“フォード社”のダゲナム工場で働く女性たちのストライキが奇跡を起こした実話!
今回ご紹介する映画『ファクトリー・ウーマン』は、1968年のイギリス河畔にある米国車“フォード”のダゲナム工場を舞台に、男女同一賃金制を訴えた女性工員たちの実話を映画化した作品です。
監督はイギリスの地方で暮らす平凡な女性たちが、一生に一度は輝きたいと奮起した物語『カレンダー・ガールズ』(2003)を手掛けたナイジェル・コール監督が務めます。
ロンドン東部の町ダゲナムは自動車産業の中心地。アメリカの自動車会社フォードの工場もダゲナムにあります。ここから1日3000台を生産していました。
それを支えたのが5万5000人の男性工員と187人の女性工員です。ところが支給される賃金には男女に格差がありました。
ミシン工として確かな技術を持つ女性工員は、その差別に不満が増幅し労働組合に改善を訴えますが……。
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CONTENTS
映画『ファクトリー・ウーマン』の作品情報
(C) 2010 Dagenham Girls Limited, The British Broadcasting Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.
【公開】
2010年(イギリス映画)
【原題】
Made in Dagenham
【監督】
ナイジェル・コール
【脚本】
ジョン・デ・ボーマン
【キャスト】
サリー・ホーキンス、ボブ・ホスキンス、ミランダ・リチャードソン、ジェラルディン・ジェームズ、ロザムンドパイク、アンドレア・ライズボロー、ジェイミー・ウィンストン、ダニエル・メイズ、リチャード・シフ
【作品概要】
本作の主演は『ハッピー・ゴー・ラッキー』(2008)でベルリン国際映画祭の銀熊賞、『ブルージャスミン』(2013)でアカデミー助演女優賞に初ノミネート、『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』(2018)、「パディントン」シリーズに出演したサリー・ホーキンスが務めました。
女性工員の善きアドバイザーのアルバート役には、『モナリザ』(1987)でゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞、カンヌ国際映画祭コンペティション部門男優賞を受賞したボブ・ホキンス。
バーバラ・キャッスル雇用生産大臣役には『オペラ座の怪人』(2005)、『チャーチル ノルマンディーの決断』(2018)、「ハリーポッター」シリーズなどに出演したミランダ・リチャードソン。
映画『ファクトリー・ウーマン』のあらすじとネタバレ
(C) 2010 Dagenham Girls Limited, The British Broadcasting Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.
1968年5月28日リバー工場の縫製部では、女性のミシン工たちがシート用の皮部品などを縫製しています。
同じ工場で働く夫と2人の子供と暮らすリタ、おしゃれ好きで美人のブレンダ、モデルを夢見るサンドラ、PTSDの夫を持ち縫製部の班長をしているコニーなどが工場に通ってきます。
女性工員たちは自分達の技能力に誇りを持っていますが、会社からの報酬はそれに見合っておらず、その不満は爆発寸前でした。
彼女たちは会社が格付けする“非熟練労働者”に納得がいきません。なぜそう分類されているのか、工場の上層部に質問を投げかけ回答を待ちましたが、期日が過ぎても何も答えはありませんでした。
労働組合のアルバートは回答がない場合の手段をどうするのか、採決するよう彼女たちに問いかけます。
アルバートがリタに採決を委ねると、彼女は作業台の上に乗り“実力行使”の時が来たと切り出し、予告通り時間外労働を拒否し、全日ストを決行することを全快一致で採決します。
女性工員たちは仕事を終えると、残業を拒否して退社していきます。リタは夕食時に息子の様子がおかしいことに気がつきます。利き手を見ると鞭で叩かれた痕がありました。
リタは担任に抗議しに行きますが、“団地育ちの子供は規律を守らない”それは、両親に学歴がないせいだと言いのけます。
侮辱的なことを言われたリタは言い返すこともできず、教室を去ります。その途中で廊下で女性とぶつかり優しく声をかけられますが、悔しさから「うるさい」と口走ってしまいます。
翌日、アルバートがコニーのところに来て、イギリス本社から呼び出されたことを伝え、本社はミシン工のストに警戒しているといいます。
本社からは工場長のホプキンスなど3名、縫製部からは労働組合のモンティーとアルバートとコニーが代表ですが、人数で上回るためリタに白羽の矢が立ちます。
モンティは本社へ出向く前に経費で豪華なランチをご馳走してくれます。そして、コニーとリタの2人に交渉は男に任せるよう言い、本社へと向かいました。
本社の言い分は「職能に関する分類には合意している」ということです。アルバートは“非熟練”の扱いに納得ができないと詰め寄ります。
しかし、本社側は要求は受理するが、議題に上げるには順序があると突っぱねます。
そこでモンティーは2週間後に再交渉の場を設け、女性工員の要求を認めるよう促します。そうすることで“ストの回避”はしたと報告できるからです。
また、女性工員たちにも2週間後に“最優先事項”になったと伝えれば、彼女たちの言い分が無視されていないとわかれば十分だろうと言います。
その言葉を聞いたリタは思わず「バカみたい」と本音を漏らします。彼女はシートに使われている皮の部品を広げながら、本社の人間に組み立ててみるよう言います。
そして、見本もなく長年の感覚と手先だけで縫う、難しい技術を使っているのに、それでも“非熟練”だというつもりなのかと訴えます。
更に「準熟練労働」に昇格し賃金を上げてほしいと交渉します。順序を守れというが何年も待ち続けている、そのせいで「女はストをしない」とでも思っているのだろうと言い放ちました。
リタは放っておけば忘れると思ったら大間違い、残業は拒否し直ちにストも決行すると言って席を立ちました。
モンティーは顔に泥を塗られたと怒りますが、3人は工場に戻りリタの口から「スト決行よ」と宣言されます。
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映画『ファクトリー・ウーマン』の感想と評価
(C) 2010 Dagenham Girls Limited, The British Broadcasting Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.
長期的な「英国病」の影
イギリスは1960年代以降、社会保障制度の充実化や基幹産業の国有化などを政策に掲げており、所得税などの引き上げなどにより労働意欲が低下していました。
1964年に労働党が発足し、代表的な政策の一つとして、1967年の労働党政権にてウィルソン内閣は鉄鋼や運輸などの産業を国有化し、1975年には自動車産業を国有化していました。
まさに本作は女性労働者による、男女の賃金同一を求めたストライキが発端で、国の政策として動き始めた時期の実話が基となりました。
1970年5月に「同一賃金法」は成立し、世界各国の先進国でも同種の法律が生まれました。
第二次世界大戦後のイギリスは「ゆりかごから墓場まで」のキャッチフレーズで社会保障制度を充実させ、1960年代から1970年代にかけては「英国病」と呼ばれるほどに経済がひっ迫し、1978年〜1979年におきたオイルショックによって、各産業で労働者たちによるストライキが頻発していました。
1984年〜1985年の炭鉱ストライキの町を舞台にした映画『リトル・ダンサー』もあります。イギリスには労使関係、賃金の格差など問題山積みな時代が長く続いていました。
歴史にすり込まれた「偏見」
映画『リトル・ダンサー』ではトランスジェンダーにも触れていて、映画『ファクトリー・ウーマン』では性的差別を扱いました。
イギリスでは国王が女性の時代もあり、首相が女性の時期もあったので、女性の地位は他国に比べ進んでいると思われましたが、実際はそうでもなかったのです。
例えば女性を敬うというイメージの「レディー・ファースト」の起源は、女性が男性のために先々の準備をしたり、余計なことを話す前に退席することなどを指しています。
また女性を引き立てるように前面に出すのは、奇襲から身を守るための盾にするためだと知り、ゾッとしました。
男性の女性に対する「あしらい方」は、学歴があろうとなかろうと卑下しており、こうした差別は賃金格差にも表れていました。
映画『ファクトリー・ウーマン』は古典的な女性の生き方を全面否定しているのではなく、男性と変わらぬ技術や技能または、それ以上の能力を認めてもらう権利を主張した物語です。
この主張はこれまで女性に特化した分野で、男性が活躍する権利をつかむ時代へと繋がっていきます。
要は「持ちつ持たれつ」が良好である関係性が大切になります。互いを思いやり、認め合える社会が労働意欲や生産性を高めるのではないでしょうか?
まとめ
(C) 2010 Dagenham Girls Limited, The British Broadcasting Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.
映画『ファクトリー・ウーマン』は、1968年にフォード社ダゲハム工場の縫製部門で、実際におきたストライキを題材に、架空の登場人物を設定したヒューマンコメディでした。
1960年代のファッションやヘアメイクそして、流行していた音楽が小気味好くちりばめられた映画です。
女性達の共闘は健気で涙ぐましいものでした。家庭崩壊や友情の亀裂などさまざまな局面を乗り越えたとき、そこにはより深い絆と未来への希望が芽生えていました。
「闘わなければならない時には闘う」という精神は時代とともに変化しますが、人生ではそういう場面に直面します。その時には勇気をもって立ち上がれる自分でありたい。そう思わせてくれた作品でした。