配達されたボックスから始まる警察連続殺人を描く『スパイラル:ソウ オールリセット』
『スパイラル:ソウ オールリセット』は、ハリウッドに刻印させたスリラー「ソウ」(2004)シリーズのスピンオフで、「ソウ」シリーズの9作目。警察に正体不明の小包が配達されて警察官をターゲットにした連続殺人が起る物語です。
「ソウ」シリーズの2~4本までを担当したダーレン・リン・バウズマンが手掛け、ホラー映画の天才監督ジェームズ・ワンが製作を担当。シリーズのキャラクターや設定に基づき、原作の世界観を共有していますが、以前とは違う新しいシリーズの始まりとなっています。
『リーサル・ウェポン4』(1998)で、一躍黒人俳優の中で人気スターになったクリス・ロックが、製作及び主演で出演し、サミュエル・L・ジャクソン、マックス・ミンゲラが共演しています。
『スパイラル:ソウ オールリセット』は、2021年9月10日(金)ロードショー。
※感想と評価の章は物語の確信に触れている箇所がございますので、未見の方はご注意ください。※
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CONTENTS
映画『スパイラル:ソウ オールリセット』の作品情報
(C)2020 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Spiral:From The Book of Saw
【監督】
ダーレン・リン・バウズマン
【キャスト】
クリス・ロック、サミュエル・L・ジャクソン、マックス・ミンゲラ、マリソル・ニコルズ、ダン・ペトロニエヴィチ、リチャード・ツェッピエリ、パトリック・マクマヌス、アリ・ジョンソン、ゾーイ・パーマー、ディラン・ロバーツ、K.C.コリンズ
【作品概要】
本作『スパイラル:ソウ オールリセット』はジェームズ・ワン監督の「ソウ」(2004)シリーズのスピンオフ。シリーズ9作目にあたります。
『リーサル・ウェポン4』(1998)で、一躍黒人俳優の中で人気スターになったクリス・ロックが、製作及び主演で出演し、サミュエル・L・ジャクソン、マックス・ミンゲラが共演。
緊張感溢れる展開を見せながら、「ソウ」シリーズに接したことのない観客も楽しめ、しかも「ソウ」ファンなら喜ばれるワナとオマージュまで盛り込まれています。
映画『スパイラル:ソウ オールリセット』のあらすじとネタバレ
(C)2020 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.
ある夜、独立記念日のパレードが行われました。人混みの中で警察署長のマーブが歩いていると、男性がぶつかって来ました。その後、その男性は別の女性のバッグを奪って逃げて行きました。
マーブがその男性を追い掛け、下水道の排水道に下りて行くと、そこには、背を向けたまま椅子に座っている男性がいました。
マーブの呼び掛けにも反応しないため確認したところ、人形でした。その瞬間、マーブは豚の仮面を被った何者かに後ろから攻撃されました。
気絶して意識を取り戻したマーブは、地下鉄のトンネルの中で、天井から舌を縛られたまま、梯子の上に載せられていました。
目の前のテープレコーダーから声が流れ、舌を切って生き残るか、次の電車が走って来て死ぬかの2つの選択肢を伝えられました。
すぐに電車の走行音が聞こえて来ます。マーブは、急いで舌を抜こうと引っ張りますが脱出することが出来ず、電車に轢かれて死んでしまいました。
その頃、あるホテルの中で、ジークと3人の仲間は、予め計画していた強盗を実行していました。
無事にお金を奪い取り、脱出するため車に乗り込んで出発しようとしたところ、警察官たちに包囲されました。その時に1人の警察官が、ジークに気がつきました。ジークは警察官であり、上司の許可を得ず、1人で潜入捜査をしていたのです。
翌日、副署長であるアンジーに怒鳴られたジーク。1匹狼のジークに新しいパートナーを組ませようと、アンジーは、理想主義者のウィリアムを指名します。
マーカス署長に憧れて刑事になったと話すウィリアム。マーカス署長とは、マーブ署長の前の署長であり、現在は引退しています。そして、ジークの父親です。
アンジーからの命令で新しい事件現場に向かったジークとウィリアムは、地下鉄のトンネルの中へと歩いて行きます。惨ましい死体と現場に衝撃を受けるジークとウィリアム。
そして、警察署に届いたジーク宛てのBOXの中には、USBが入っていました。USBを確認すると、録音メッセージと共にある壁の渦巻き標識の落書きが映っていました。
見覚えのある裁判所の壁であったので、そこに向かったジークたち。裁判所で見つけたBOXを確認すると、切り取られた舌と警察バッジが入っていました。
警察バッジを照合した結果、死体がマーブであることがわかり、警察署は大きな衝撃を受けます。マーブと個人的にも仲良くしていたジークは、それ以上に大きなショックを受けました。
マーブの後任を任命したアンジーに、自分が指揮官を執ることをお願いするジーク。
彼への信頼によってそのお願いを受け入れたアンジーは、ジークの指揮の下、警察官全員がこの事件を優先に捜査することを指示しますが、ジークと犬猿の仲であるフィッチは気に入らない様子です。
マーブの妻を訪ねたジークは、必ず殺人犯を逮捕すると約束します。そして、家に帰るジーク。すると、ドアが僅かに開いており、ジークが銃を構えると、そこにはマーカスがいました。
マーブの事件を聞いたマーカスは、ジークを心配していたのです。今夜夕食を一緒にする約束をして、去るマーカスを見送ったジーク。
そして、マーブの死について、調べていくジークは、この死がジグソウの手法と似ていることに気付きました。
その頃、マーカスは人目を気にしながら、ある建物の中へ入って行きました。
フィッチと彼のパートナーのクラウスの2人は、独立記念日のパレードが行われた場所へ向かい、防犯カメラを確認します。
そこに映っていたベニーという男性を知っているフィッチは、ジークに連絡しようとするクラウスに口止めし、詐欺師で麻薬中毒者のベニーの居場所を知るフィッチは、1人で会いに行きました。
ベニーの部屋まで入ったフィッチは、ベニーが寝ているはずの布団に豚の仮面があるのを発見しました。その瞬間に、背後から気絶させられたフィッチ。
意識を取り戻すと、水槽らしき中におり、感電死を避けるには指を切らなければ脱出できないというワナにはまっていました。結局、彼も脱出出来ずに死亡してしまいました。
マーカスと夕食をするために、彼の家まで来たジーク。しかし、マーカスはいませんでした。当時、マーカス署長に事件の連絡をすぐしなかったことで、怒鳴られた過去を思い出すジーク。
翌日、再び警察署に届いたBOXに不安が募るジークたち。前回同様に、USBが入っており、映像の中には、話す豚の人形と車のある場所が映っています。
急遽そこに向かったジークたちは、車の中から本物の豚の首が出て来たため驚きます。そして挟んであったBOXを見つけますが、今度は切断された指と警察バッジが入っていました。フィッチのものでした。
数年前、ジークは彼の支援要請電話を無視して仲間と談笑していたフィッチのせいで、殺害されそうになりました。ジークはその時怪我を負ったものの、命は助かりました。
マーカスは、そんな一件があったのに、多くの警察官がいる中でジークを見ても目を合わさないフィッチを怒鳴りました。このことを知る一部の警察官の間では、フィッチと関係のあるジークを疑い始めています。
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映画『スパイラル:ソウ オールリセット』の感想と評価
(C)2020 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.
警察署にUSBが入った謎のBOXが配送されると同時に、警官の連続殺人が始まり緊張感を募らせます。既存の「ソウ」シリーズでは見られない事件現場ごとに残される渦巻き標識、犠牲者が増える度に配達される謎のボックスは、新たな疑問と関心を抱かせます。
本作のストーリー焦点と注目すべきポイント
本作は、「ソウ」シリーズのワナ、渦巻き標識、操り人形の再登場、「Play me」を受け継いでいますが、新しい設計者、新しい主人公に対する紹介に重きを置いたものと言えます。
また、ジグソウのワナは犠牲者自ら生存を決められるようになっていますが、この映画での新しい設計者は、最終的に犠牲者が死に至るまでのワナを設計しました。
さらに、主人公が警察官連続殺人事件の中のワナではなく、事件を巡る巨大なワナを解いていくストーリーに焦点を合わせることで、映画が持つ断罪メッセージも強くなりました。
新しい設計者は、私的な復讐のために市民や法を捨てた不正警察官、そして同僚の不正に目を瞑った警察に対する断罪という自己合理化を掲げます。
そのためか、各人物の不正やワナの種類、彼らに対する死、そして全体的に、既存のシリーズで使われていた緑色のトーンではなく、青色のトーンを使って奇怪さや陰惨さより冷たさを与え、一見『セブン』(1995)を連想させます。
また、従来ではジグソウの被害者は、大抵何かの大罪を犯しており、その罪に対する贖罪で懲罰を受ける構造だったため、結局、被害者にただ同情するわけにはいかない結果を生みました。
しかし、本作のジークは、作中で何度も強調される唯一清廉で正義感のある人物です。ジークに感情移入が可能になるため、善良と言える人物が登場した点も注目すべきです。
しかも、彼は「ソウ」シリーズで殺人事件に巻き込まれた人物のうち、初めて死ななかった人物です。これで続編が出るなら、ジークはジグソウ模倣犯専門刑事で出る可能性もあるでしょう。
本作によって、「ソウ」シリーズの進むべき方向性ができました。必ず殺して死ぬ過程ではなく、初心に戻らなければならないということを提示し、ジグソウの模倣犯という新しい素材が登場して、多様なスピンオフが作られやすい物語が設けられたのです。
主演俳優陣の新しい一面
これまで無名俳優を中心に低予算で構成されていたのとは違って、本作の主人公には、演技派俳優クリス・ロックとサミュエル・L・ジャクソンが扮しています。
最もエッジの利いたユーモアで、人種問題もネタにすることが出来る、唯一無二の天才コメディ俳優クリス・ロックは、俳優のみならず、監督、脚本家でもあります。彼はジャンルを飛び越えて、あらゆる場で活躍しています。
そんなクリス・ロックですが、本作のようなホラー映画となると、演技が一変しました。
勤勉な刑事であり、警察官を目的とした連続殺人を追う主人公を見事に演じ、今までのイメージから脱却した新しい一面を見せてくれました。
一方、『パルプ・フィクション』(1994)など、クエンティン・タランティーノ監督作品の常連にして、アクション大作からアニメまで幅広く演じるサミュエル・L・ジャクソン。
多様なジャンルの映画を通じて愛を受けてきた彼の演技は、どれも極めて個性的なものばかりです。本作での彼の落ち着いたシリアスな演技、息子を想う父親としての姿としての行動は、大きな注目ポイントに値します。
このように、一味も二味も違う役柄を重ねてきた彼らが魅せる体当たり演技は、大きな期待感を募らせます。
敢えて殺す理由とその選択をする意図
「ソウ」シリーズでは、殺害する相手に生きたまま火をつけたり、血を全部流させたりする‟死の時間”を与えています。
殺害する相手が行った悪いことに比べて、短い死の時間では被害者の恨みを晴らす方法がないと考えたためだと理解し、そのように殺すことも出来ると、共感しました。
彼らには選択がなく、受け入れなければならなかったのです。ところが、この映画の残忍さは、一部の希望を残してくれるというところにあります。
彼らは僅かな希望のために、自分自身に極限の苦痛と恐怖を与えます。しかし、結局は死だけです。小さな希望に、何故そんなに命をかけられるのか理解出来ません。
どう考えても、それは生きる機会ではないからです。短い時間で、たとえ成功したとしても、その後の人生は絶対に死んだものに比べて良いとは言えないはずですが、彼らは選択の岐路に立って愚かだと言える選択をします。
そして、被害者たちが過ちを犯したために、死をもってそれを償わなければならないという理由と、彼らの死を利用して警察を浄化することを目的に行われる殺人。
しかし、正当なら前に出て堂々と行わなければならないのですが、犯人は自らの死を装ってことを起こします。結局正当な方法ではないということを、自分自身も知っているのです。
過去に自分の家族に起こった不幸を他人に返しており、被害者たちがした行動を踏襲している事実を意識していないのです。
まとめ
(C)2020 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.
「ゲームを始めよう」という音声と共に始まる生存に関わる残酷なワナについての説明、そして「生きるのか死ぬのか、君が選択しろ」の言葉。
世界を魅了した「ソウ」シリーズが、ジグソウを繋ぐ新たな設計者、新たな主人公と共に『スパイラル:ソウ オールリセット』という名で帰還しました。
本作は、バディを組んだ2人の刑事が事件を解決していく過程や殺人現場のハードコアなどから見られるように、ゲームが中心ではなく、スリルのあるストーリーを中心に描かれた作品です。
作品中で差別化を図る一方、従来のシリーズに比べて、さらに大きくなったスケールでB級シリーズ物かられっきとしたメジャー物に生まれ変わったのです。
ジグソウは死んだとされても、死ぬような人物ではありませんでした。
死んだ人がいないからと言って、彼の死後は、安心して目を瞑ることが出来ないようにさせて、最後までゲームに熱狂するようにしたのです。
「ソウ」シリーズは幕を閉じましたが、ジグソウは終わった訳ではないのです。