映画『ドクター・スリープ』は2019年11月29日(金)より公開。
ホラー映画の金字塔、あの『シャイニング』(1980)の世界が映像で再び蘇るとは誰が予想したでしょうか。
世界を戦慄させ、また狐につままれたようなようにさせた『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』がついに日本公開されました。
大人になったダニーを演じるのはユアン・マクレガー。かつてのトラウマや父の面影と戦うさまが、前作とは一味違った余韻を残します。
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映画『ドクター・スリープ』の作品情報
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved.
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Doctor Sleep
【監督】
マイク・フラナガン
【キャスト】
ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン、カール・ランブリー、ザーン・マクラーノン、エミリー・アリン・リンド、ブルース・グリーンウッド、ジョスリン・ドナヒュー、アレックス・エッソー、クリフ・カーティス
【作品概要】
監督、脚本は『オキュラス 怨霊鏡』(2013)や『ソムニア 悪夢の少年』(2016)、『シャイニング』『ドクター・スリープ』原作者のスティーヴン・キングの小説の映像化したNetflix映画『ジェラルドのゲーム』(2017)と、ホラー作品をこれまでも手がけてきたマイク・フラナガン。
主演の“ドクター”ダニーを演じるのは『ムーラン・ルージュ』(2001)でゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネート、ロマン・ポランスキー監督作品『ゴーストライター』(2010)でヨーロッパ映画賞男優賞を受賞したユアン・マクレガー。
超能力者たちを束ねる女性ローズ役にはテレビドラマ『The White Queen』(2013)のエリザベス・ウッドヴィル役で知られ、また2015年より「ミッション・イン・ポッシブル」シリーズにイルサ役で参加、『グレイテスト・ショーマン』(2017)にも出演しているレベッカ・ファーガソン。
他には『MEG ザ・モンスター』(2018)のクリフ・カーティス、『ルーム』(2015)で放送映画批評家協会賞の若手俳優賞を受賞、『ワンダー 君は太陽』(2017)にも出演した注目のこ役ジェイコブ・トレンブレイも出演しています。
原作の小説『ドクター・スリープ』は2013年に出版され、同年の年ブラム・ストーカー賞小説部門を受賞しました。
映画『ドクター・スリープ』のあらすじとネタバレ
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved.
1980年。少年ダニー(ダン)・トランスは、“展望ホテル”で気が狂った父親に殺されかけた経験からトラウマを抱えていました。
現在彼はフロリダで母親のウェンディと暮らしていますが、ルーム237に住み着いていた体の腐った老婆の幽霊の出現に苦しめられています。
ある時、ダンのもとに展望ホテルで働いていた、自分と同じ“シャイン”を持つ黒人男性ディック・ハロランの霊が訪れました。
怯えて過ごしているダンにハロランはある箱を渡し、再び幽霊が現れたらその箱を脳に浮かべるように伝えます。
一方で、“シャイン”を持つ女性ローズ・ザ・ハットが率いる半不老不死の集団は、特別な子ども達の生気を吸って生きながらえるため、あちこちで誘拐を働いていました。
それから40年後の2011年。ダンはトラウマを克服できないまま大人になり、父親と同じアルコール中毒に苦しみながら酒をあおり、女性とゆきずりの関係を持つという自堕落な生活を送っていました。
金も尽き、自分自身から逃げたいと願ってダンはニューハンプトン州の小さな町に移り住み、ビリーという男性と広場で知り合います。
親切なビリーはダンに住む場所も職も紹介してくれ、アルコール中毒の集団セラピーにも連れて行ってくれました。
ダンはセラピーで出会った医師にホスピスでの仕事も紹介されます。
死に直面する人々が住まうホスピス。ダンは“シャイン”で亡くなる直前の彼らの心を癒し“ドクター・スリープ”とも呼ばれるようになりました。
そんなある日、ダンの部屋の壁に子どもらしい筆跡で「こんにちは」の文字が。ダンは不思議に思いながらも「やあ」と返してやります。
文字の送り主はアブラという名の“シャイン”を持つ少女なのですが、彼はまだ知るよしもありません。
その頃ローズの集団は新たな仲間を求めていました。彼らが見つけたのはアンディという15歳の女性。
彼女はネットで出会った男性たちを能力で眠らせて金を奪っていました。ローズたちはアンディを誘拐し、永遠の若さを手に入れることを約束して仲間に引き入れます。
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映画『ドクター・スリープ』の感想と評価
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スティーヴン・キングを激怒させた『シャイニング』
前作である映画『シャイニング』は難解な映画と言われ、今でも世界中のファンが映画の謎について議論しており『ルーム237』(2014)という『シャイニング』の解釈と意味を愛好家たちが語り合う様子を映したドキュメンタリーまで存在します。
ホラー映画の金字塔というべき『シャイニング』ですがスタンリー・キューブリックは原作から大幅に変更しており、スティーヴン・キングは映画の出来に怒り心頭だったと言います。
原作では邪悪な意志をもつホテル自体が父親ジャックを狂気に引き入れたと描かれているのに対して、映画では明示されていません。
また原作では妻ウェンディもダニーも父が発狂したのはホテルのせいだと理解していますが、映画ではジャックの発狂は仕事のプレッシャーとも受け取ることができ、家族も理由を知っているかどうかは不明瞭です。
曖昧さは謎を呼び、映画『シャイニング』は原作のように邪悪な意志を持つホテルに捕らわれた家族の話か、それとも作家である男が妻も子も捨てて創作という狂気の世界に足を踏み入れていく話か、様々な解釈を可能にしています。
そして決定的に原作と異なるのは、父親ジャックのアルコール依存症の描写が薄い点です。
原作版のジャックは善良で小市民的な人物であるとされ、アルコール依存症の自分に罪悪感を抱いています。
映画版では早い段階で家族と亀裂が生じ、アルコールに関する描写はあるものの依存症であるとは描かれていません。
そして原作版ではジャックは彼の善良な意志がホテルに打ち勝ち、ウェンディとダニーを逃がそうとする描写もあり、「本当は愛してるんだ」とダニーに告げもします。
その描写は映画ではバッサリカットされていて、それがキングを憤慨させた大きな要素といえるでしょう。
なぜならスティーヴン・キング自身がアルコール依存症に当時苦しんでおり、また彼が2歳の時父親が家を出て行き、『シャイニング』のダニーのように父親の愛情なしに育てられた人物なのです。
現実では起こらなかった“父と息子の和解”をホラー小説に昇華させ自己救済の一部としたキングですがキューブリックは完全に無視。それがキングの逆鱗に触れてしまいました。
そして、『シャイニング』から40年、出来上がった続編が本作『ドクター・スリープ』です。
トラウマの克服
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スティーヴン・キングの物語では“トラウマの克服”が大きなテーマのひとつです。
「IT」の続編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』では、キャラクターたちが子どもの頃遭遇したペニーワイズのトラウマを克服しようと奮闘するさまが、『ペット・セメタリー』では子どもを亡くした悲しみ、トラウマを両親がどんな手を使ってでも癒そう、解決しようとして呪われた手段を使ってしまうさまが描かれています。
『ドクター・スリープ』ではダニーが発狂した父親に殺されそうになったこと、館で見たおぞましいもののトラウマ、成長して父親と同じようにアルコール依存症になってしまったことに苦しんでいる様子が強調されます。
しかし作中でダニーは父のことを思い、彼もまたアルコール依存に苦しんでいたことを告白することができます。
そして自分と同じ力を持つ少女を助けるために動き、最後は発狂した父親と同じ行動をホテルによって取らされるも、善良な意志とアブラの助けにより、最悪の事態を引き起こさずにすみます。
それによってダニーはトラウマを浄化することができたのです。
映画『シャイニング』の世界を期待して鑑賞すると、全く印象が異なることに驚きます。
説明的なセリフやカルト集団のような“シャイン”を持つ者たち、マーベル作品のような要素など謎めいてただただ不穏なキューブリック作品とは離れたサイキック・アクション映画のような仕上がり、またところどころ登場する“ジャック・ニコルソンのそっくりさん”がチープな滑稽さを加えてしまっているのは否めません。
それでも“トラウマの克服、依存症の克服”というキングが描きたかったテーマを強く登場させた本作は静かに感動を呼びます。
まとめ
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved.
その想像力で自分の過去やトラウマを浄化させ、身を削ってホラー小説を書き続けているスティーヴン・キング。
キング作品が愛される理由は、自分ももしかしたらその状況に陥るかもしれないと感じさせる、普通の人々が直面する恐怖やトラウマを詳細に描いているからです。
彼の背景にある依存症や父親との別離、その苦しみと悲しみを主人公が乗り越えていくさまを受け取ることができ、またヒーローもののエンターテイメントとしても楽しめる物語となっているのが『ドクター・スリープ』。
忌まわしいホテルに再び戻ったすえの格闘は、ぜひ映画館でご覧下さい。