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Entry 2018/09/23
Update

映画『散り椿』結末の感想とネタバレ解説。タイトルの意味と内容に込めた世界観を詳細に紹介

  • Writer :
  • 福山京子

名キャメラマンとして知られる木村大作が、『劔岳 点の記』『春を背負って』に続き、監督第3作目となると時代劇『散り椿』。

『雨あがる』などで監督としても活躍する小泉堯史を脚本に迎え、直木賞作家である葉室麟の同名小説を実写した作品。

また、主演を務めた岡田准一は、スタッフとして殺陣師としても参加。

映画『散り椿』に込められた意味を知ったとき、四季を彩る静寂が心に染みてきます。

日本映画だからこその美しい時代劇です。

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映画『散り椿』の作品情報


(C)2018「散り椿」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【原題】
『散り椿』

【脚本・監督】
小泉堯史、木村大作

【キャスト】
岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮。、麻生久美子、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺大、
石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二、豊川悦司(ナレーター)

【作品概要】
原作は「蜩の記」で直木賞を受賞した葉室麟の名作「散る椿」
朴訥で不器用だが精錬に生きようとする侍の”凛とした生き様”そして愛するもののために命を懸ける”切なくも美しい”愛をテーマに、黒澤組の日本映画界の巨匠木村大作が監督・撮影に挑みました。

初監督作『剣岳 点の記』(2009)で33回日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝き、黒澤組のカメラマン助手としてキャリアを重ね、映画人生60年目という節目に初の時代劇に臨みました。

主演は幅広い世代から絶大な支持を受ける岡田准一、共演には西島秀俊、黒木華、池松壮亮、富司純子、奥田瑛二ら日本を代表する豪華俳優陣が揃いました。

映画『散り椿』のあらすじとネタバレ


(C)2018「散り椿」製作委員会

享保15年(1730年)、吹雪の中真っ白な小径を静かに踏みしめてゆく一人の武士の姿があります。

名は瓜生新兵衛、かつて藩の不正を訴え出ましたが、認められずに故郷扇野藩を追われました。

雪道で刺客に囲まれながらも一瞬にして斬り倒し、黙々と帰路に向かいます。

連れ添い続けた妻の篠も京の隠遁生活で慎ましく過ごしていたのも束の間、病に伏せています。

部屋の中で、篠は「庭を見たい」と起き上がり、いつもより元気な様子で話を続け、「春になれば、椿の花が楽しみです」というと、新兵衛は「散り椿か」と答えます。

篠が新兵衛が寄り添うと、咳き込んだ後、吐血。その手を見て自分の死期を悟った篠は、新兵衛に最期の願いで「采女様を助けていただきたいのです」と託します。

采女は新兵衛が若きし頃に平山道場で鎬を削った剣の四天王と呼ばれた一人であり良き友でしたが、離郷に関わる二人だけの因縁がありました。

采女と篠は当時お互い心惹かれていましたが、采女母親の猛反対に合い二人の中は破談になりました。

篠はその後も釆女と文を交わしていることを告げました。

篠の最後の願いとは、榊原釆女を助けること、そして郷里の散り椿を自分の代わりに見てほしいことでした。

新兵衛は篠が亡くなった初夏、篠の最期の約束を果たしに故郷扇野藩に向かいます。

以下、『散り椿』ネタバレ・結末の記載がございます。『散り椿』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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新兵衛は、義弟坂下家当主の藤吾の家に身を寄せ、「なぜ戻ったのですか?」と言いながら、目も合わさずに藤五は冷たくあしらいます。

新兵衛が去った後、坂下家の当主藤五の兄が全ての咎を受け切腹し、未だ釆女の養父を討った下手人の容疑が新兵衛にかかっていたからでした。

新兵衛が戻った扇野藩では、城代家老の石田玄蕃と時期藩主側用人候補である榊原釆女との間、水面下で権力争いが展開されていました。

新兵衛が故郷を去る契機となった8年前の不正疑惑は、石田と扇野和紙の専売している田中屋と勘定方の采女の養父が関わっているとされ、采女の養父は誰かに斬られ、勘定方の坂下源之進は切腹を言い渡されました。

源之進も四天王の一人でした。

8年後帰ってきた新兵衛に、周囲の者は疑いの目と戸惑いを隠せない様子。

坂下家の義妹里美は、新兵衛に優しく接しだんだんと慕っていく中、義弟の藤吾は心を許せず自分の出世に支障が出ると考え、なるべく関わらないように過ごしています。

釆女は、若殿千賀谷政家の翌年の帰郷まで、石田との争いを仕掛けず静かに時機を待っていました。

ある日、新兵衛の元に田中屋から呼び出しの文が届くと、「この起請文に全てが書かれてある」と田中屋は新兵衛に明かします。

起請文には過去の不正が記されており、これを石田が奪いに来ることを恐れ、自分の命を守ってほしいがため用心棒になってほしいと懇願します。

毎日用心棒に向かう新兵衛の真っ直ぐな凜とした生き方に、藤五も少しずつ彼に惹かれていきます。

雪降る中、新兵衛と藤五が剣の練習に打ち込んでいます。

二人の間に目に見えない信頼関係が築かれていました。

それを優しく見守る里美の姿があります。

そんな中、田中屋が何者かに襲われます。

幸い直ぐに新兵衛が駆けつけ、田中屋の命と起請文は無事であり、新兵衛は起請文を懐に隠し持ちます。

そのために藤五を人質とされ、石田の元へ呼び出され、「起請文は、釆女に渡した」と新兵衛は言います。

新兵衛を取り囲む武士たちに、石田はお前たちが向かえる相手ではないと一喝し刀を下げさせます。

年が明け、ついに帰郷した藩主政家は、早速采女から石田の不正を知り意気揚々と鷹狩りに向かいます。

しかし武士たちの馬が止まった途端政家が銃撃に会い、一手を任されていた篠原三右衛門が盾となって命を落としました。  

近くに仕えていた藤吾が三右衛門を抱きかかえた時、三右衛門が最期の力を振り絞り藤吾に真相を伝えます。

采女の養父が采女を斬りつけようとしたので、自分が養父を斬ったこと、そして娘の美鈴を頼むと告げると息を引き取りました。

三右衛門も四天王の一人でした。

石田は自分で仕組んだ政家襲撃を、采女が若殿政家を守れなかった咎として彼に詰め寄ります。

責任を取って切腹するか、起請文を渡して藩を去るかのいずれかでした。

新兵衛は采女を助けるために、起請文を藤吾に託し政家に届けさせます。

政家の城へ向かう途中、石田の追っ手と一騎打ちする藤吾は相手の手元を斬りつけ起請文を持って駆け抜けていきます。

一方既に上意討ちを果たすべく、石田の武士は神社に結集していました。

采女と新兵衛は石田の元へ向かい、沈黙を破り死闘が繰り広げられます。

二人は一人も寄り付かせることなく切り倒す中、木々に潜む者の弓矢で采女が落命します。

新兵衛は鬼と化し、石田を斬り倒し絶命させます。

城内では政家が藤吾に坂下家と篠原家の両家復興のために励めと檄を飛ばし、仕える武士が談笑しています。

新兵衛は藤吾にすべてを託し、旅に出ます。

旅立つ新兵衛の後ろを追いかけ、里美は自分の慕う思いで「私の中の姉、篠が待っています」と告げると、新兵衛も「また散り椿を見に戻る」と約束します。

新兵衛が去っていく道には秋を彩る紅葉が、冬枯れた雪の日々そして野花が咲き始める春風の漂う季節になり、そこには篠のお墓に手を合わす新兵衛の姿がありました。

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映画『散り椿』の感想と評価


(C)2018「散り椿」製作委員会

冒頭、新兵衛に篠が最期の願いを伝えますが、篠が話している時キャメラは新兵衛の表情を捉えています。

話し手ではなく聞き手を見せ、聞き手の表情で全てを語らせるのです。

大切な人に真摯に向き合う時、どれだけ真意が伝わるのか、言葉を聞き手がどう捉えるか、そこがこの映画の美しさの根底にあるように感じます。

そして映画の後半に、なぜ篠が新兵衛に最期の願いを託したのかが分かってきます。新兵衛と采女が決闘する場面です。

采女が受け取った篠の文に「くもり日の影としなれる我なれば 目にこそ見えぬ身をばはなれず」と書かれてありました。

采女は当初、離れても自分のことは忘れないという意味に捉えていたと話します。実際新兵衛も同じ思いでした。

だからこそ決闘に及ぶのですが、ところが采女は続けます。

「(新兵衛の)姿が見えなくなってもお主と離れずついていくと、自分(采女)と決別した文だ

それを聞いている新兵衛の表情をキャメラは追いかけています。

采女は、新兵衛の納得していない表情に、篠の後を追って死ぬ覚悟を感じ、「篠はお主を死なせたくなかった。お主を救うために心にもないことを言ったのだ」と告げます。

その後二人の立つ奥に、五色の散り椿が映ります。

もう一つ、この映画の見所は岡田准一の今までにない殺陣です。

木村監督に「今までにない新しい殺陣を」と告げられた岡田准一は、自分の格闘技やアクションを取り入れ、跪くような獣のような構えから、低く瞬時に刀を斬りつけます。

ある時は首を抑え、またある時は素手で相手を倒します。

かつて、三船敏郎や勝新太郎が革新的な殺陣を試みてきた歴史のなか、今の時代の殺陣もその素晴らしい伝統を守りながら、その上のチャレンジしていきたいと岡田准一も語っています。

まとめ

こんなに日本の四季が切なくて愛しく美しいのは何故か。何をおいても監督木村大作のキャメラワークゆえのことです。

随所に見られる四季折々の風景は、富山、長野、京都など全編ロケーションで撮影され観るものの心を揺さぶり、あるときは力強くまたある時は儚く切ない心象風景を映像に収められています。

ストーリーの展開に時々挟み込まれる彩る四季の映像で、それまでの経緯や心象が伝わり、自然な呼吸で綴られた物語を辿っていくことができます。

そして「散り椿」の存在

新兵衛に采女が思いのたけを告げる時、嫉妬に荒れ狂う本音を新兵衛が吐露しはじめると、二人の隙間から何気なく散り椿が映ります。

采女が、篠の新兵衛へ対する深い愛を話した時、また散り椿がふと目に入ります。

最後に采女がこの言葉を新兵衛に言い残します。

散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるのだ

采女は散る椿として決意したのか、篠の命、そして四天王の非業の死を遂げた篠原三右衛門と坂下源之進の命を思ったのか。

采女は、何度も「生きろ!」と新兵衛に言い放っています。

残る椿として新兵衛のように、散る椿の命のバトンを繋ぐ映画を、ぜひ、ご覧ください。

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