時代の荒波に巻き込まれながらも輝いたスターたちの物語
ハリウッドスターと言えば、セレブな暮らしに華やかな人生というイメージがあり、誰もが羨む存在です。
しかし、技術と流行の最先端にいる映画人たちは、常に時代の流れに飲み込まれるリスクも内包しており、だからこそ一瞬の輝きが美しく見えるのかもしれません。
今回は映画の転換期となった1920~1930年代のハリウッドを題材とした映画『バビロン』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『バビロン』の作品情報
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
【公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
Babylon
【監督】
デイミアン・チャゼル
【脚本】
デイミアン・チャゼル
【キャスト】
ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、トビー・マグワイア、サマラ・ウィーヴィング、オリヴィア・ワイルド
【作品概要】
『ラ・ラ・ランド』(2016)でアカデミー監督賞を受賞したデイミアン・チャゼルが手掛けた、1930年代を題材としたドラマ映画。
『ブレット・トレイン』(2022)のブラッド・ピットやNetflixドラマ『ナルコス:メキシコ編』(2021)に出演したディエゴ・カルバ、そして『スキャンダル』(2020)でアカデミー助演女優賞にノミネートしたマーゴット・ロビーが本作に参加しました。
映画『バビロン』のあらすじとネタバレ
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
1926年ロサンゼルス、メキシコ系アメリカ人のマニーは、映画スタジオ「キノスコープ」社の重役ウォラックの邸宅で小間使いとして働いていました。
ある夜、ウォラックの邸宅で開催されるパーティのために象を取り寄せ、ドラッグやセックスに溢れかえる会場内で来訪客の接客に当たり続けるマニーは、コネも実績もないにも関わらず、自身をスターと言い張り邸宅に入ろうとし警備員と揉め事を起こしているネリーを会場に招き入れます。
自由奔放なネリーとドラッグを吸ったマニーは、不遇な環境から一時的に離れることのできる映画を敬愛しており、映画に関わる仕事をしたいとネリーに語りました。
邸宅内の部屋で若い女優が薬物の過剰摂取で倒れ、対処を求められたマニーは、象の騒動に紛れ女優を運び出すことで、スキャンダルを避けることに成功。
パーティには出演作の多くが大ヒットを記録するスターのジャックや、「キノスコープ」お抱えの歌手フェイ、黒人トランペット奏者のシドニーも参加していました。
酒に酔いつぶれたジャックを家に送り届けたマニーは、彼に気に入られたことで翌日の映画撮影のアシスタントとして現場に誘われ、一方でネリーは薬物中毒で倒れた女優の代役として翌日の映画撮影に出演することになりました。
翌日、撮影現場で端役の1人である娼婦を演じたネリーは、艶やかさと自由に涙を流せる演技力で監督を感嘆させ、主役の座を奪い取るほどの活躍を見せつけます。
ジャック主演の歴史映画に参加したマニーは、日没までに壊れたカメラの代わりを手に入れることを命じられ、救急車を奪うという奇抜な手段で撮影を成功させました。
ネリーが出演した映画と彼女の演技は世界的なヒットを記録し、彼女は一躍スターの座に着くことになります。
1927年、ジャックに気に入られたマニーは彼の付き人として多くの撮影現場を体験。
無音声映画が定番だった世の中で、音を同時に再生することが可能となった「トーキー映画」の存在を知ったジャックに、初の長編のトーキー映画である『ジャズ・シンガー』のプレミアに参加することを命じられます。
『ジャズ・シンガー』での映画館の熱気と映像に度肝を抜かれたマニーは、ジャックに「時代が変わる」と報告するのでした。
1928年、映画の流行がトーキーに移り変わり始めたことで、ネリーも俳優として声を使った演技に挑みますが、独特な声とセリフを覚えることに苦戦し精神的に不安定になっていきます。
パーティの場で自身がバイセクシュアルであることに気づいたネリーは、フェイに助けられたことから関係を深め、ふたりは恋仲となりました。
一方、マニーはジャックと回った現場で吸収した知識を使い、黒人奏者のシドニーをメインとした音楽映画を作ることで高い評価を得ることになり、「キノスコープ」から重役待遇での迎え入れられました。
マニーは自由奔放な性格とトーキー映画での失敗が仇となり、映画界隈で干され始めているネリーをプロデュースすることで再度彼女をスターの座に導くことを決めます。
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映画『バビロン』の感想と評価
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
無声映画からトーキー映画へと切り替わる激動のハリウッド
1920年代、サウンドカメラの登場によって音声と映像の同期が用意となったことで、それまで無声での字幕が中心だった映画に「声」の概念が加わることになりました。
これによって演出の幅が大きく広がり、映画は新たな発展をしていくことになりましたが、同時に今までにない「声」や「セリフ」の芝居に俳優は苦戦を強いられます。
端正な顔立ちで無声映画時代に人気スターとなったジョン・ギルバートは、トーキー映画に移り変わったことで独特な声が批判を浴び、大作映画に出演する機会を減らしたまま失意の中で死亡しました。
映画『バビロン』は、当初はジョン・ギルバートを題材とした物語が計画されており、マーゴット・ロビーの演じたネリーとブラッド・ピットの演じたジャックは、彼の人生を分散し受け継いだ形の登場人物となっています。
技術の進歩を牽引しながらも、時代の変化に巻き込まれ散っていく人間の生涯を目の当たりにするような作品でした。
煌びやかかつ狂った世界を舞台に描かれる繁栄と衰退の物語
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
象を家に呼び、ドラッグやセックスに満ちた狂乱の宴で物語がスタートする本作。
人間の恥部が隠すことなく映し出され、薬物中毒や撮影中の事故死がシュールなギャグのように描かれる狂った倫理観であれど、登場人物たちは「映画作り」には真っ向から挑んでいます。
「古いもの」を切り離し「映画」を芸術として高めようともがく中で、いつしか自分自身が「古いもの」になっていること気づく絶望感。
一度頂点を掴んだ人間のみが味わう絶望と悲劇の物語が、自身が味わうことのできないような煌びやかな映像で描かれていました。
まとめ
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
華やかでキラキラした雰囲気を出しながらも、どこか残酷でそれでも夢を貰えた『ラ・ラ・ランド』を手がけたデイミアン・チャゼル。
しかし、彼がハリウッドを題材として製作した『バビロン』にはそんなキラキラした様子はなく、どこまでも「欲望」に狂った物語が展開されていました。
それでも映画『バビロン』は、長い人生を追体験したような疲労感のある鑑賞後に、またいろいろな映画を観たいと思わせてくれるような作品でした。