“天使と悪魔”が聖職者の心に呼びかけた声と招いた結果とは・・・?
映画『天使と悪魔』は、ダン・ブラウンの世界的ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」が映画化され、作中大活躍したロバート・ラングドン教授が、再び難問に挑戦する続編作品です。
ロバート・ラングドン教授役には、続編作品には出演しないことでも知られる、オスカー俳優のトム・ハンクスが自ら熱望し挑みました。
舞台はヴァチカン。教皇が逝去し、新教皇を選ぶための「コンクラーベ」が行われますが、次の候補者である4人の枢機卿が誘拐され、事件の裏で秘密結社イルミナティの存在と、陰謀が見え隠れしてきます。
ラングドン教授は美人科学者ヴィットリアと協力し、イルミナティの陰謀と枢機卿の誘拐事件の真相に迫ります。
スポンサーリンク
映画『天使と悪魔』の作品情報
(C) 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
【公開】
2009年(アメリカ映画)
【監督】
ロン・ハワード
【原作】
ダン・ブラウン
【脚本】
デビッド・コープ、アキバ・ゴールズマン
【原題】
Angels & Demons
【キャスト】
トム・ハンクス、アイェレット・ゾラー、イアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ニコライ・リー・カース、トゥーレ・リントハート、アーミン・ミューラー=スタール、コジモ・ファスコ、カーメン・アルジェンツィアノ
【作品概要】
監督は『アポロ13』(1995)や『身代金』(1996)などのヒットメーカーであり、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)でもメガホンを取った、ロン・ハワードが務めます。
枢機卿誘拐の鍵を握るマッケンナ司祭役は、『プーと大人になった僕』(2018)で大人になったクリストファー・ロビン、「スター・ウォーズ」シリーズでは若き日のオビ=ワン・ケノービを演じたユアン・マクレガー。
イルミナティの甦りを示す謎に関わる、女性科学者ヴィットリア役は、『ミュンヘン』(2005)、『バンテージ・ポイント』(2008)に出演した、イスラエル女優のアイェレット・ゾラーが演じます。
映画『天使と悪魔』のあらすじとネタバレ
(C) 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
ヴァチカン市国共和国のローマ教皇が逝去し、習わしにより教皇の印“漁夫の指輪”は破壊、熔解されると「セーデ・ヴァカンテ」と呼ばれる、9日間の喪に服するため、教皇の部屋は閉鎖されます。
教皇の葬儀は全世界に中継され、10億人ともいわれるカトリック信者達の祈りに包まれます。そして、その信者たちを率いる新教皇は、“プレフェリーティ”と呼ばれる最有力候補の枢機卿の中から、「コンクラーベ」という会議で選出されます。
ところ変わりスイスのセルン研究所では、大型ハドロン衝突型加速器を使った実験が行われています。
シルヴァーノ博士はその実験の中でしか得られない、“神の素粒子”と呼ばれる「反物質」生成の研究に威信をかけて取り組んでいます。
そのサポートをしているのがヴィットリア博士です。ところが「反物質」の驚異的なエネルギーを知るものは、その研究に批判的な意見が多くあり、実験参加のアクセスに制限をかけられていました。
この実験が最後のチャンスになるため、ヴィットリアは必死に責任者を説得し、シルヴァーノ博士は“神の素粒子”の生成に成功します。
ところがシルヴァーノ博士の研究室に戻ったヴィットリアは、無残な姿で殺害された博士と“神の素粒子”3本のうち、1本が盗まれているのを発見してしまいます。
一方、ニューヨークの宗教象徴学教授、ロバート・ラングドンの元にヴァチカン警察の捜査官が訪ねてきます。
ロバートはローマ教皇が亡くなった大変な時期に何事かと、怪訝そうにしますが捜査官から“アンビグラム(対称形)”で描かれた、イルミナティのシンボルを見せられます。
捜査官はイルミナティは消滅したと思っていますが、ロバートは「最終的な目標を遂げる時、シンボルは世に明かされる」という言い伝えを教えます。
つまり、誰かが教皇の死によって、イルミナティが甦ったことを伝えているのではないかと考えました。
捜査官は明け方3時から5時の間に、4人の枢機卿が誘拐され、スイス英兵隊本部にシンボルと共に、「今夜8時から1時間ごとに1人ずつ、枢機卿の公開処刑を行う。」という脅迫状が届いたと説明します。
そして上司のオベリッティは、ロバートを専門分野の教授であり、キリスト教関連の事件に関与していたことから、犯人の正体をつきとめられると踏み指名したと言います。
ロバートはヴァチカンから好意的に思われてないはずと躊躇しますが、捜査官は一方でロバートの優秀さが証明されていると、改めて捜査の協力を願いました。
ヴァチカンへ向かう途中、捜査官はイルミナティが甦ったならば、見つけ出し始末せねばと言います。ロバートはイルミナティについて、メンバーは“啓示を受けた者”と呼ばれる科学者の集まりで、17世紀までは暴力的ではなかったと説明します。
しかし、教会の教義に疑問を持ち、科学的真理を追究したため、教会から壊滅させられその後、生き残った者で“秘密結社”を組織したと言います。
ヴァチカンに到着すると、オヴェリッティが出迎えてくれます。彼はヴァチカン市国の警備体制は複雑で、市国内全般はヴァチカン警察とローマ市警、枢機卿の警護にはスイス衛兵隊が担当していると説明します。
さらに衛兵隊のリヒター隊長は信仰心が深く、前教皇とも親しかったと付け加え、午後6時53分スイス英兵隊本部に入ると、そこにはヴィットリアも呼ばれていました。
リヒターはロバートに冷ややかな態度で接します。そして、オヴェリッティが新たな脅迫状が届き、事態が変わってきていると伝えました。
脅迫状とはある容器が映し出された映像でした。ヴィットリアはそれを見て、研究室から盗まれた容器だと判断し、中身は反物質で爆発したら危険だと訴えます。
磁力で宙に浮いてる反物質ですが、バッテリーが切れ落下して物質と接触すると、5キロトンに相当する凄まじい爆発があこると示唆します。
ロバートは「ヴァチカンは光に包まれて消えるか・・・」とつぶやくと、リヒターが誘拐犯が同じ言葉を使っていると、枢機卿たちを映し出している強迫動画を見せます。
「4つの柱を破壊し、プレフェリーティ達に焼印を捺し、科学の祭壇に捧げ、ヴァチカンは光に包まれ崩壊し、啓示の道の果てに輝く星が現れるだろう」
ロバートはこの文言は、かつてイルミナティが使った古い脅迫文の引用だと話し、4つの柱は誘拐された枢機卿のことで、焼印については5つあるといわれているが、最初の4つは基本元素の土、空気、火、水を表わすアンビグラムだと推考します。
ロバートは1668年に教会がイルミナティの科学者4人を誘拐し、4人の胸に十字架の焼印を捺して処刑し、道に放りだし「彼らの罪を浄めるため(ラ・プルガ)」と言いながら、見せしめにしたと教えます。
この誘拐はその報復で、彼らは科学技術の産物「反物質」を手に入れて、教会を破壊し科学が教会を抹殺しようとしていると話します。
そして、「啓示の道」とはイルミナティが密会をする、啓示の教会に至る秘密のルートで、スタートを示す“記号(セーニョ)”がわかれば、4人の枢機卿が処刑される教会がたどれると、力説します。
しかし、それを調べるには記録保管庫の資料が必要であると、開示の許可を得るため、教皇の代わりに決定権のある、“カメルレンゴ”のマッケンナ司祭に協力を求めます。
スポンサーリンク
スポンサーリンク
映画『天使と悪魔』の感想と評価
(C) 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
司祭マッケンナは“神”の力こそが絶対という思いがありました。そして、過激派による爆弾テロで本当の両親を亡くしているため、シルヴァーノが生成しようとしている“反物質”に対して、並々ならぬ嫌悪がありました。
“反物質”はエネルギー資源として平和利用できるものですが、逆に殺傷レベルのある兵器にもなります。マッケンナは聖職者でもあったシルヴァーノが、人間を脅かす研究をしていると憤りました。
また、両親を奪った“科学”に、慈悲深く慈愛に満ちた養父(教皇)が、加担したことが信じられず許せなかったのでしょう。
マッケンナにとって“悪は科学”で“善は神”です。悪である反物質を悪用し、実態を知らしめようと、古からの教会の天敵“イルミナティ”を再び壊滅させれば、自分がカトリック信者からの威厳を保てると、自作自演に転じていきました。
彼には“天使と悪魔”が表裏一体に存在していました。爆弾テロの残酷さを知りながら、自ら爆弾テロを企て、信者を爆破から守ろうとする行為、神への深い崇敬を見せながら、4人もの枢機卿を誘拐し、殺害をもいとわない残虐性・・・。
これらのギャップはマッケンナに、“メサイアコンプレックス”と呼ばれる誇大妄想的な宗教観があり、“演技性”や“自己愛”的なパーソナリティ障害をもっているようにも見えます。
マッケンナは9歳という幼い時に、爆弾テロで両親を失いながら、ローマ大司教の養子になれたことで、“神の申し子”や“神の望み”で、導かれたと勘違いしたのです。
また、次期教皇の座をあわよくば得られると考えていたのは、シュトラウスも同じです。有力者が3人亡くなってもコンクラーベを続行したのは、自らも教皇としてふさわしい立場だと自覚していたからでしょう。
しかし、誇示するのは品位が下がり、第三者からの後押しが必要でした。シメオンから提案されたシュトラウスが「それが、神のご意志なら・・・」と、言ったのは教皇になりたくて降りたわけではないという、大義名分を作りたかったからです。
しかし、シュトラウスの浅はかな目論みを打ち破ったのは、私利私欲のないロバートの人命救出を優先とする使命感です。
信仰心はなくとも教会に関する知識の深さは、“プレフェリーティ”を救うことができ、シュトラウスを“カメルレンゴ”という適材適所に導きました。
まとめ
(C) 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
映画『天使と悪魔』は、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレ(1564~1642)が“地動説”を唱えたことで、教会の教義“天動説”に反したとして有罪になります。そのことと教会の天敵であるイルミナティとの報復の歴史を軸に、科学的な症例に否定的な宗教観の司祭マッケンナが、恩人である教皇を手にかけ自らが教皇になるため、最悪なシナリオを企てるサスペンス映画でした。
本作の舞台となったサンピエトロ大聖堂は、再建が始まった1506年頃、当時の第一級の芸術家たちがその造営に携わり、教会の威厳を示し始めます。そんな秘密のヴェールに包まれたヴァチカンは、聖職者の名誉欲や権威欲も生々しく、うごめいているという想像もさせたでしょう。
本来、宗教は迷える人間に寄り添うべき存在ですが、カメルレンゴに「宗教には欠点もある、それは人間に欠点があるから」と言わしめます。
また、無神論者のロバートを善き助言者と称し、それを「神のご意志」としたのは、古いしきたりや常識に囚われた教会に、広い見識をもつよう求めるメッセージを感じた作品でもありました。