名作として知られる映画『ジョーズ』はスティーブン・スピルバーグ監督の1975年に公開された代表作。
弱冠27歳のスピルバーグ監督が、映画製作の事務所のデスクに山積みされた企画書を盗み見して、見つけた企画を映画にしました。
ピーター・ベンチュリーの同名小説を映画化し、世界的な大ヒットとなったこの映画は、以後のサスペンス映画や動物パニック映画の走りとなった映画のお手本的な作品です。
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CONTENTS
映画『ジョーズ』の作品情報
【公開】
1975年(アメリカ映画)
【原題】
Jaws
【監督】
スティーヴン・スピルバーグ
【キャスト】
ロバート・ショウ、ロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファス、ロレイン・ゲイリーブロディ、マーレイ・ハミルトン、カール・ゴットリーブ、ジェフリー・C・クレイマー、スーザン・バックリーニ
【作品概要】
ピーター・ベンチュリーの同名小説を映画化し、映画史に残る海洋サスペンスや動物パニック映画の名作。
27歳のスティーブン・スピルバーグの代表作として、世界的に興行大ヒット。サメが襲撃する場面で流れる、ジョン・ウィリアムズによるサスペンスを強調した音楽はあまりに有名。
映画『ジョーズ』のあらすじ
アメリカ東海岸にある田舎町アミティ。
夜の闇に包まれた浜辺で戯れる男女。若い女性は砂浜を独り駆け抜け、海の波間に泳ぎを楽しみます。すると、彼女は暗い海の底に引きずり込まれます。
その後、浜辺に女性の変死体が打ち上げられたと、町に住む警察署長マーティン・ブロディに連絡が入ります。
鑑識の検証により、女性の死因はサメに襲われたものだと断定されと、ブロディ署長は浜辺を遊泳禁止のビーチにしようと言い出します。
しかし、夏の重要な観光資源である海は、閉鎖はできないと、アミティのボーン市長は、それを権力を持って拒否。
サメによる襲撃事件を聞いた観光は、はじめは少し緊張していたのか、海に浜辺に集まるも日光浴のみで海には入りません。
ボーン市長が安全を装い、ビーチでの遊泳を誘導させると、海での水泳を楽しみにしていた観光客は一気に海での観光に勤しみます。
しかし、この対応の悪さが裏目に出てしまい、第2の犠牲者に幼い少年がなってしまいます。
少年の両親はサメに賞金をかけたことで事態は公となり、アメリカの各地から賞金目当ての人々が押し寄せ、アミティの海は、にわかハンターで賑わいます。
その安全策の対応に追われる中でも、ブロディ署長はサメの専門家として知られる海洋学者フーパーを町に呼び寄せます。
学者であるフーパーは最初の遺体を検視を行い、サメ襲撃事件の犯行を起こしたサメは、これまでに見たことがないほど大きなサメの仕業と推測します。
一方で、町に来たサメハンターがイタチザメが捕らえられ、これでサメ騒動に幕引きだと湧く、アミティ市長を中心に町中がサメ襲撃事件は解決したと喜びます。
フーパーはイタチザメの口の大きさは、被害者の遺体に残っていた噛み切った後よりも小さいことから、別のサメの可能性を指摘します。
彼は念のためにサメの胃袋に残る残留物を調べることを提案しますが、少年の遺体が出て来たらどうすると、ボーン市長は猛反対。
心配を案じたブロディ署長とフーパーは、その日の夜に秘密でサメの胃袋を裂き確認をしますが、人を食べた痕跡は見つかりませんでした。
フーパーの所有する調査船に乗り、サメの探索に出たブロディ署長とフーパー。
彼らはアミティの漁師の船が漂流しているのを発見します。
動かぬ証拠を見つけたいフーパーは、調査のため海に潜って船底に残っていた大きなホオジロザメの歯を発見します。
しかし、海中に漂う漁師の惨たらしい死体に驚いた際に、その証拠を紛失してしまいます。
翌朝、ボーン市長に会いに行ったブロディ署長とフーパーは、「犯人は巨大なホオジロザメであり、すぐに海を閉鎖する必要がある」と申し出ますが、利益優先しか頭にないボーン市長は、証拠がないと拒否。
アミティのビーチの海開きを実施しますが、観光客がサメに襲われる最悪の事態が発生してしまいます。
ブロディ署長は地元のサメ漁師クイントを雇い、巨大なサメ退治を提案。
ブロディ署長、学者フーパー、サメ漁師クイントの3人は、巨大なサメ退治のため海原へと乗り出しますが、彼らが目にしたホオジロザメは予想をはるかに上回る化け物だった…。
映画『ジョーズ』の感想と評価
原作本とスピルバーグ
『ジョーズ』に影響を与えた映画名作『白鯨』
本作『ジョーズ』の構想段階でプロデューサーのリチャード・D・ザナックとデビッド・ブラウンがリストにあげていた監督は公表されているのは2人。
『マルタの鷹』『白鯨』などで知られるの巨匠ジョン・ヒューストン監督か、『ゲッタウェイ』『ガルシアの首』を撮り終えたサム・ペキンパー監督でした。
しかし、『ジョーズ』の監督の白羽の矢が立ったのは、スティーブン・スピルバーグ監督となりました。
映画製作の事務所にあった企画書『ジョーズ』に惚れ込んだスピルバーグは、リチャードとデビッドから映画化権を買い取り自ら監督することを申し出てます。
それだけでなく、まずはペーパーブックとして発売される書籍『ジョーズ』をベストセラーにするキャンペーンに書店を奔走し、その作戦を成功させました。
その後、スピルバーグ監督として映画に改めて着手しますが、しかし、ピーター・ベンチリーの書いた原作同様に映画を制作を行うつもりはありませんでした。
原作はアミティの町に繰り広げられる人間たちのトラブルの様子が多すぎたことから、それらをカットしていきます。
脚本の第1稿から第5稿までの間に、主要となる人物はブロディ署長、学者フーパー、サメ漁師クイントに絞ります。
そして、3人3様のサメとの因果関係を強める性格付けのキャラクターとして描きます。
最終的に脚本を書いたのはスピルバーグ監督を含め5人だと言われ、原作者ピーター・ベンチリー、釣りの達人のハワード・サックラー、カール・ゴットリエブ、さらには船長となるサメ退治プロであるクイントの台詞を担当したジョン・ミリアスでした。
荒くれ者のクイント役の俳優ロバート・ショウ
参考映像:『サブウェイ・パニック』
ロバート・ショウが演じたサム・クイント役は、地元漁師で荒くれ者のサメ狩りの達人です。
このキャスティングに彼がピッタリだったのは、1963年に『007 ロシアより愛をこめて』でスペクターの殺し屋役を演じ、1965年の『バルジ大作戦』ではドイツ陸軍タイガー戦車隊隊長のマルティン・ヘスラー大佐、1969年の『空軍大戦略』ではイギリス空軍ラビット中隊隊長スキッパー少佐の実績。
さらには、『ジョーズ』公開の前年1974年には『サブウェイ・パニック』で犯行グループのリーダーであるミスター・ブルーを演じており、当時、誰もがイメージとして荒くれ者というキャラクターに適任でした。
スピルバーグ監督は、ロバート・ショウについて、次のように語っています。
「ロバート・ショウは、存在感のある俳優だ。彼はほとんどサメと同じくらい神秘的なのがいい。海のサメに対する、陸のサメになって欲しかったんだ。ロバート・ショウなら陸のサメにと思った」
映画『ジョーズ』は海のサメと“陸のサメ”の決闘でもあるのでしょう。
では、そんな陸のサメのクイントというキャラクターに色をつけていったのは誰でしょう。
男前の脚本担当のジョン・ミリアス
ジョン・ミリアス監督作品『デリンジャー』
当時のスピルバーグ監督の作品で特徴的だったのは、近年の作品とは違い、“一般的で普通の人を描くことでした。
『ジョーズ』の登場人物で例えると、海洋学者フーパーの存在でしょう。
そこで自身があまり得意とまで言えない陸のサメのような男前なキャラクターである、サメ退治のプロであるクイントに魅力をつけていったのは、知人の監督ジョン・ミリアスです。
ジョンは当時すでに監督として活躍しており、男気のあるギャング映画『デリンジャー』の成功させたほか、男前を描く脚本を数本担当していました。
ジョンはスピルバーグ監督と仲も良く、ハリウッド映画の中でも男映画の脚本を書かせたら、彼のほかに“右”に出る者はいない彼に、クイントの台詞などの脚本を執筆させたのです。
まるで、そんな仲の良い2人を連想させるかのような場面が、本作『ジョーズ』には登場します。
海原に出た後に船内で酒を飲みながら、サメに襲われた過去の噛み跡を自慢し合う漁師クイントと海洋学者フーパーは、まるで過去に観た映画を語り合うような様子に見え、とてもお茶目なシーンです。
参考映像:『ダーティハリー2』
そんな男前台詞を書いたジョン・ミリアスには、過去にこのような作品があります。
彼の名前はクレジットには記載されていませんが、1971年の『ダーティハリー』の脚本に携わり、その後、1973年の続編となる『ダーティハリー2』では実績が評価され、脚本担当として本格的に関わっています。
また、1972年にはシドニー・ポラック作品『大いなる勇者』や ジョン・ヒューストン作品『ロイ・ビーン』の脚本も担当するなどして脚本の腕前を上げていきます。
さらに、ジョン・ミリアスは自ら脚本を書き、1973年に『デリンジャー』で監督デビューを果たしています。
そのほか、1979年にはスティーブン・スピルバーグ監督の作品『1941』でも原案と製作総指揮を担当し、『ジョーズ』のパロディや憧れの俳優であった三船敏郎をキャストに迎え、彼らは一緒に楽しんでいます。
さらには、1980年にはスピルバーグとともに製作総指揮として、ロバート・ゼメギス監督の『ユーズド・カー』に参加したことも特出しておくべきことでしょう。
この当時のスピルバーグ監督は、何かと『スター・ウォーズ』で成功を収めたジョージ・ルーカス監督と比較されて並べられることも多かったのですが、ジョン・ミリアスとの親交はとても深かったようです。
参考映画:『コナン・ザ・グレート』
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ちなみに、ジョン・ミリアス監督の代表作は、1978年のサーフィン青春映画『ビック・ウェンズデー』や、1982年の若かりし頃のアーノルド・シュワルツネッガー主演の『コナン・ザ・グレート』、1984年に脚本・監督を務めた『若き勇者たち』があります。
そのほか、脚本を担当した名作『地獄の黙示録』(1979)や、製作担当をした『地獄の7人』(1983)も忘れがたい作品です。
パニック映画の新たな路線拡大へした功績
参考映像:パニック映画の元祖『大空港』
映画『ジョーズ』はサスペンス映画として高い評価を受けましたが、それ以前のサスペンスを取り入れたパニック映画の元祖と言えば、1970年公開の『大空港』。
突然、何の前触れもなく事故や大惨事に巻き込まれてしまうパニック映画が、1970年代ののハリウッドではブームとなります。
今で言うところディザスタームービーの系譜となる根幹とも言えます。
飛行機事故だけでなく海難事故を描いた1972年公開の『ポセイドン・アドベンチャー』。
1973年には自然災害を扱った『大地震』。
1974年には高層ビルの火災テーマにした『タワーリング・インフェルノ』など次々に作られ公開されていきました。
参考映像:『タワーリング・インフェルノ』
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しかし、弱冠27歳のスティーブン・スピルバーグ監督の映画『ジョーズ』公開後は、大作パニック映画のブームに一旦終止符を打ち、動物パニック映画という新しい道を切り開きます。
もちろん、スピルバーグ監督の映画『ジョーズ』以前にも、動物パニック映画の名作には、ゴリラの『キングコング』(1933)、クジラの『白鯨』(1956)、ヒッチコック監督の『鳥』(1963)などもありました。
しかし、それらと肩を並べるほど、公開当時の『ジョーズ』は人気を博し、映画ファンを熱狂させた作品でした。
この大ヒットを飛ばした映画『ジョーズ』以後は、それに追いつけ追い越せとばかりに、山中の凶暴な熊が襲いかかる『グリズリー』(1976)。
巨大なタコが音もなく忍び寄る『テンタクルズ』(1977)。
同年には頭の良いシャチが人間のような感情を持ち復讐の鬼と化す『オルカ』。
1978年にはジョー・ダンテ監督の『ピラニア』も公開されました。
参考映像:『ピラニア』
これらの動物パニック映画は、1978年に公開した続編『ジョーズ2』では、今度は人間ではなく、サメが人を追いかけるという不作を描くものの、1980年代に入ってから動物パニックは様々にキャラクターを変えて描かれ続けました。
巨大ネズミ、巨大アリゲーター(ワニ)、狂犬などを生み出して、スクリーンで暴れさせていきました。
これらは、あなたもすでにお気付きのように2010年代の今も動物パニック映画は製作され続けています。
例えば、「ピラニア」シリーズはバリエーションを代えて続き、また、動物たちの巨大化は止まらずに、2018年日本公開される『ランペイジ 巨獣大乱闘』になっていくのです。
そう、思うと、スティーブン・スピルバーグ監督が、1975年に『ジョーズ』というモンスター映画を、27歳の若さで作った功績は、やはり、とてつもなく大きな実績といえますね。
参考映像:『ランペイジ 巨獣大乱闘』
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まとめ
本作『ジョーズ』のなかには、多くのサスペンスの工夫が見られ、今なお見る者をゾクゾクさせてくれますし、以後の多くの映画のお手本になっている演出法がいくつも見られます。
しかし、そんなスティーブン・スピルバーグ監督もこの作品で、サスペンスの神様と呼ばれたアルフレッド・ヒッチコック監督の名作中の名作『めまい』(1958)をお手本にした演出表現を見せています。
ロイ・シェイダー演じるブロディ署長がビーチに座り、海を眺めている目の前で予期せぬサメの襲撃で惨劇が行われ、血の気が引いていく場面です。
250ミリのズームレンズを装着したキャメラを使用し、移動車に乗りながら撮影を行うドリー・ショットに合わせながら、被写体のブロディ署長からズーム・バックしていくのを組み合わせた複雑なショットです。
これはスピルバーグ監督自身の手によって撮影されたもので、ヒッチコック監督の『めまい』と比べてみると面白いですよ。
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