Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/05/08
Update

映画『コリーニ事件』あらすじと感想レビュー。話題のキャストにドイツの人気俳優とイタリア西部劇の名優による共演

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『コリーニ事件』は2020年6月12日(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー予定

ドイツでベストセラーとなった法廷サスペンス小説を映画化したドラマ『コリーニ事件』。ある殺人事件の担当になった新米の弁護士が、自身の思わぬ境遇に戸惑いながらも事件の真相に迫る姿を描きます。

50カ国の映画祭に招待された『SUMMERSTORM』のマルコ・クロイツパイントナーが監督を担当。ドイツのエリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハら実力派俳優に加え、マカロニ・ウェスタンを代表する名優フランコ・ネロが共演と、豪華なキャスト陣も魅力の1作です。

映画『コリーニ事件』の作品情報


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

【日本公開】
2020年(ドイツ映画)

【英題】
THE COLLINI CASE(ドイツ語原題:Der Fall Collini)

【原作】
フェルディナント・フォン・シーラッハ

【監督】
マルコ・クロイツパイントナー

【キャスト】
エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロ

【作品概要】
ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハのベストセラー小説をもとに映画化した法廷サスペンス。ある殺人事件をめぐり、被害者と深い関わりがある弁護士が加害者の弁護を担当するという異例の事態で、知られざるドイツの歴史のタブーに触れていく様を描きます。『TRADE』(2007)『クラバート 闇の魔法学校』(2008)などのマルコ・クロイツパイントナー監督が作品を手掛けます。

また新米弁護士カスパー・ライネン役を人気急上昇中のエリアス・ムバレク、殺人を犯した罪で法廷に立つイタリア人ファブリツァーニ・コリーニ役に、マカロニ・ウェスタン作品では常連のベテラン俳優、フランコ・ネロ、被害者の弁護を行う曲者弁護士リヒャルト・マッティンガー役を、ドイツの俳優ハイナー・ラウターバッハが演じます。

さらにカスパーの元恋人ヨハナ・マイヤー役を『イマジン』(1989)『愛を読むひと』(2009)などのアレクサンドラ・マリア・ララが演じます。

映画『コリーニ事件』のあらすじ


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

ある日のホテル。一人の老人が血のりの付いた衣服姿でフロント前の待合い席に降りてきました。コンシェルジュが老人に大丈夫かと声を掛けると、老人は人を殺したと告白します。

男性はドイツで30年以上も模範的な市民として暮らしてきたイタリア人ファブリツァーニ・コリーニ。彼は経済界の大物実業家を殺害、彼の国選弁護人として選ばれたのは、新米弁護士のカスパー・ライネンでした。

初の弁護案件に意欲を燃やしていたカスパーでしたが、事件の概要を知る中で、実は被害者がカスパーの少年時代からの恩人だったことを知り愕然とします。

元恋人で被害者の娘ヨハナ・マイヤーからもその役割を辞めるように通告されながらも、役割を全うしようとするカスパー。そんな彼にコリーニは、殺害の動機を語ろうとしません。

しかしカスパーは、事件の全容からコリーニの過去を調べていく中で、事件の鍵であるドイツ司法のあるスキャンダルにたどり着くのです。

映画『コリーニ事件』の感想と評価


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

満を持しての映画化

2017年に映画『4分間のピアニスト』を手掛けたクリス・クラウス監督が『ブルーム・オブ・イエスタディ』も発表しました。

第29回東京国際映画祭で東京グランプリを受賞したこの作品は、祖父がナチスの戦犯であるというホロコースト研究者と、祖母がナチスの犠牲者となったユダヤ人の女性が、お互いのルーツを知らないまま恋に発展していくというラブコメディー。

ユーモラスでかつ非常に重いテーマを描き高い評価を受けています。

クラウス監督は当時のインタビューで「こういった‟ホロコーストなどを一部で描いているけど、あの悲劇をそのまま描いていない作品”を、ドイツ国外ではよく目にするようになった」とその所感を語っており、近年のドイツ国内で、作品作りにおいてこうしたナチス・ドイツやホロコーストといった歴史的問題に意識が集まりつつあることを伺わせています。

原作小説の執筆者であるフェルディナント・フォン・シーラッハの祖父は、ナチ党全国青少年最高指導者であるパルドゥール・フォン・シーラッハ。

そんな彼が映画『コリーニ事件』でナチス・ドイツの残した負の遺産にまつわるストーリーを描いたことは、視点の違いはあれどこういった傾向に強いつながりも感じられ、本作に至ってはまさに満を持しての映画化といえる作品であります。

戦争終結後に存在した裁判や司法などには実在するものもあり、これらを交えて展開するストーリーからは、戦争の闇を思わせる新たな事実を実感することでしょう。

実力派俳優3人の好演


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

本作は法廷ミステリー的な出だしより、物語中盤からナチス・ドイツのホロコーストでの悲劇にまつわるエピソードなど、当時から現在まで消えない闇の歴史について言及しています。

この転換は作品を果たしてこれにまつわる人々それぞれの罪を問えるのかというかなり重いテーマへと変え、物語のトーンを一気に重厚なものとしています。

そしてこの作品のテーマを明確にしている要因が、主演を務めたエリアス・ムバレクとハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロという2人のベテランの存在にほかなりません。

この物語をしっかりと成立させるのは、法の正義を追究する揺るぎのない主人公であり、その人物としてエリアス・ムバレクの起用は成功だったといえるでしょう。

チュニジア人の父とオーストリア人の母を持つ彼の容姿はそのルーツも相まって、こういった厳粛な雰囲気を持つ法廷モノの物語でイメージされるシャープな面持ちとは、どちらかというと少しイメージが違う印象もあります。

しかし物語の設定として主人公カスパーは新米弁護士。加えて彼の容姿は別の視点でからはドイツの法廷という限られた空間の中でナチス、ホロコーストというポイントに対して非常に中立性を感じさせます。


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

そしてムバレクはそんなカスパーを、弁護士という職業に対する膨大なリサーチを行った上で演じ、揺るぎない正義感が経験の少なさすらも一蹴してしまう、そんな安定感のある人物として描きました。

対して悪意すら感じさせる弁護士マッティンガー役を務めたハイナー・ラウターバッハの大胆な表情の見せ方胸に一物を秘めながら沈黙を守るコリーニを演じた名優フランコ・ネロと、魅力あふれるベテラン俳優のバックアップは、ムバレクの存在感をさらに引き立たせています。

この3人それぞれの表情は個々に独立して演じられているようで、その裏には強い駆け引きのようなものも感じられます。その意味ではこの重厚なドラマを演じるに値する実力派3人の秀逸な演技が、この作品の見どころともいえるでしょう。

まとめ


(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

過去の戦争について日本国内でも徐々にその世代の人が亡くなる中で、「忘れまじ」とさまざまなエピソードや思想を描いた作品が発表されています。

しかし日本でこの『コリーニ事件』や『ブルーム・オブ・イエスタディ』(2017)のような物語が描かれないのは、お国柄のような違い以上の大きな社会問題に匹敵する事情を抱えているようでもあります。

その意味ではまったく遠く離れた国の物語ではなく、自国のことを考える機会を与えてくれる作品ともいえるでしょう。

また本作の撮影監督を手掛けたのは、ヨーロッパ屈指の撮影監督といわれるヤクブ・ベイナロヴィッチュ。作品に登場する法廷のシーンでは、撮り直しの回数を減らすための策として最大3台のカメラを使用して撮影しています。

物語自体にも描かれていた重々しい空気感、緊張感を余すところなく表現しており、閉塞された法廷という空間の画を見ごたえのあるものとしています。

映画『コリーニ事件』は2020年6月12日(金)、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開予定

関連記事

サスペンス映画

映画『ゴールド/金塊の行方』感想とあらすじネタバレ!ラスト結末も

実在の事件を題材に、マシュー・マコノヒーが自身の制作・主演で映画化した犯罪サスペンス『ゴールド/金塊の行方』をご紹介します。 以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『ゴールド/金 …

サスペンス映画

【ネタバレ】映画『グロリア(1980)』ラスト結末あらすじと感想評価。ジーナ・ローランズの女優としての魅力が迸るハードボイルド!

一人の少年を救うため犯罪組織を敵に回した女の闘い 1980年製作のアメリカ映画『グロリア』は、ジョン・カサヴェテス監督、ジーナ・ローランズ主演で贈るサスペンス。 ローランズ演じるグロリアが、隣人の少年 …

サスペンス映画

映画『オンリー・ゴッド』あらすじと感想レビュー!ラスト結末も

2012年に映画『ドライヴ』で日本の映画ファンに、その名を知らしめたニコラス・ウィンディング・レフン監督。 ふたたびニコラス・ウィンディング・レフン監督&ライアン・ゴズリングがタッグを組んだ …

サスペンス映画

映画『ヴィレッジ』ネタバレ考察と評価解説。シャマラン監督おすすめの“悲しい過去”を閉じ込めた「理想郷の真実」

「語ってはならぬ物」との協定で平和が約束された村。小さな掟破りが増幅させる恐怖と愛する者を守りたい、無垢な勇気が起こす奇跡の物語。 映画『ヴィレッジ』を手掛けたのは、M・ナイト・シャマラン監督。『シッ …

サスペンス映画

映画『飢えたライオン』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【松林うらら×水石亜飛夢】

誰もが発信者になれるSNS時代、一つのフェイクニュースが少女を追い詰めていく・・・。 全編定点視点のカメラワークはまるで人の私生活を覗き見するような不気味かつ危険な魅力に溢れています。 現代社会の警鐘 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学