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映画『おしえて!ドクター・ルース』感想とレビュー評価。90歳のセックスセラピストが説く“おばあちゃんの性の知恵袋”|だからドキュメンタリー映画は面白い25

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第25回

セックスについて分からなければ、90歳の型破りおばあちゃんに聞け!

紆余曲折な道のりを歩んできた者が授けてくれる、コミュニケーション術。

今回取り上げるのは、2019年8月30日(金)から新宿ピカデリーほかで全国順次公開される『おしえて!ドクター・ルース』。

アメリカで有名な90歳のセックス・セラピスト、“ドクター・ルース”ことルース・K・ウェストハイマーの半生を追います。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『おしえて!ドクター・ルース』の作品情報

映画『おしえて!ドクター・ルース』

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
Ask Dr.Ruth

【監督】
ライアン・ホワイト

【キャスト】
ルース・K・ウェストハイマー、スーザン・ブラウン、ジョーン・リバーズ(アーカイブ出演)、ダリア・セーラム(声の出演)、ミリアム・ウェストハイマー(声の出演)

【作品概要】
アメリカで、90歳(2019年6月で91歳)にしていまだ現役で活躍するセックス・セラピスト“ドクター・ルース”。

歯に衣着せぬコメントで老若男女問わず親しまれている彼女は、いかにして今の地位を築いたのか、その激動の半生をたどっていきます。

監督は、『愛しのフリーダ』(2013)や、Netflix配信『キーパーズ』といったドキュメンタリーを手がけてきたライアン・ホワイトです。

映画『おしえて!ドクター・ルース』のあらすじ


映画『おしえて!ドクター・ルース』

1980年代のニューヨーク。

日曜深夜のラジオ「セクシャリー・スピーキング」は、誰も教えてくれないセックスに関する悩みを的確に解決する番組として、多くのリスナーの支持を集めます。

パーソナリティは、“ドクター・ルース”ことルース・K・ウェストハイマー。

強いドイツ訛りの英語が特徴の彼女は、身長140センチというそのチャーミングなキャラクターで好評を博し、開始当初は15分だったのが、すぐに60分→2時間番組へと拡大。

ついにはテレビ番組にも進出したルースは、全米中の人気者になっていきます。

そんなアメリカで最も有名なセックス・セラピストは、いかにして誕生したのか。

本作ではルース本人や関係者たちのインタビューを交えつつ、これまで公にされてこなかった彼女の激動の歩みが明らかとなります。

90歳のセックス・セラピストによる“おばあちゃんの性の知恵袋”


映画『おしえて!ドクター・ルース』

とにかく本作は、“ドクター・ルース”ことルース・K・ウェストハイマーの魅力にあふれています。

本編序盤で、彼女がパーソナリティを務めるラジオ「セクシャリー・スピーキング」の放送内容が映ります。

そもそも、視聴者からのセックスの悩みに答えるという企画コンセプト自体が際どいのですが、そんな彼女のアドバイスが輪をかけてスゴ過ぎ。

「女を満足させるのに男のあそこのサイズなんか関係ない」、「いいセックスをしたいのなら、男は女にマスターベーションをさせなさい」などと、通常の感覚でなら放送コードを気にして言いづらいフレーズをバンバンと発し、あらゆるお悩みを見事に斬っていきます。

かといってそれが不快に感じることがないのは、ひとえにルース本人のキャラクターがあります。

「私のような小柄なおばあちゃんがセックスについて語っても、全然いやらしく感じないでしょ」とルース本人も認めるように、どんな際どい事を言っても世間は容認してしまいます。

また、90歳というまさに人生の酸いも甘いも噛み分けた年齢だからこそ、アドバイスにも説得力がありますし、むしろ臆面もなく堂々と発するからこそ共感を生むのです。

そのあたり、「この人なら何を言っても許される」的な雰囲気を醸し出すだけで、説得力に欠けるコメント発信に終始する日本のワイドショー番組のコメンテーターとは、大きく違います。

日本ではセックスに関する悩み相談という番組自体ほぼ成立しない中で、ラジオのみならずテレビで堂々とセックス・セラピストとして活躍できる、アメリカの度量の広さも感じさせます。

時代に翻弄されてきた壮絶な半生


映画『おしえて!ドクター・ルース』

そんなドクター・ルースの知られざる生い立ちも、本作では明らかとなります。

1928年、ユダヤ人としてドイツのフランクフルトで生まれたルースは、10歳の頃にナチスドイツの迫害から逃れるべく、ひとりスイスへと疎開。

しかし、第2次世界大戦のホロコーストにより、両親と祖母、親戚を失ってしまいます。

終戦後、17歳のルースはイギリス委任統治領パレスチナへと渡り、そこでなんとユダヤ人で構成される地下軍事組織ハガナーのスナイパーとして、独立戦争(第1次中東戦争)に参加します。

しかし、彼女はアラブ側を狙撃することなく、逆に相手の砲撃を受けて負傷、そのまま終戦を迎えます。

その後、22歳で当時の夫とパリに渡ってソルボンヌ大学で心理学を専攻したのち、アメリカに移住して社会学やヒューマン・セクシュアリティ、さらに婦人科や神経科の知識を得て、1981年にセックス・セラピストとして開業することに。

この間にシングルマザーとなったり、計3回の結婚も経験したりと、まさに波乱万丈な人生を過ごしてきたのです。

「知識」は誰にも奪えない


映画『おしえて!ドクター・ルース』

ルースの壮絶な半生は、俗社会との闘いの歴史でもあります。

心理学を勉強するために1950年代にソルボンヌ大に進んだ彼女ですが、大学で「女に知識はいらない」といった理不尽な差別を受けることに。

それでも苦労の末に大学を卒業し、1980年代前半からアメリカでセックス・セラピストを始めた頃には、全米でエイズ(後天性免疫不全症候群)に絡んだ同性愛者への偏見が横行。

ルースはLGBTQ側に立って偏見をなくす活動を始めた以外にも、中絶問題における女性の権利向上を訴えます。

彼女がセックス・セラピストという職に就いたのは、何も下世話なコメントで目立ちたいからではなく、「正しい性知識を学んで、セックスで円滑なコミュニケーションを築いてほしい」という考えがあったから。

ルースが父親から授かったという言葉、「知識は誰にも奪えない」が響きます。

ポジティブなふたりの“ルース”


映画『おしえて!ドクター・ルース』

アメリカでは現在、年齢的にも支持者の多さ的にもドクター・ルースと似た人物として、「RBG」の愛称で呼ばれる現役の最高裁判所判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ(86歳)がいます。

奇しくも「ルース」という同じファーストネームを持つ彼女も、法曹界の側から女性の社会進出や性差別といった問題に取り組んできた人物で、やはり『RBG 最強の85才』(2019)という密着ドキュメンタリー映画が作られています。

ドクター・ルースとRBGの両者から感じられるのは、とにかくポジティブにしてエネルギッシュな生き方をしているということ。

年齢を言い訳にせず、自分らしく行動する。

メディア出演のみならず、本の出版やミーティングなどで精力的に活動をしているドクター・ルース。

「それが長生きの秘訣」とルースの娘ミリアムが分析するように、今日も彼女は全米各地に存在する、悩める仔羊たちの相談に乗っているのです。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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