薬物依存の息子を母は救えるのか…。
女優ジュリア・ロバーツとハリウッドの若手俳優ルーカス・ヘッジスの共演で話題の親子の人間ドラマ。
クリスマスの日に帰ってきた息子と、彼を支える母親を通して、社会問題となっている薬物中毒の恐ろしさを描いています。
映画『ベン・イズ・バック』の作品情報
(C)2018- BBP WEST BIB, LLC
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Ben Is Back
【監督】
ピーター・ヘッジズ
【キャスト】
ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジズ、コートニー・B・ヴァンス、キャスリン・ニュートン、デイヴィッド・ザルディバー
【作品概要】
近年アメリカで問題となっている鎮痛剤オピオイドの多用による薬物依存症。その被害で身を持ち崩し、施設に入った息子が帰ってきたことによって起きる一日の事件を描きます。
息子ベン役には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、『スリー・ビルボード』『レディ・バード』『ある少年の告白』など評価の高い作品への出演が続く若手ルーカス・ヘッジス。
その母親ホリーを演じるのはハリウッドのトップ女優ジュリア・ロバーツ。
監督はルーカスの実の父にして『ギルバート・グレイプ』や『アバウト・ア・ボーイ』の脚本を書くなど、普通ではなくても必死で生きる家族を一貫して描いてきたピーター・ヘッジス。
綺麗ごとですまないヘビーなドラマと役者の名演、そして薬物の恐ろしさがひしひしと伝わってくる作品です。
映画『ベン・イズ・バック』のあらすじとネタバレ
(C)2018- BBP WEST BIB, LLC
クリスマスイブ、教会でホリー・バーンズは子供達とクリスマスイベントのリハーサルをしていました。
その頃、ベン・バーンズは久しぶりに自宅に帰ってきます。
愛犬ポンスが彼を出迎えじゃれあっていると、ホリーと妹のアイヴィー、ホリーが再婚した黒人男性ニールの子供ふたりが車で帰ってきました。
ホリーは息子ベンを見て戸惑いつつ駆け寄り抱きしめます。
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しかしアイヴィーはうんざりした顔をしながら、義父ニールに連絡をしました。
ベンはかつて薬物依存で身を持ち崩し、更生施設に入っているはずでした。彼は支援者が家族と過ごす許可を得たと言いますが、アイヴィーは疑います。
家に帰るとベンは幼い弟妹たちと遊び始めます。ホリーはその間に家の中の薬物や宝石類を戸棚の奥に隠しました。
ニールは帰ってくるとベンに「誘惑の多い実家にはいないほうがいいと決めたはずだ」と言って困惑しています。
ベンはかつての自分とは違うし回復したと言いますが、アイヴィーはホリーが薬や宝石を隠したことをベンにその場でバラし信用されていないことを自覚させようとしました。
ホリーは誘惑を防ぐためと言いますが、ベンは怒り施設に戻ると家を出ます。
ホリーはベンを追いかけると、薬物検査を受けること、そしてずっとホリーの監視下で過ごすことを条件に一日だけ一緒に過ごすことを許可しました。
自宅で採尿し検査した結果、ベンは薬物をやっていないことが分かりホリーは一安心。
ベンが妹弟たちに自分で選んだプレゼントを買いたいと言い出し、ホリーはその気持ちを大事にしたいと彼の買い物に付き合います。
モールにやってくると、そこにはかつてベンが怪我をした時の主治医だった老人がいました。
元主治医は既に痴呆気味で彼らのことを覚えていませんでしたが、ホリーは彼に「あなたが安易にオピオイド鎮痛剤を処方したせいで息子は中毒になった。」と耳元で恨みを込めてささやきました。
ベンは昔自分に薬を流していた売人スペンサーに姿を見られて怯え出します。
支援者に連絡をしたあと、彼はホリーに頼んでドラッグのカウンセリング会に連れて行ってもらいました。
ベンは会合で77日間麻薬を断っていることを話したあと、その年の夏に過剰摂取で死にかけた事を話します。
自分が母のおかげで依存から脱せたと語るベンにみんなが拍手を送りました。
ベンはまだ生きているのはこのクリスマス休暇のためかもしれないが、また過ちを犯すかもしれないと語ります。
カウンセリング後に参加者同士で会話が行われている中、ベンはとある女性から話しかけられます。
彼は覚えていませんでしたが、ベンはその女性にかつて薬を横流ししたのでした。
謝るベンに彼女は明日には施設に戻るから最後にもう一回薬をやりたいと言ってきました。
その後、服を買いに来たホリーとベン。
試着室に入る時、ベンが勝手に鍵をかけたので血相を変えたホリーは店員を呼び出してドアを開けさせます。
ベンは麻薬の袋を渡し、先ほどの会合で中毒から抜け出せていない女性から取り上げたと説明しますが、ホリーは信じず激怒。
ホリーは彼を家系の人間が眠る墓地に連れて行き「麻薬でどうせ死ぬわ。どの墓に入りたいか言いなさい」と怒鳴りました。
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その後気まずい雰囲気で帰宅した2人。
クリスマスのイベントが近づいているため、家族6人善人で教会に向かいます。アイヴィーをはじめ妹弟が賛美歌を歌うのを聞いて、ベンは涙を流しました。
教会には少し前に薬物依存症で死んだマギーという少女の母が来ており、ホリーは彼女にお悔やみの言葉を言いますが、相手の反応はありませんでした。
一家が帰ってくると、家の中がひどく荒らされています。ベンは家中を調べ、不審者もおらず金目のものも取られていないと言いますが、愛犬ポンスがいなくなっていました。
ニールはベンが帰ってきたせいだと責めます。ベンは責任を感じたのか家を飛び出し、ホリーはそれを追いかけました。
自分を責めるベンにホリーは、一緒にポンスを探そうと説得します。ベンは車でかつての売人の知り合いなど心当たりのある先を回っていきます。
とある中年男性の家に来た際に、ベンはその男に家の中に連れ込まれそうになりました。
ホリーが誰なのか問いただすと、ベンは男は自分の高校の教師で、鎮痛剤を持っているので性行為と引き換えにもらっていたと告白。
ホリーはあまりの事実に車を降りて嘔吐しました。
ベンはその後、とある家まで車を走らせました。「僕を一番憎んでいる人だ」住人の男はベンの顔を見るなり追いかけてきて、車の助手席に石を投げつけてガラスを割ります。
逃げ出した後、ベンはホリーにさっきの男はマギーの父親だと明かしました。ベンは中毒時代にマギーに売人としてドラッグを売ったというのです。
道中でスペンサーを見つけたベンは彼に掴みかかります。
モールでベンを見たスペンサーが地元の人間に彼が帰ってきたことを触れ回っていたのです。彼はクレイトンという売人がポンスを連れて行ったと白状しました。
スペンサーはその後、隙をついて逃走。
ベンは薬物を買うためのクレイトンからの借金が残っており、ポンスを取り戻すためにもホリーに肩代わりしてほしいと言いました。
ホリーは戸惑いながらもATMからお金をできるだけ引き出し、さらに身に着けた宝石までベンに渡します。
クレイトンのところに金を返しに行くベンにホリーもついていくと言いますが、彼は危ないから来るなと拒絶します。
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彼は、本当は支援者からは家に帰るのは反対されたこと、麻薬はカウンセリング会の女性からもらったのではなく自分が隠し持っていたこと、マギーは自分のせいで死んだことを正直に話しました。
ホリーはそんな息子を強く抱きしめました。
結局ホリーもついてきますが、ガソリンスタンドで休憩して買い物をしている最中にベンは隙をついて1人で車でクレイトンのところへ向かってしまいます。
映画『ベン・イズ・バック』の感想と評価
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2019年4月12日に公開された、ティモシー・シャラメとスティーブ・カレルの共演による、同じくドラッグ中毒に苦しむ息子と親を描いた『ビューティフル・ボーイ』という作品もありました。
両作品に共通して重要なこととして描かれているのは、「ドラッグにはまってしまうのは自己責任ではない」ということです。
親の期待に応えたいというプレッシャーに負けたり、孤独を埋めたいという気持ちでつい薬物に手を出してしまったりというきっかけがあったり。
『ベン・イズ・バック』のように、本来は鎮痛剤であるオピオイドが中毒になってしまうという、処方された薬がきっかけで依存性になってしまうという、落とし穴も人生にはあるのです。
『ビューティフル・ボーイ』と『ベン・イズ・バック』の主人公の少年2人も心優しく真面目であるからこそ、魔が差したり悪い大人に漬け込まれて薬物地獄に巻き込まれていきます。
そうなってしまった時は、彼らをただ罰するのではなく、善悪の領域を超えてでも彼らに寄り添うことが大事だということも描いています。
薬物に嵌った人間が孤立すれば、また薬物に逃げるしか道はありません。
そうならないために中毒者を犯罪者ではなく、みんながサポートすべき患者として扱うというのが、近年の薬物に関する各国の対応の傾向です。
しかし『ベン・イズ・バック』は、単に中毒者に同情的なわけではない、真摯である意味フェアな映画です。
本作は息子を救おうとするホリーをただ佳き母親、良い人間として描いていません。
息子の薬物漬けにするきっかけを作った医師には、たとえ彼がボケていようと、かなりの悪態をついたり、息子を救うためになら他に依存性で悩んでいるスペンサーに薬物を平気で渡してしまうなど、決して褒められた人物ではありません。
しかし子どもを第一に想う親の業をより生々しく描くためには、こういうキャラ描写が必要でしょう。
依存症という意味ではホリーも息子ベンに依存しています。
ラストはベンの命は助かりますが、それがいい結果になるのかはわかりません。
ベンの依存症は治っていないのです。それでもとりあえず息子の命が助かってホッとするホリーを描いて、スパッと映画は終わります。
それは中毒の禁断症状が出ても、いったん薬物を摂取してホッとしている依存者とも重なる部分があるのではないでしょうか。
ベンもまっとうな人間になろうと努力していますが、すぐに変われるわけもなく誘惑に流されてしまいます。
そんな正しい人間ではない彼らが今後どうなるかはわかりません。ですが、現代のタイトル通りベンは戻ってきたのです。
戻ってからどうするかは、彼と周りの人がどうしたいかという、課題でもあるのです。
まとめ
(C)2018- BBP WEST BIB, LLC
本作品『ベン・イズ・バック』が画期的な点は、設定をクリスマスという特別な一日に限定している点です。
『ビューティフル・ボーイ』は8年にわたる親子の依存症との戦いを描き、麻薬中毒から抜け出すことの難しさを時間の長さで描いていましたが、それとは逆の手法です。
劇中ではベンが77日間薬物を断っていることが言及されますが、それが明日も続く保証はどこにもないということが、この長い長い一日の描写で伝わってきます。
依存症患者が一日を乗り切ることがどれだけ大変か、それを追体験できるだけでも必見の映画といえるかもしれません。