絶体絶命の水着美女に迫るサメ!孤立無援の究極海洋パニック
スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)公開以来世界で、日本では特に人気のサメ映画。おかげで無数のサメ映画が作られ、膨大な作品が日本にやって来ました。
CG技術の発達と共に、お手軽に描けるようになった人を襲うサメたち。非常識なほど大きくなったり、ありえない場所に現れたり、「これはサメですか?」という姿で登場したり…あらゆる種類のトンデモサメ映画が誕生しました。
一方でサメ映画が本来持つ怖さを、新しい形で見せたい。そんな本格派作品も誕生しています。
その1つが『ロスト・バケーション』。孤独に海中より迫るサメの恐怖と向き合う者の恐怖を、ソリッド・シュチェーションで描いた作品です。
スポンサーリンク
CONTENTS
映画『ロスト・バケーション』の作品情報
(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
【製作】
2016年(アメリカ映画)
【原題】
The Shallows
【監督】
ジャウム・コレット=セラ
【キャスト】
ブレイク・ライヴリー、オスカル・ハエナダ、ブレット・カレン
【作品概要】
原題「The Shallows」の意味は浅瀬。陸がすぐ先に見える、浅瀬の岩に取り残されたサーファーの女性。サメに執拗に襲われ身動きが取れず、潮が満ちると岩は海中に沈みます…。脱出不可能な状況で描かれた海洋パニック・ホラー。
監督は『エスター』(2009)で、ホラー映画ファンのド肝を抜いたジャウム・コレット=セラ。その後『フライトゲーム』(2014)や『トレイン・ミッション』(2018)などのリーアム・ニーソン主演作を手がけ、ディズニー映画『ジャングル・クルーズ』(2021)を監督しています。
主演は『旅するジーンズと16歳の夏』(2005)で注目を集め、ドラマ『ゴシップガール』(2007~)で大人気となったブレイク・ライヴリー。ライアン・レイノルズと結婚したことでも知られています。
『ランボー ラスト・ブラッド』(2020)のオスカル・ハエナダ、数々の映画の名脇役として知られ、『ジョーカー』(2019)では後にバットマンになるブルース・ウェインの父、トーマス役を演じたブレット・カレンが共演しています。
映画『ロスト・バケーション』のあらすじとネタバレ
(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
ビーチで1人サッカーボールを蹴っていた少年は、流れ着いたヘルメットに気付き拾いあげます。それにはビデオカメラが装着されています。
少年はカメラが記録した映像を再生します。そこにはサーフィンをする者の姿が映っていました。やがて映し出された光景に驚いた彼は走り出します。そしてビーチには、破損したサーフボードが残されていました…。
それより幾日か前でしょうか。メキシコでビーチに向かう車にナンシー(ブレイク・ライヴリー)が乗っています。彼女はスマホに残された、母の写真を見ていました。
車を運転するカルロス(オスカル・ハエナダ)に、これはメキシコにサーフィンに来た時の母の姿だ、その時母は私を妊娠していたと説明するナンシー。
彼女は母が訪れたビーチでのサーフィンを望んでいました。そしてビーチの近くに住むカルロスの車に便乗したのです。本来は彼女の友人も来るはずでしたが、二日酔いで倒れた友人をホテルに残し、ナンシーは1人で向かっていました。
多くの人が知らぬ美しいビーチに着くと、既にサーフィンを楽しむ男たちがいました。スペイン語が不得意なナンシーは、カルロスからビーチの名を聞くことが出来ません。
帰りの手段を心配するカルロスに、Uberタクシーを使うと答えたナンシー。友人にはこの場所の名を伝えていません。それでも彼女はビキニの上にウエットスーツを着ると、サーフィンボードを手に海に入ります。
大きな波を抜けた先に、スペイン語を話す2人の男がいました。彼らからもビーチの名は聞けませんが、1日に1回潮が引いた時だけ現れる岩がある、そして人を刺す火炎サンゴ(アナサンゴモドキ)に気を付けろと教えてもらうナンシー。
やがて彼女は波に向かって泳ぎ出し、男の1人はヘルメットに付けたビデオカメラのスイッチを入れます。大きな波に乗りサーフィンを楽しむナンシーと男たち。
ビーチで休んでいたナンシーに、まだ幼い妹から電話がかかってきます。姉が母の思い出のビーチにいると知り興奮する妹。しかしその電話に父(ブレット・カレン)が出ました。
父はナンシーが在学中の医学校を休み、メキシコを旅していると知り驚きます。父はナンシーが病に倒れ亡くなった母にショックを受け、医学の道を棄てたと心配していました。母は最期まで生きるために闘ったと説得する父。
未だ母の死から乗り越えられず、傷心のままビーチを訪れたナンシーは電話を切りました。そして海に向かったナンシーは、ホテルに残した友人からの、今日は外泊するとのメールに気付きません。
日が傾き始め男たちは引き上げますが、ナンシーはもう1度波に乗ろうと沖に向かいます。海中に怪しい気配を感じますが、その正体はイルカたちでした。
ホッとしたナンシーは、沖にカモメが集まる巨大な何かが浮いていると気付きます。その正体はクジラの死骸でした。あちこち肉が露出した死骸の匂いに、思わず顔をしかめるナンシー。
海の中に何かがいました。波に乗った彼女は、その中から現れた何かに弾き飛ばされます。サーフィンボードに戻ろうとしたナンシーは海中に引きずり込まれ、周囲は彼女の血で染まりました。
それはサメでした。自分を傷付けた相手の正体に気付いたナンシーは、必死に泳いで鯨の死骸の上に登ります。彼女は痛みに耐え、自身とサーフボードをつなぐ紐で足を縛り止血します。
クジラの上で大声を出し、車に乗り帰ろうとする男たちに助けて、と叫ぶナンシー。しかし声は届きません。するとクジラの死骸が動きます。サメがその肉を喰いちぎりました。
陸地も、浮かぶブイも遠すぎます。意を決してサメがクジラの死骸を襲う直前に飛び込み、波から顔を出した岩を目指して泳ぎ出すナンシー。
必死に岩の上に這い上がろうとしたナンシーは、火炎サンゴを踏み悲鳴を上げます。それでも彼女は岩の上に逃れることができました。
そこには先ほどのサメの襲撃で羽根を痛めたのか、1羽のカモメがいました。孤立した状態でイヤリングとペンダントを使い、痛みに耐え脚の傷口を縫合すると、ウエットスーツで傷をくるみます。
待てども誰も訪れません。やがて夜になり、寒さに耐えかねたナンシーはウエットスーツを着ました。露わになった脚は酷い状態です。止血を緩め血流を回復させると、裂いたスーツで傷を保護するナンシー。
眠りについたナンシーは、体に這い上がったカニに驚き目覚めます。空腹からそのカニを口にしますが、味はマズく彼女はそれを食べることが出来ません。
近くにサーフボードが浮かんでいました。まだ周囲は暗いですが、サメがいなければボードを使ってビーチに向かえます。彼女は痛みに耐え、ボード目指し泳ぎ始めました。
しかし背びれが海面に姿を現し、彼女は慌てて岩に戻ります。絶望しかけたその時、ビーチに人影があることに気付きます。寝ている人物に大声で助けを求めるナンシー。
酔って寝ていた男は目を覚まします。彼女は男にリュックの位置を示し、電話で通報してくれと頼みます。しかし男は荷物の中からスマホと金を抜き自分のポケットに入れると、リュックを持ち立ち去ろうとします。
物は奪って良いから取り残さないでくれ、と叫ぶナンシー。ところが海に浮かぶサーフボードに気付いた男は、それも手に入れようと考えたのか、リュックを置き海に入りました。
彼女はサメがいると警告しますが無駄でした。ボードにたどり着いたものの、ナンシーの目の前で襲撃される男。その姿を彼女は見つめるしかありません。
無残な姿になった男はビーチにたどり着きましたが、やがて力尽きました…。
スポンサーリンク
スポンサーリンク
映画『ロスト・バケーション』の感想と評価
(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
様々な種類のサメ映画がある中、シンプルにサメVS美女のガチンコ対決で見せる展開が、全世界のB級映画ファンのハートを直撃した作品です。
この特殊なシチュエーションを用意するために、主人公は誤った行動を連発します。家族も友人も知らない、知る人も無く言葉の通じぬ場所で、外部とのアクセス手段を手放し1人海に入る主人公。
こんな場所にアメリカでは一般的な存在、Uberタクシーは絶対に来ないだろう…と死亡フラグを立てまくるブレイク・ライヴリーの姿に、イライラする方もいるかもしれません。
誰にも知らせず1人山に登るのが危険な行為なら、誰にも知らせず1人海に入るのも危険。そんなアウトドアレジャーの危険を教えてくれる映画でもあります。
それでも主人公には、この場所に来るべき理由がありました。絶体絶命の危機の中、彼女のサバイバル能力が目覚めます。本作の過酷な撮影に、なぜブレイク・ライヴリーは挑んだのでしょうか?
夫も出演したソリッド・シュチェーション映画に挑戦
参考映像:『[リミット]』(2010)
ブレイク・ライヴリーは、夫ライアン・レイノルズがほぼ1人で演じた映画『[リミット]』(2010)に関心がありました。
その映画がどれ程困難で、どれ程やりがいがあったかを知った彼女は、同様の設定を持つ本作への出演を決めます。ただし夫は地中に埋められた箱の中、妻は明るい海の上に突き出た岩の上、との違いはありますが。
極限状態に置かれた女性の生きるための闘いと、その中で変わる心の動きを演じたブレイク・ライヴリーは、インタビューで本作が単なる「ビキニVSモンスター映画」にならなくて良かった、と笑って答えています。
傷心の主人公は、亡き母が自分を妊娠していた時に訪れたビーチに現れます。実は本作撮影時、ブレイク・ライヴリーは第2子を妊娠中。これを知れば主人公のセリフの重みが深く感じられるでしょう。
岩の上で消耗した主人公は、体に這い上がったカニを思わず叩き潰し、口にして吐きました。しかしご存じの通りハリウッド映画は、「この映画を製作するにあたり、いかなる動物虐待も行われていません」と説明するものです。
という訳で彼女が潰したカニはCG。そして口にしたカニは…監督曰く、「生きたカニを殺す訳にはいかないので、撮影の日の午前中、美術スタッフにビーチで死んだカニを探させた」…これでいいんでしょうか?
そんなもの口にできるか!これではハリウッド女優への虐待では?、という声は出なかったのでしょうか。宣伝で盛って話をしただけだ、と信じたくなるエピソードです。
この話は本作に、多くのCGが使われた事実を示しています。監督は本作の撮影の1割がロケ(ビーチのロケ地はオーストラリアのロード・ハウ島)、残る9割は撮影用の水槽の中やブルースクリーンを持つ外部ステージで行われた、と話しています。
リアルな恐怖を与えてくれるサメもCG。ブレイク・ライヴリーは多くの撮影を、ピンク色のテープの×印を相手に演技したと語りました。
水槽の中の撮影現場に登場したサメの正体は、小型水中スクーターを持ち白いヒレを付けて泳ぎ回る男。あまりに激しい動きに方向感覚を失い、水槽に衝突することも度々あったとか。
その光景を見ると気の毒に思いつつ、自分も他のスタッフもどうしても笑いを禁じえなかった、とブレイク・ライヴリーは振り返っていました。
リアルな臨場感を追い求めた作品
(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
私もそうですが、映画を見た人はサメを含むあの映画の多くの部分がCGと聞いて驚くのではないでしょうか。特にサメ映画のB級~Z級作品の、開き直ったようなクオリティのサメCGをご存じの方であれば。
多くの場面をロケで撮影し、美しさと臨場感を出したとしか思えない『ロスト・バケーション』。しかし映画の大半は水槽やステージで撮影です。ここにジャウム・コレット=セラ監督の巧な工夫がありました。
「観客を欺くために、全てのシーンに本物のショットが1つはあった」と説明する監督。同時に「最初の10分でロケで撮影した実写を見せると、後はCGで描く映画にはしたくなかった」とも語っています。
全てのシーンに現実を忍ばせることで、映画全体にリアル感を最後まで与え続けたのです。誰もが本格派サメ映画と認める本作の、意外な撮影舞台裏でした。
ロケの実写と並べられることは、撮影後のポストプロダクション業務、VFX映像の追加や編集作業に大きなプレッシャーだったはず。それを越え本作の臨場感は完成しました。
本作は動物パニック映画ではなく、孤独とサバイバルの映画だ、と話す監督。『ロスト・バケーション』を様々なサメ映画よりも、『127時間』(2010)や『ゼロ・グラビティ』(2013)に近い性格の映画だ、と説明しています。
そんな孤独な主人公を支える存在が、目の前にあるビーチに逃れる事ができないブレイク・ライヴリー同様、翼を傷め自由に空を舞うことが出来ず岩に取り残されたカモメ。
同じ境遇のカモメが主人公にとって、いかなる存在か明白です。そして多くがCGで作られた映画の中で、このカモメは間違いなく本物。エンドロールに”カモメのサリー”と紹介されています。
このカモメも映画に”実物感”を与える役割を果たします。脚本ではカモメはもっと主人公が話しかける相手で、より重要な存在でありそのシーンも撮影されました。
しかし監督は、そのシーンの多くを削ります。彼女の心境をカモメに語る形で観客に説明するのは良くない、なにより主人公が動物と”会話”する、ディズニーの『白雪姫』(1937)のような映画にしたくない、との判断でした。
まとめ
(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
本格的サメ映画であると同時に、本格的サバイバル映画でもある『ロスト・バケーション』。主人公の心の動きはカモメに語る形ではなく、ブレイク・ライヴリーの熱演で表現されました。
なお、この映画の本国でのレイティングはPG12。サメの襲撃は迫力があり、犠牲者の酷い姿も登場しますが、残酷シーンの見せ方は配慮され、直接描写と別の形でサメの怖さは表現されました。
ある意味一番怖い、そして痛いシーンは傷付いた脚の治療。このシーンはCGではなく特殊メイクで描かれています。
迫力面でも本格派のこの映画。死亡フラグ立てまくったの主人公の生き残りへの挑戦と展開が都合良すぎる、との声もありますが、鑑賞した多くの方からは好意的評価を得ているようです。
ところで本作の名優”カモメのサリー”は、劇中で主人公に”スティーヴン・シーガル(seagull=カモメ)“と名付けられました。
もうお判りですね。これはアクション俳優”スティーヴン・セガール(Seagal)“の名をもじったものです。あのカモメ、”沈黙シリーズ”でお馴染みの最強オヤジの名を頂戴したのです。
この瞬間、あのカモメには生存フラグが立ちました。最強オヤジの名を持つカモメが、餌食になるはずがありません。
もし本作がB~Z級サメ映画なら、最強カモメがサメを倒す超絶展開があったかもしれません。その映画のタイトルは、多分『沈黙のバケーション』。
冗談を言ったつもりですが、B~Z級サメ映画ならそんな展開がありうるから油断できません。本当にサメ映画の世界は、実に奥が深くトンデモないです。