彫りになるジャンルと言えます。

一方で、“ホラー”映画は、物語のきっかけともなる”恐怖の対象”の誕生にこそ社会風刺画が隠れていたりはするものの、”SF”映画に比べ政治的、思想的な面では少し物足りない部分が多いジャンルです。

しかし、そんな”ホラー”と言うジャンルの中でも、特に社会風刺の薄めである”スラッシャー”に近い作品でありながら、”SF”要素や”社会風刺”を多く取り入れ、奇異な世界観と独特な美術で人気を集めるシリーズがあります。

今回はシリーズを重ねるごとに人気が広がり、本国では4作目も公開された人気シリーズ「パージ」について、その魅力を語らさせていただきたいと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

「パージ」シリーズの歩み


(C)Univesal Pictures

そもそも「パージ」って?

アカデミー助演男優賞に2度もノミネートした経験を持つイーサン・ホークが2013年に出演した『パージ』(2013)。

1年に1回、12時間だけ殺人を含むすべての罪が撤回される”パージ”の時間を題材に、平和を求め完全なセキュリティを導入した一家を襲う悲劇を描いた今作は、想像力を駆り立てる秀逸な設定のホラー映画としてカルト的人気を得ました。

しかし、奇異な設定により興行的には大成功は収めたものの、壮大な設定とは裏腹に1つの家での攻防しか描かれないワン・シチュエーションな展開が災いし、鑑賞者からは厳しい批評を受けることになりました。

シリーズ的人気を確かなものにした2作目


(C)Univesal Pictures

翌年、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)などで注目された俳優フランク・グリロを主演に起用し公開された続編『パージ:アナーキー』(2015)。

主人公が”パージ”の時間に飲酒運転で息子を死なせた男へ復讐するため、ロサンゼルスを駆けながら、トラブルにより避難できなかった非武装の人間たちと合流していく2作目は、”パージ”の時間中の街全体の様子が映されていたり、様々な思想を持った狂人の存在がスリルと面白味を増幅させ、前作より興行収入は下がるものの固定ファンを定着させることに成功します。


(C)2016 Universal Studios.

2016年には、再びフランク・グリロを主演に『パージ:大統領令』(2017)が制作され前2作の興行収入を越えるなどその人気はとどまることを知らず、仮面やボディペイントを利用した不気味なテイストも人気で、アメリカのユニバーサル・スタジオではハロウィンイベントにも採用されるなど、本国では1つのブームとなりました。

「パージ」の描く深い社会風刺


(C)Univesal Pictures

「パージ」シリーズは、ジャンル分けされる際に”ホラー”に振り分けられることの多い映画です。

仮面をかぶった人間による殺人行為が、ドッキリ演出を使い描写されているため”ホラー”の成分が強いことは間違いないのですが、それと同時に”SF”的な要素も多く含まれています。

“SF”要素と血の通った舞台設定


(C)Univesal Pictures

人の目を引く独特な設定を作り出すために、”SF”的な世界観を取り入れることはそう珍しいことではありません。

例えば、映画化もされ日本のみならず世界で話題となった高見広春の小説『バトル・ロワイアル』では、”中学生同士の殺し合い”と言う設定を実現化するために、”仮想敵国との戦闘シミュレーション”と言う舞台設定を用意しています。

ですが、あくまでもこの舞台設定は前述の設定を違和感なく実現させるための”演出”でしかなく、舞台設定を深く描きすぎると”スリラー”としての面白味が薄れてしまうデメリットがあります。

「パージ」シリーズでは、1作目こそ舞台設定よりも”パージ”そのものの恐怖を描いた”スリラー”よりの展開が目立つ作品ではありますが、2作目以降は”スリラー”をメインに置きつつも、”舞台設定”にも力を入れた”SF”とも言える作品になっています。

「富裕層への不平不満を減らすため、敢えて平等な時間を作る」と言う名目で施行された”パージ”。

しかし、蓋を開けてみれば、”武装も防備も出来ない貧困層が襲われる”だけの法律であることが分かります。

平等を語り制定された法律が、ただ貧富の格差を広げるだけのものに過ぎなかったと言う社会風刺が強烈なパンチを決めてくる今作。

シリーズを重ねるにつれ、更にこの”パージ”と言う制度が”上位層による上位層のための制度”であることが露出し始め、完結に向けて怒涛の展開を迎えます。

このように、今シリーズでは”演出”のための舞台設定が登場するのではなく、社会風刺にふんだんに使用された、血の通った舞台設定が用意されている”SFスリラー”映画であるのです。

『The First Purge』

“パージ”の実態を描いた1作目、”パージ”の裏側が垣間見れる2作目、”パージ”を止めるため奮闘する3作目と”SFスリラー”として見事な完成度と締めくくりを見せた「パージ」シリーズは3部作として完結。

と、思われていましたが、”パージ”の制定をめぐる騒動と、初の”パージ”が行われた様子を描いた4作目『The First Purge』が今年2018年に本国で公開されました。

日本での公開時期は未定ですが、シリーズの世界観を更に深めてくれる最新作として期待が膨らみます。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile016では、『スキャナー・ダークリー』(2006)を中心に”SF”映画から考える”完全監視の未来”について考えていこうと思います。

9月26日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『死のキッチン』あらすじ感想評価とQ&Aレポート。“ご馳走”で自分に危害を加えた男への復讐をする女の執念|TIFF東京国際映画祭2025-6

映画『死のキッチン』は第38回東京国際映画祭・コンペティション部門で上映! タイ映画界を代表する監督ペンエーグ・ラッタナルアーンが2025年に発表した『死のキッチン』が、第38回東京国際映画祭コンペテ …

連載コラム

映画『エルフ物語 ゴス・アズールの化身』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ファンタジー・アクションのヒロインが種族間の壁を越えて“闇の野望に立ち向かう”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー21

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第21回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

横浜流星×藤井道人監督がトークショー登壇!映画『ヴィレッジ』を語る【タッグの醍醐味が存分に味わえる問題作】|広島国際映画祭2023リポート1

広島国際映画祭2023・特別招待作品『ヴィレッジ』 2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな …

連載コラム

『騙し絵の牙』原作小説ネタバレと結末までのあらすじ。塩田武士が大泉洋をイメージして執筆に取り組む|永遠の未完成これ完成である12

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第12回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは2021年3月26日(金)より全国公開予定の『騙し絵の …

連載コラム

【ミッドナイトスワン考察】映画の元ネタ「白鳥の湖」のストーリーを解説。夜の公園で出会った老人のセリフに重要なヒントが⁈|映画という星空を知るひとよ24

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第24回 映画『ミッドナイトスワン』はトランスジェンダー・凪沙が親から愛を注がれずにいた少女・一果を預かることになり、次第に2人の間に一つの絆が生まれる物語。 …

『還り花』
Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学