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Entry 2018/04/28
Update

高畑勲映画『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』の宮崎駿作品の原点とは

  • Writer :
  • 森谷秀

2018年4月5日に亡くなられた日本を代表するアニメーション監督、高畑勲

代表作『パンダコパンダ』、続編『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』が、新文芸坐にて5月1日~5月3日、ユジク阿佐ヶ谷にて5月26日~6月8日まで劇場公開されます。

映画『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』の作品概要


(C)TMS

【公開】
1973年(日本映画)

【監督】
高畑勲

【原案・脚本】
宮崎駿

【キャスト(声の出演)】
杉山佳寿子、熊倉一雄、丸山裕子、太田淑子、山田康雄、和田文雄、安原義人、松金よね子、弥永和子

【作品概要】
本作は宮崎駿原作・脚本を、高畑勲が監督を務めた『パンダコパンダ』(1973)の続編。宮崎、高畑の二人は本作も続投しています。

映画『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』のあらすじとネタバレ


(C)TMS

ミミ子・パパンダ・パンちゃんが暮らす竹林の家に、二人組の男が忍び込みます。彼らは「トラちゃん」を探しているようです。3人の姿、特にパパンダに怯えた男たちは逃げだしてしまいます。

気を取り直して、3人は食事。しかしパンちゃんの分のカレーが食べられてしまっています。パンちゃんがにおいを追うと、トラの子ども・トラちゃんが家に迷い込んでいました。仲良くなった3人とトラちゃん。

翌朝、ミミ子の買い物について行くパンちゃんとトラちゃん。ミミ子が目を離した隙に、トラちゃんとパンちゃんはどこかへ行ってしまいます。パンちゃんとトラちゃんを探すミミ子。ミミ子は友達からサーカス団が巡業でやってきた事を知ります。ミミ子はサーカス団の元へ。
トラちゃんはサーカス団からはぐれていたのです。家に忍び込んでいた男の正体はサーカス団の団長と団員でした。

パンちゃんがトラの檻に入ってしまったと聞いたミミ子は、トラの檻へ向かいます。トラはトラちゃんのお母さんでした。再会を喜ぶミミ子とパンちゃん、トラとトラちゃんの親子2組。

ミミ子は団長からサーカスのチケットを親子3人分貰います。トラちゃんに会う事を楽しみに待つパンちゃん。しかし、大雨が降って町は水に沈んでしまいます……。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』ネタバレ・結末の記載がございます。『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ミミ子たち3人は屋根に上って食事を楽しんでいましたが、トラちゃんから助けを求める手紙が届きます。3人はベッドを船にして、水中に取り残されたトラちゃんたちサーカス団の動物を助けに向かいます。

しかし、ミミ子たち3人は団長とは会えましたが、動物たちはいません。団長は洪水から避難させようと逃がした動物たちが汽車にまだ取り残されているといいます。

ミミ子たち3人は動物を助けるため、ベッドのボートを漕ぎだし、しばらく、水の町を進むと汽車を発見。パパンダが汽車の屋根を開けて、動物たちを助け出します。

パンとトラちゃんは汽車の運転席で遊んでいると、石炭の燃えカスが再び発火し汽車が動き出します。

汽車を止める方法がわからず、どんどん進みレールを通り過ぎて町の中に突入。団長たちの車で追跡しましたが、汽車はさらに進み車は壊れてしまいます。

汽車は市長の家に激突しそうになりますが、パパンダが何とか停止させることに成功。ミミ子たち危機一髪を乗り越え、町の人から歓声が上がります。

その後、パパンダやパンもサーカスに参加、大盛り上がりしました。

映画『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』の感想と評価


(C)TMS

前作以上にファンタジックな作風となった『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』。

前作『パンダコパンダ』は『アルプスの少女ハイジ』や『となりのトトロ』に繋がる要素が多々ある映画でした。

本作にもその後の宮崎駿作品に繋がる要素があります。

それは後半に登場する大雨による洪水で沈んだ町です。

水に沈んだ町のイメージはその後の宮崎駿作品に多く登場します。

具体的に上げると、『未来少年コナン』(1978)『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)『天空の城ラピュタ』(1986)『崖の上のポニョ』(2008)があります。

こうして見てみると、水没した町というイメージを宮崎駿がかなり好んでいることがわかります。

それが初めて登場したのが本作です

高畑勲、宮崎駿の他、作画監督の小田部羊一、大塚康生の二人も本作に続投しています。

一方、美術監督は福田尚朗から小林七郎に代わりました。

小林七郎は日本のアニメーションの美術(背景画)を語る上で、重要な人物です。

小林が美術監督を務めた作品はテレビアニメ『ど根性ガエル』(1972)『元祖天才バカボン』(1975)『魔法の天使クリィミーマミ』(1983)『のだめカンタービレ』(2006)など多数。

また、押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1985)、『天使のたまご』(1985)、幾原邦彦監督の『少女革命ウテナ』(1997)など、有名監督と組んだ作品も多数あります。

特に出崎統監督の仕事は有名です。『ガンバの冒険』(1975)、『劇場版エースをねらえ!』(1979)、『あしたのジョー2』(1981)の他、多くの作品で二人は組んでいます。

アニメーションというと、やはり、作画に目が行きがちですが、美術は作品全体の空気を左右する重要な要素です。

本作ではあたたかさを持った筆致の美術が印象的です。

小林は宮崎と『ルパン三世 カリオストロの城』で再び仕事をしますが、先述のようにこちらにも水没した町のイメージが登場します。

宮崎のイメージを具現化するのに、小林の表現力が一翼担っているのです。

本作には背景スタッフで男鹿和雄も参加しています。男鹿は小林の弟子にあたる美術監督。

『となりのトトロ』(1988)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)、『もののけ姫』(1997)『かぐや姫の物語』(2013)など、スタジオジブリ作品の美術で高い評価を得ています。

男鹿が高畑・宮崎両名と初めて仕事をしたのが本作です。

まとめ


(C)TMS
前作『パンダコパンダ』同様に、本作も高畑勲、宮崎駿のその後の作品に繋がる重要な作品です。

水没した町のイメージのほか、美術(背景画)に注視してみてはいかがでしょうか。

背景画がいかに作品の空気を描く上で大切かがわかると思います。


(C)TMS

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