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Entry 2019/11/20
Update

映画『ペインアンドグローリー』あらすじネタバレと感想。名俳優バンデラスの演技力が8回目のペドロアルモドバル作品でも異彩を放つ

  • Writer :
  • 奈香じゅん

名俳優アントニオ・バンデラスは、映画『ペイン・アンド・グローリー(原題:Dolor y gloria)』で、カンヌ国際映画祭「男優賞」受賞!

映画『ペイン・アンド・グローリー』は、『オール・アバウト・マイ・マザー』(2000)や『ボルベール(帰郷)』(2007) のペドロ・アルモドバルが監督・脚本を務めた映画です。

主演は、スペインの名匠と8回目のタッグを組むアントニオ・バンデラス。

人生に疲労した主人公・サルバドールが回想した記憶の中で再会した人々から導きを得る旅路を描いています。

芸術的でモダン、そして現実的ながらノスタルジー漂う美しい作品。

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映画『ペイン・アンド・グローリー』の作品情報

【公開】
2019年 (スペイン映画)

【原題】
Dolor y gloria

【監督】
ペドロ・アルモドバル

【キャスト】
アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、アシエル・エチェアンディア、レオナルド・スパラグリア、ノラ・ナバス、フリエタ・セラーノ

【作品概要】
本作の主人公サルバドール・マヨは、ペドロ・アルモドバルの自伝映画と評されますが、実際はアントニオ・バンデラスとアルモドバルを拡大し併せたキャラクターだと2人は個別に説明。

多くのハリウッド映画に出演を果たしたバンデラスは『私が、生きる肌』(2012)に出演時、アメリカ人監督から学んだ多くのテクニックが役に立たないとアルモドバルに言われ、同作で新境地を開いたことが本作の役作りへ繋がっているとコメント。
バンデラスは、この作品でカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞。

映画『ペイン・アンド・グローリー』のあらすじ

マドリードに住む映画監督のサルバドール・マヨは、30年前に自分が監督した作品が復刻して再上映されることを知ります。

プレゼンターを依頼されたサルバドールは、主演したアルベルトと一緒に行おうと考えます。

友人からアルベルトの住所を聞いたサルバドールは、連絡せずに訪問。当時撮影中にもめた為2人は疎遠になっていました。

アルベルトは突然の再会に眉をひそめながらもサルバドールを招き入れ、お茶を振舞います。

頭痛に悩まされていたサルバドールは、ヘロインを吸うアルベルトを見て興味を持ち試してみることに。

咳き込んだ後ハイになったサルバドールは、幼い頃の思い出に浸ります。

穴の開いた靴下を縫う若く美しい母・ジャチンタ。貧しい生活を抜け出す為、バレンシアの小さな町へ家族は引っ越します。

夫が見つけた洞窟の様な住居に絶句するジャチンタですが、サルバドールは大喜び。台所部分の天井は大きく穴が開いており、青空がのぞき太陽光が注いでいます。

我に戻ったサルバドールは帰宅しますが、夜になってアルベルトが訪ねてきます。

再びヘロインを吸ったサルバドールがボーっとしている間、アルベルトはサルバドールのパソコンに保存されていた「アディクション (中毒)」と題されたワードの文書を読みます。

目覚めたサルバドールに、アルベルトは、久し振りに「アディクション」を題材に演じて見たいと言います。

戯曲ではないと断るサルバドールですが、アルベルトは自分流に解釈して台本に出来ると意欲的。

自分の個人的な思いを整理し踏ん切りをつけようと書き留めた内容だった為、サルバドールは、考えておくとその場をやり過ごします。

映画の上映日を迎えますが、ヘロインを吸うサルバドールとアルベルトはプレゼンテーションをすっぽかしてしまいます。

仕方なくサルバドールに電話した主催者は、スピーカーにして観客との質疑応答を敢行。

サルバドールが主演を務めたアルベルトに対する不満を口にした為、2人は口論に発展。

様々な体調不良を抱えるサルバドールでしたが、頻繁に喉をつっかえ咳き込むことから錠剤を潰して水に混ぜて服用。

そのことをメイドから聞いたアシスタントのメルセデスは、サルバドールの食事をピューレ状にするよう頼みます。

サルバドールは街中でヘロインを買い、再び過去の記憶へ。外の階段で読書をしていた少年時代、レンガ職人のエドゥアルドと出会います。

非識字者だったエドゥアルドは、読書するサルバドールに教えて欲しいと依頼。ジャチンタは、その代わりに、家の中の補修をして欲しいと交換条件を提示。

アルファペットから覚え始めたエドゥアルドに、サルバドールは発音と書き方を教えます。

ある日、経済的に余裕が無いものの教育を重んじるジャチンタは、息子に教会の寄宿学校で勉強させることにします。しかし、牧師にさせられると誤解したサルバドールは母親に反発したのでした。

「アディクション」に加筆したサルバドールはアルベルトを訪問。サルバドールを追い返そうとするアルベルトですが、「アディクション」を舞台の演目にしても良いと聞き、態度を変えます。

サルバドールは、個人的な内容なので自分が書いたと誰にも知られたくない為、製作には関わらない意向を示します。アルベルトは、自分がクレジットを得られると喜んで了承。

とは言うものの、サルバドールは椅子だけのシンプルな演出にするようアドバイス。更に、すぐ涙を見せる役者の文句を言い、感情を抑制する演技を指導。

アルベルトはくつろいでくれとヘロインをサルバドールに渡し、早速「アディクション」に目を通し始めます。

舞台当日。アルベルトは小劇場で独り芝居。ストーリーは、マルセロという青年とのラブストーリー。

麻薬中毒だったマルセロを連れて南米に旅に出るという主人公の切ない恋愛を物語るアルベルトを、客席で1人の中年男性が目に涙をためて見つめています。

「自分の愛でマルセロを立ち直らせると信じていた。強い愛は山をも動かすけれど、愛する人を救うことはできない」

観客は、そう締めくくったアルベルトを拍手。客席に居た男性・フェデリコは控室を訪れ、物語のマルセロは自分だと名乗ります。

以下、『ペイン・アンド・グローリー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ペイン・アンド・グローリー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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サルバドールはフェデリコから連絡を受けます。相続の手続きでマドリードへ来たフェデリコが翌日街を出ると聞き、サルバドールは自宅へ招待します。

シャワーを浴びるので20分時間が欲しいと言ったサルバドールは、ヘロインを吸おうとしますが思い留まります。

サルバドールは、中年になった5才年下のフェデリコを見て嬉しそうに抱きしめます。

得たお金を絵画購入に費やしたサルバドールの部屋を見たフェデリコは、美術館みたいだと感服。

ブエノスアイレスに住むフェデリコは、サルバドールと別れて以来男性とは付きあわずマドリードには1度も戻っていませんでした。

結婚後レストラン経営を始めたフェデリコは、サルバドールが監督した映画は全て観たと話します。

是非ブエノスアイレスを訪れ自分の家族に会って欲しいと満面の笑顔を向けるフェデリコ。

夜を一緒に過ごそうと言うフェデリコの誘いをサルバドールは断り、2人はキスをして別れます。

棚の奥に隠しておいたヘロインをトイレに流したサルバドールは、処方箋を粉にしながらメルセデスに電話。

直ぐに医者の診察を受けたいので手配して欲しいと頼みます。

メルセデスを伴い病院を訪れたサルバドールは、背中の痛みに耐えられなかったがうつ状態で診察を受けるのが億劫だったと話します。

その間、どのように痛みをコントロールしていたのか訊かれたサルバドールは、ヘロインを使っていたが止めようと決めたので受診したと返答。

サルバドールは、喘息、不安、睡眠障害等他の薬も引き続き服用しており、特に背中の痛みと頭痛に悩まされていると伝えます。

仕事をして気分を変えることも助けになると助言する医師に対し、サルバドールは、映画製作をする体力に自信が無く、4年前の母親の他界とその2年後に受けた背中の手術から回復していないと説明。

薬を変更すると告げた医師は、ヘロインの誘惑に負けないよう忠告。メルセデスは、水を飲んでも喉を詰まらせて酷く咳き込むことを医師に話します。

内視鏡検査でしこりが見つかり、サルバドールが精密検査を受けることになっていると補足。医師は結果を知らせるように言います。

サルバドールの身の回りの世話をする為、メルセデスは泊まり込むことに。サルバドールは、母親が使っていた部屋を提供。最近幼い頃のことをよく思い出し、母親のことを考えるとメルセデスに話します。

サルバドールは、死ぬ時は自分のベッドが良いと母親が言い残したことやバレンシアの小さな村で過ごした時間を懐かしんでいたことを思い出します。

そして、散歩へ行こうと母親を外へ連れ出そうとしたある日、「お前は良い息子じゃなかった」と言われた辛い記憶が蘇ります。

ジャチンタは、貧しかった為寄宿学校で教育を受けさせたことをサルバドールが恨みに思い、夫の死後自分との同居を断ったと思い込んでいました。

しかし、映画製作で忙しかったサルバドールは、マドリードの家で母親が孤独だろうと心配したのです。

「望みに叶うような息子で無くて申し訳ない」サルバドールはジャチンタに謝りました。

その夜、ジャチンタは、最後の願いとしてもう一度だけバレンシアの村へ連れて行って欲しいと頼みます。

サルバドールは、2人だけで村を訪ね、最後まで面倒を見ると母親に固く約束。

結局、翌日ジャチンタを病院に入院させなければならず、ICUで1人母親は死んだと目を伏せるサルバドールを、メルセデスは、全力を尽くした筈だと慰めます。

サルバドールの精密検査に付き添ったメルセデスは、画廊から送られた案内状を渡します。

印刷された絵を見たサルバドールは驚きます。それは、かつてエドゥアルドが自分をモデルに描いた水彩画。

検査を受けるサルバドールの脳裏に、その日の記憶が戻ります。母親の外出中、台所の壁にタイルを貼っていたエドゥアルドは、注ぎ込む太陽の日の下で読書するサルバドールを見ながら絵を描き始めます。

椅子に座っていたサルバドールは熱中症を起こして気分が悪くなり、ベッドに横に成ります。

壁の補修で汚れた為、エドゥアルドは水で体を流します。タオルを貸して欲しいと頼まれたサルバドールは、エドゥアルドの裸体を見て倒れ込んだのでした。

検査の結果、腫瘍ではないと分かるものの軟骨部分の骨化が進行し気道閉塞を防ぐ為手術が必要だと聞かされます。リスクは無いと分かり一先ず安堵。

病院の帰り、サルバドールは画廊を訪ねます。オーナーは、バルセロナで買い求めた無名の画家の絵で、裏に記載があったと説明。

絵を購入したサルバドールが裏を見ると、そこにはメッセージが書かれてありました。

「親愛なるサルバドール。こうして手紙を書けるのは君のお蔭だ。何かを書く度に字を教えてもらったバレンシアを思い出し、特に君が懐かしい。エドゥアルドより」

目からこぼれる涙を拭うサルバドール。

「最初の願い」と題した脚本を書き始めたサルバドールに、メルセデスは、グーグルでエドゥアルドを探し出せると言います。

サルバドールは、50年前の話であり、物語としては良いかもしれないと言い、重要なのは絵が受取人に届いたことだと返します。

少年・サルバドールは、狭い部屋の窓から見える夜空の花火を楽しみながらジャチンタと会話。

側にはマイクを持つ音声スタッフ。サルバドールが袖で音声をチェックしながら撮影を見つめます。

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映画『ペイン・アンド・グローリー』の感想と評価

本作は、幾つも病気を抱え人生のスランプに陥った男性が自分の過去の記憶を辿り再生するまでを描いています

監督・脚本のペドロ・アルモドバルが実生活で使用している家具、絵画、そして服をサルバドールに着用させ私生活を投影している一方、過去の恋人との再会やヘロイン等、アルモドバルが経験していないことも盛り込んで脚色

映画『ペイン・アンド・グローリー』は、普遍的なテーマをアルモドバルが自分の経験になぞらえて解釈

働き者で褐色に日焼けした美しい母親と幼少期を過ごした小さな村、大人になって経験する心を焦がす切ない恋愛、そして同居した母親への後悔です。

年を重ね過去の辛い経験1つ1つに思いを馳せた時、全てが光り輝くインスピレーションとなって故障し始めた体を奮い立たせる様子を、アルモドバルは繊細に表現。

晴れた空から注ぐ木漏れ日に体が温かくなる様な余韻を残す構成であり、主人公サルバドールに扮したアントニオ・バンデラスの演技が本当に素晴らしい

情熱的、セクシー、そしてカリスマ性を持つキャラクターを多く演じてきたバンデラスですが、これまで見たことの無い一面を披露しています。

特に昔の恋人・フェデリコとの再会シーンでは、サルバドールの心を駆け巡っているであろうたくさんの感情を抑制して表現。

そして、フェデリコを見送る時のバンデラスの瞳がとても優しく、悲しみと愛情の混じる思いが手に取るように伝わり心を打たれる場面です。

アルモドバルとは8度目の映画制作となる今回、「ヘロインで頻繁にハイになり背中の痛みを常に感じているサルバドールだが、そうとは見せずに表現」という難しい注文があったとバンデラスは明かします。

また、過去に大金を積まれて監督業を依頼されても、『天使にラブ・ソングを…』(1993) や『ブロークバック・マウンテン』(2006) など、自分の信条に反する作品は受けなかったアルモドバルに敬意を持っているとインタビューで話します。

故郷・ラ・マンチャの影響だと評する赤、緑、黄色等、原色を見事に使いこなすアルモドバルの芸術センスは健在で、物語を1本の映画のように締めくくるエンディングも見所

まとめ

愛する母親が他界して4年。大きな手術も受け、老いを感じる映画監督のサルバドールは、人生のスランプに陥っています。

30年前に撮った映画が再上映されることになり主演俳優と再会。頭痛緩和になると聞いて麻薬を試してみたサルバドールの脳裏に、幼少時代の思い出が鮮明に蘇ります。

長いキャリアを持つアントニオ・バンデラスの名演が光る『ペイン・アンド・グローリー』は、過去の悲哀と和解することで人生に大輪を咲かせると解したペドロ・アルモドバルの快作

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