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映画『僕のいない学校』あらすじと感想レビュー。日原進太郎監督が社会の理想と現実の狭間で苦しむ人に贈る渾身の一作

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

2018年の「第31回東京国際映画祭の日本映画」でスプラッシュ部門選出作品、映画『僕のいない学校』


©2018 TIFF

映画学科の職員だった監督と、当時在学中だった学生たちにより製作された本作は「学校とは教育かビジネスか」がテーマです。

ですが、主人公の田原が抱える葛藤や苦しみは、教育に携わっていない、一般の社会人でも共感する部分があり、現代社会の問題点と感じました。

残念ながら、現段階での劇場公開は決まっていませんが、この作品が多くの人に届く事を願いながら、今回は日原進太郎監督の『僕のいない学校』を紹介させていただきます。

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映画『僕のいない学校』の作品情報


(C)MONKEY ACROBAT STUDIO

【製作】
2018年 (日本映画)

【監督・脚本】
日原進太郎

【共同脚本】
鋤﨑智哉

【キャスト】
嶺豪一、矢柴俊博、吉川諒、鎌滝勇樹、松本雄士朗、岩谷健司、黒田大輔

【作品概要】
映画学科の教員だった日原進太郎監督が、少子化社会を背景に、ビジネス重視になっている専門学校の教育問題に挑む。

嶺豪一が主役の田原を好演、在学中の生徒たちが自らを演じ、教育現場の「リアルな今」を描く。

映画『僕のいない学校』あらすじ


(C)MONKEY ACROBAT STUDIO
専門学校「東京アートスクール」の、映画学科の教員として勤める田原は、利益や効率よりも学生が思い通りの創作活動を行える環境を目指していました。

上司で学生を数字としか見ていない、結果重視の木藤とは意見が合わず、田原は複雑な気持ちを抱えながらも、木藤に従うしかありません。

また、学生達も田原を慕っており、田原は学生達の期待に応えようとしています。

ある時、田原は映画学科の学科長に就任、自身の理想通りの環境を目指しますが、木藤も人事異動で学部長に就任し、実質的に学校を牛耳る立場となっていました。

映画学科を存続させる為には、生徒を入学させ、数字で分かる結果を出さなければなりません。

田原は木藤から、生徒のその後は考えず、少しでも興味を持った者は勧誘するようにプレッシャーをかけられます。

自身の理想と、結果が求められる現実の間で苦しむ田原。

優先させるのは生徒か?学科存続の為のビジネスか?

苦悩する田原に、さらなる事件が発生します…。

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映画『僕のいない学校』感想と評価


(C)MONKEY ACROBAT STUDIO

学校の在り方を世に問う

映画『僕のいない学校』は、映画学科の教員だった日原進太郎監督と、当時在学中だった学生たちが、出演とスタッフを担当し製作された「学校とは教育かビジネスか」をテーマにした作品です。

かなり切り込んだ内容と言えますね。

本作で共同脚本と助監督を務めた、鋤﨑智哉さんも、映画学科の教員でしたが『僕のいない学校』撮影前に退職し、本作の撮影を「最後の授業」と位置づけて取り組みました。

日原監督は「映画というものは、時にリスクを冒して製作しなければならない」と語っており、本作を製作した事で、自身にトラブルが起きる可能性がある事を承知で製作しました。

また、日原監督は「映画には、世の中や社会を変える力があると僕は信じています」とも語っており、本作は映画に強い情熱を持っている製作陣による、映画の力を信じた、渾身の1作となっています。

主人公の葛藤は社会人であれば誰もが共感

本作の主人公である田原は、心から映画を愛しており、映画学科の生徒達に、同じ映画の道に携わる同志として接しています。

その為、生徒の申告漏れがあっても、撮影スケジュールが円滑に進む事を優先させ大目に見ますが、逆に不真面目な生徒には真っ向からぶつかります。

田原は生徒が映画の仕事に就く為、忙しい業務の合間に履歴書の添削も行います。

一方、田原の上司である木藤は、成果主義で常に数字のみを気にしています。

木藤にとって、生徒は数字でしかなく、生徒の映画に対する情熱や、その後の人生など興味がなく、とにかく数字上の結果にのみこだわる男です。

「生徒にとって、映画製作がしやすい環境を提供したい」という田原の想いが、木藤に届く訳もなく「お前の考えなんてどうでもいいんだよ」と一蹴されます。

さらに、木藤が昇進して学部長となり、映画学科の学科長となった田原は、映画学科存続の為に、数字で分かる結果を求められるようになります。

本作は、ビジネス重視になった専門学校の問題点を描いた作品ですが、自身の「理想」と結果が重視される「現実」の間で苦しむ田原の姿には、組織の中で生きる社会人として共感できる部分があります。

数字による評価に縛られすぎて、息苦しくなった日本社会が抱える問題を、鋭い視点で描いた作品と言えます。

田原は生徒から信頼され、頼りにされる兄貴分のような存在で、田原が学科長になった後は、田原の映画への熱意が反映されたかのように、生徒の質が上がります。

ですが、木藤が求めるのは、生徒の質ではなく数字。

木藤は田原に「お前は、俺の言う通りにやってりゃいいんだよ」と言い放ちます。

田原が木藤の求める結果を出すには、自身の心を殺すしかありません。

映画の後半で、木藤は田原に、生徒達へある報告をする事を強要します。

それは、田原の心を殺す事、理想を踏みにじるに等しい、生徒を同志と感じているであろう田原にとっては、非常に残酷な仕打ちです。

この木藤が非常に憎たらしいのは、言っている事は正論であるという点です。

全ては学科長として、数字的な結果が出せなかった田原に原因があり、田原は自身の無力さを痛感し苦しむしかありません。

現在の日本社会において、正しいのは結果が出せている木藤であり、田原は組織のお荷物としか見られておらず、異論を唱えても誰も聞かないでしょう。

現に「東京アートスクール」の事務員は、田原に高圧的な態度を取るようになっていました。

結果のみが重視され、心の無い者だけが評価されて意見が通る世の中は、病気の域に達していると思います。

理想と現実の間で、心が壊れ始めた田原の姿に、自身の姿を重ねる人も多いのではないでしょうか?

しかし、田原はある事がキッカケで、自身のやってきた事が、確実に実った瞬間を目の当たりにします。

それは、同志に救われた瞬間とも言えるでしょう。

本作はフィクションですが、日原進太郎監督の実体験を基に製作されている為、厳しい展開が続きます。

その中でも「人の心を動かせるのは、心を持った人間だけ」と感じさせてくれる内容で、人が心を込めて行う仕事の大切さを感じる作品でした。

まとめ

学校とは、教育かビジネスかをテーマに、日原進太郎監督の想いと信念が込められた作品ですが、田原と生徒達のやりとりは、ユーモラスに描かれています。

特に生徒の1人「もじゃ」役の吉川諒さんが自然と発する「いじられキャラ」オーラが素晴らしいです。

厳しい展開が続く後半で「もじゃ」の存在が、映画を優しい空気に変えています。

生徒と密にコミュニケーションを取っていた田原と、生徒に無関心で数字を重視する木藤。

どちらのタイプも、生徒が学ぶ場として経営をしていかなければならない専門学校には必要な存在で、要はバランスであり、片方の主張のみが通るべきではないのです。

人の心や理想は、組織が求める結果の為だけに殺さなければならないのか?組織を構成するのも人であるはず、本作のラストシーンを観賞しながら、そんな事を考えました。

日原監督自身「リスクを冒して製作しないといけない」と強い想いで製作した本作は、社会の理想と現実の間で苦しみ、もがき続ける人達へ、是非届いてほしい作品です。

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